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パイプか鉄骨か!? 第3の選択肢 タキイ486ハウス登場

公開日:2020.5.20 更新日: 2021.4.27

 

2018年9月、台風21号が直撃する直前に、「タキイ486 ハウ ス」を建てた長谷川さん。「いいハウスだなあと思います」。

大型台風や大雪などの異常気象により、園芸ハウスが倒壊する被害が増えている。
2019年8月、九州の北部3県を襲った大雨で、102件のハウスが倒壊。被害額は3.5億円にのぼる。9月の台風15号では23766件が倒壊し、被害額は476.8億円。10月の19号では6047件が倒壊、被害額は64.4億円。短期間に甚大な被害が出てしまった(農林水産省「災害に関する情報」2020120日現在より)。

今後も自然災害への備えは不可欠だが、ハウスを新設、もしくは建て替える際、何を選べばよいのだろう?
これまで生産者は「アーチ型のパイプハウス」か「三角屋根の鉄骨ハウス」の二者択一を迫られていた。
前者は強風や大雪に弱く、後者は強靭な反面、建設コストが高いのが難点である。

いつ・どこが・どんな自然災害に見舞われるかわからない今、建設コストを抑えた強度の高いハウスが求められている。
そこでタキイ種苗株式会社は「タキイ486ハウス」を開発。各地で建設が進んでいる。

耐候性ハウスとして、初の486ハウスを導入

2019年12月、関西でいち早くこのハウスを導入した和歌山県紀の川市の長谷川博さんを訪ねた。

「こちらが486ハウスです。促成栽培のナスを作っています」

単棟を基本に開発された「タキイ486 ハウス」だが、長谷川さんたっての希望で2連棟に。
就農して8年。 水ナスを 中心に栽培してきたが、 新しいハウスで促成の「千両ナス」を栽培。

間口10m×奥行45m×軒高2.3mのハウスを連結させた2連棟。なかでは長卵形の「千両ナス」が瑞々しい実をつけ、出荷が始まっていた。
パイプハウスとしては珍しい三角屋根で天井が高く、室内はとても明るい。部材に使われているパイプの口径が48.66mmと太いのが特徴で、商品名の由来になっている。
屋根を支えるパイプが2本組になっていて、地面から深さ1mに埋設。さらに地中でもパイプで連結され、がっちり土台を支えている。こうして風速50m/秒、積雪50kg/m²に耐える強度を実現させた(タキイ486ハウス標準サイズ、間口8m×軒高3m、単棟の場合)。

タキイ486の標準サイズは間口8m、軒高3m。このサイズを超える場合はしかるべき補強が必要。被覆資材は自由に選択できる。
長谷川さん仕様の486ハウス。

 

長谷川さんは東京農業大学を卒業後、 地元JAに勤務。8年前に就農し、これまで露地でトウモロコシやブロッコリー、口径31.8mmのパイプハウスで、水ナスを中心に栽培してきた。

ハウスの増設を検討していた一昨年の春、「こんなんあるで」と提案したのは、松下聡大さんだった。隣の岩出市で60年以上続く松下種苗店の3代目。長谷川さんとは高校時代の同級生。同じハンドボール部に所属していた仲でもある。

「ハウス486」を提案した松下種苗店代表の松下聡大さん(右) は、高校時代の同級生。

和歌山県はもともと台風の多い地域だが、既存のハウスは19.11mm25.4mm等、口径の細いパイプのものが多く、大型台風の強風には持ち堪えられない。できれば鉄骨ハウスを建てたいが、資金的に厳しい。当時、和歌山県が奨励していた「耐候性ハウス」向けの補助金は、パイプハウス限定だったため、鉄骨ハウスは対象外。
それでもパイプの太さに制限はなかったので、長谷川さんは松下さんに相談して、前例のない「486ハウス」を建てることに。建設コストはパイプと鉄骨ハウスの中間、7万円/坪が目安(規模、仕様等により価格は異なる)。
松下さん自身、「実際自分でやってみなければ、自信を持って顧客に勧められない」と、自社の敷地に単棟ハウスを建てメロンを栽培。こうして2人は「これまで見たこともないハウス」の建設に取り組み始めた。

