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台風対策はできていますか? ハウスの強靭化特集

公開日:2020.9.23更新日 2020.9.18

近年、想定外の大雨・強風・積雪は農作物に大きな被害をもたらし、生産者にとって深刻な問題となっています。そこで今回はハウスの強靭化対策特集として、農研機構の森山英樹先生に、強風による被害のパターンから考えるハウスの強靭化について教えていただきます。

強風に強いハウスにするためのポイント

農研機構 森山英樹

ハウスにまつわる風の話

強風によるハウスの被害では、ハウスの構造、立地条件、周辺の土地利用状況等によって被災原因が異なり、多様な被災パターンを示します。構造物の周囲を風が流れていくとき、構造物の形状や配置、風向によって、その表面には向きや大きさが異なる風圧力が複雑に作用します。ハウスを外側から押すプラスの圧力、その逆のマイナスの圧力(それぞれ、正圧、負圧と呼ばれています)は、時刻や場所によって様々に変化します。これが、ハウスの強風対策を難しくしている原因の一つです。

図1は、風洞実験によって明らかになった、パイプハウス近傍の風の流れと風圧力の向きです。この図における風の向きは、ハウスの耐風強度が小さい間口方向に設定しています。最初に風が衝突するA棟の側面には、側面を室内側に押し倒そうとする正圧が作用します。この風は、ハウスが被覆材で覆われていると、当然ですがハウス室内を通り抜けることができません。A棟の屋根に沿ってハウス上方に流れようとします。そして、A棟の棟(むね:屋根の最も高い箇所)で屋根から剥離します。さながらジャンプするように剥離した風は、風下側の屋根や、隣接するB棟の上空を通り抜けていきます。剥離した流れの下部は、渦を巻いています。渦に接しているハウスの表面には、負圧が働いています。被覆材が外側に引っ張られるイメージです。

図1 ハウス近傍の風の流れと風圧力の向き(Moriyama et al. 2010)

以上が平均的な風の流れです。しかし、風はいつも同じ所を流れているわけではありません。時間によって上がったり下がったり変化します。このような流れを非定常流といいます。B棟の上空を通り過ぎる流れも、時折、B棟、もしくはさらに風下のハウスの屋根に衝突します。この現象は再付着と呼ばれています。B棟の屋根には、平均的には負圧が作用していますが、衝突の瞬間には正圧が生じます。これらの風の流れを抑えた上で、強風に比較的弱いパイプハウスを中心に、実際のハウスの被災パターンをみていきましょう。

強風によるハウスの主な被災パターン

①正圧によるハウス側面の変形

強風による最も典型的なハウスの被災は、風上側側面の転倒や部材の変形です。直径の小さなアーチパイプを骨組みに使用している地中押し込み式パイプハウスは、骨組み自体が変形します。アーチパイプが差し込まれている地盤の強度が小さいと、地中でパイプが転倒します。これらは、台風通過時に最も多くみられる被災パターンです。風洞実験のA棟に作用していた正圧(図1)が原因です。

一般的な連棟ハウスの場合は、柱や梁等の骨組み部材はアーチパイプよりも強い強度の資材を使っています。そのため、骨組みの変形よりも、柱-基礎、柱-梁接合部の破壊が発生しやすくなります。地盤が弱い場合は、基礎が地中で転倒します。

②負圧による構造の浮き上がりや被覆材の破断

地面に差し込んだアーチパイプや連棟ハウスのコンクリート基礎が地面から浮き上がる被害が生じます。このように構造物が上方あるいは側面に引っ張られる被害は、負圧によって生じています。パイプの地中差し込み部や基礎を浮き上がらせない充分な耐力を地盤が持っていれば、ハウスの被害を抑制できます。しかし、降雨が地中に浸み込んでいると、地中の毛管力が失われて土の強さが低下し、ハウスの浮き上がり被害が生じます。図1の風洞実験では、A棟の風下側、およびB棟が該当します。

被覆材をとめている固定具がはじけ飛んで、被覆材が剥がれる被害が発生することがあります。被覆材に傷があると、その箇所に力が集中して破断することもあります。これらも、負圧が原因の一つとなっている可能性があります。

③剥離した流れの落下による屋根の陥没

台風通過後、パイプハウス団地の奥の方、つまり周囲をパイプハウスに囲まれているハウスで、屋根が凹む被災パターンを示すことがあります。また、ハウスの近くに住宅地や土手がある場合にも、構造が上から押しつぶされるような、複雑な破壊形状になることがあります。風洞実験でB棟へ風が落下していたことを思い出してください。再付着は屋根を陥没させる力の原因です。

④ 内圧の急激な変化による浮き上がりや転倒

構造物の中で、出入り口扉や天窓等の可動部は、風圧力に対して比較的強度が小さいです。天窓は沢山の空気を出し入れする必要上、大きな風圧力が作用する箇所にあえて設置されています。このことは同時に、強風時に天窓が破壊されやすいという弱点にもなります。実際、台風襲来時に出入り口扉や天窓、パイプハウスの側窓巻き上げ部が破壊される事例があります。強風時にこれらの可動部が破壊されてハウス表面に大きな穴が開くと、ハウスの内圧が急激に変化してハウスの被災を助長します。

ハウスの強風対策

①防風ネットの設置

構造を強くする前に、風圧力を小さくすることを検討します。これは積雪荷重対策の時も同じです。屋根の雪を滑り落とすことができれば、お金を掛けてハウスをさらに強くする必要がなくなります。

ハウスに作用する風圧力を低減するためには、防風施設を使います。防風施設には防風林が含まれますが、すぐに設置できるのは防風ネットです。風圧力は風速の2乗に比例します。つまり、風速を10%低下させることができれば、風圧力は理論上19%減少します。重要なのは、風上側から見て、ハウスが防風ネットに充分に隠れるように防風ネットを配置することです。風は防風ネットを通りにくいので、防風ネットの左右や上部に集まってきます。これを縮流と言いますが、風速が速くなっているため、ハウスが防風ネットからはみ出していると、かえって被害が大きくなります。もう1点、留意したいことは、専用のネットを使用することです。防虫ネット等、目合いの細かいネットは風を遮断しすぎます。これらを防風ネットに転用すると、ネットの風下側で大きな風速の逆流が生じ、期待通りの効果を得られません。

②不用意な開口部をつくらない

密閉状態のハウスでも隙間は必ずあるため、内圧はやや負圧になっています。ところが、風上側に大きな開口部ができると、内圧は急激に正圧になり、パイプが地中から引き抜かれたり、棟の接合が外れたりします。風向に平行な箇所や風下側に開口部が現れると、内圧は逆に大きな負圧となります。

換気扇を設置しているハウスでは、強風時に換気扇を作動させて室内を負圧にすることで、ハウスの浮き上がり被害を抑えます。しかし、風向や風速は一定ではありませんので、側窓を開ける等、意図的につくった開口部で内圧を制御しようとするのは危険です。開口部にはかんぬき状の留め具を用いて、しっかりと固定することが基本です。

③ハウスの足元を強化

基礎や、その周囲の土の中の状態は、目で見ることが困難です。そのため、地盤の強度不足で被災する事例も少なくありません。ハウス建設前の地盤に凹凸があり、最初に地面を平面にならした場合は、盛土(もりど)に埋設した基礎に注意します。高いところを削った「切土」に対して、「盛土」は土の強さが小さく、基礎を支える力が不足する場合があります。また、雨を伴う台風の場合は、地中に雨水が浸透することで地中の毛管力が失われ、土の強度が低下します。ハウス周囲に手掘りでも構いませんので、排水溝を設けて下さい。防草シートを設置して、地中に水を浸み込ませないようにされている生産者もいらっしゃいます。いずれも、土を弱くしないための工夫です。

④細いパイプは避ける(断面係数の増加)

部材の変形を回避するため、使用するパイプはできる限り太くした方が有利です。パイプは、直径と肉厚で決定する断面係数が大きくなるほど、曲がりにくくなります。

新設ではなく、既存のパイプハウスを補強する場合に、アーチパイプを二重にする方法も昔から行われています。2組のパイプの距離を離すことによって、断面係数を大きくしています。注意しなければならないのは、この効果は間口方向の風の時に最大になるという点です。また、外側と内側のアーチパイプを固定する箇所が少ないと、固定箇所から離れたところでアーチパイプが座屈してしまい、期待した効果を得ることができません。ご自身で施工される場合は、その製品の仕様をメーカーや代理店にご確認ください。