大型台風に耐え省エネ効果も発揮

工事が始まったのは、2018年夏。どうしてもナスの植えつけに間に合わせたかった。
ところが約2ヵ月かけて完成した2週間後の9月、関西地方を大型の台風 号が襲った。周囲で多くのハウスが被災するなかで、真新しい「486ハウス」は持ち堪えたが、被害はゼロとはいえなかった。完成直後で地盤がしっかり固まっていなかったこともあり、グラグラと動いてしまった部分が見られた。

「補強材を足したり、留め具をしっかり固 定したりして、強度を上げました」

柱となるパイプの内側に内柱 パイプ、斜めに補強する方杖 パイプを設置して、強度を高めている。
棟と棟の連結部。パイプ2本を組み合わせた支柱を入れ、さらに地中でもパイプで固定している。

それまで「486ハウス」は、単棟だけだったが、長谷川さんは「2連棟」を希望した。このハウスは隙間が少なく気密性が高いので、温湿度を一定に保ちやすい。そのため冬場、環境制御型の締め切った環境で、ナスを栽培するには有効だと考えた。

「この地域では冬場ナスを作る人は、ほとんどいません。それでもポピュラー作物なので、安定した価格で売れるはず」と考えている。

軒高 2.3 mで大容量 。建設コストは「補強型なパイプハウスと鉄骨ハウスの中間」が目安。

さらに軒が高く、栽培空間が広いので、作物の誘引空間が確保できる。多層カーテンや循環扇が設置しやすいなど、栽培上のメリットも大きい。

軒高が高いので、多層カーテンや循環扇等が設置しやすく、天井のパイプの間 隔は80cmと広いので、採光も良い。

さらに長谷川さんがこだわったのは、高性能フッ素樹脂フィルムのエフクリーン®。天井にも壁面にもこれを張っている。

壁面にもエフクリーン®を使用。「30年もつとのことなので、張り替えずにずっと使い続けたい」。

POフィルムは56年で張り替える必要がありますが、エフクリーン®を使えばハウス自体の強度が上がり、風を受けても破れない。30年もつともいわれているので、このまま張り替えず使い続けます」

パイプの間隔は80cm。その分明るく採光性も高い。長谷川さんは別の4連棟のパイプハウスでナスを栽培しているが、

486ハウスは、既存のハウスに比べると暖房を入れる回数が少ないんです」

年末から月にかけて使った重油の量は5.54.5ぐらいの比率で、「486ハウス」のほうが少ない。エフクリーン®は、丈夫で長持ちする上、省エネ効果も高いことがわかった。

状況と作物で、必要なハウスのタイプは変わる

一方、松下さんが建てた単棟の「486 ハウス」もまた、台風が来ても無事だった。
さらに、実際に作物を栽培してわかったのは、
トマトやナス等、背の高い作物や、イチゴの高設栽培にも適していることもわかりました」

一方、台風襲来後、長谷川さんの下には、これからどんなハウスを建てればよいか、若手農家に相談されることもある。

「長野、千葉の被害を見たら、安易に318のパイプハウスを建てろとは言えなくなりました。葉物を作るなら大型ハウスはいらん。
トマト、ナス、キュウリを作り続けるなら鉄骨ハウス建ててしまえ! それが無理なら486ハウスもあるぞ」

作り手の状況や作物によってアドバイスは変わる。

そんな長谷川さんは以前からモニタリングシステム「みどりクラウド」を導入して、ハウス内のデータを可視化。さらに「486ハウス」には自作のセンサーを設置して栽培に活用している。

「特に有効なのは、目に見えないCO2濃度と飽差。飽差に急激な変化があると、植物は萎れるのがわかります

こうしたデータの蓄積が、生産性や作 業効率アップにつながる。建設コストを抑え、台風に負けない強度を実現。気密性が高く、環境制御型の栽培も可能。
そんな「第3の選択肢」となるハウスが現れた。

 

取材協力/長谷川博
松下種苗店 松下聡大
タキイ種苗株式会社
取材・文/三好かやの 撮影/杉村秀樹
「農耕と園藝」2020春号より転載・一部改編

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