⑤骨組み部材の移動を抑える

上記の①〜④を実施した上で、構造の補強を検討します。パイプハウスでは、間口方向の風に弱いです。その理由は、構造部材の”細長比”にあります。公園にある鉄棒を曲げることは容易ではありません。しかし鉄棒を竹ひごのように極端に細長くしたとします。これは人力で曲げることができます。パイプハウスも、間口方向の風からみると、風上側の地面から風下側の地面まで、細長いアーチパイプが空中を飛んでいます。橋脚のない橋梁が重量物に耐えられないのと同様、風圧力によってアーチパイプは曲がってしまいます。軒の移動によってハウスの破壊が開始しないように、軒の移動を室内側、もしくは外側から追加資材で補強します。再付着によって屋根に作用する正圧に対しては、室内側に梁やブレースを設置します。細長いパイプを短い区間に区切るように補強して下さい。

⑥接合部の回転を妨げる

連棟ハウスでは、接合部が弱いと、柱や梁の強度が大きくてもハウス構造が傾きます。この時、接合部自体の強度を上げることも大事ですが、接合部を回転させる力が作用しないようにすることも重要です。そのための部材が「筋交い」「ブレース」「方杖」と呼ばれる斜材です。斜材を使ってハウス構造の内部に「小さな三角形」をたくさんつくることをイメージして下さい。

⑦日常のメンテナンス

常にハウスを気に掛けることも大事な強風対策です。ボルトが緩んでいないか、部材が錆びていないか、水が溜まりやすいところはないか、地表面が沈下していないか、頻繁に変形する箇所がないか、日頃から点検することでそのハウスの弱点をカバーし、災害を未然に防ぐことができます。天窓が強風でとばされて隣接するハウスに二次被害が発生することがありますが、ラックアンドピニオンに取りつけたボルト1本でこれを回避できることもあります。是非、風の流れを頭に描きながら、ハウスを注意深く観察して下さい。

 

謝辞
現地調査に際しては、全国の生産者の皆さま、自治体、JA、農業共済組合、日本施設園芸協会、農林水産省他、多くの方々のご協力をいただいております。ここに記して深く感謝申し上げます。

引用文献
Moriyama et al. (2010): Wind tunnel study of the interaction of two or three side-by-side pipe-framed greenhouses on wind pressure coefficients, Transactions of the ASABE, 53(2), 585-592.

 

ハウスの強靭化に役立つ資機材

スノーレジスト 佐藤産業株式会社

積雪対策として有効なのが、アーチパイプの中央部に設置する中柱です。地面に建てた柱を針金などで峰直管に固定する方法は、降雪地帯でよく行われてきました。しかし、手間が掛かるため降雪地帯以外ではあまり普及が進んでいません。そこで、もっと簡単に中柱を設置できるように開発したのがスノーレジストです。スノーレジストは、3つの部品を鋼管パイプと組み合わせる耐雪支柱ユニットです。他の柱と違い伸縮が可能なので、使わない時は縮めて倉庫などに保管しておくことができます。

スノーレジストは3つの部品で簡単に設置・回収できる。
支柱は伸縮自在で、使用しない期間はコンパクトに収納できる。

<お問い合わせ>
佐藤産業株式会社
TEL:092-932-5431
http://www.satohnet.co.jp/products/reinforcement-toughness/344/

 

ハイテンパイプ STX 大和鋼管工業株式会社

この時期の日本はとても台風が多く、冬に近づくにつれて積雪の懸念も出てきます。先ずは、ハウスの強度を向上させ倒壊する事態を防ぐことが重要です。

STXは従来材に比べ2倍の強度を持つ高抗張力鋼管です。台風・積雪などの自然災害に強く、理想のハウスを実現します。

雪にもガッチリ強い!

外面は独自の全周溶融亜鉛メッキで、サビが出やすい溶射部分がありません。

STXの詳細は、カタログダウンロードサイトをお気軽にご利用ください。

<お問い合わせ>
大和鋼管工業株式会社
TEL 028-686-3581

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