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第71回 植物にとって雨とはなにか~「リーチング」の意味

公開日:2020.6.19

『作物にとって雨とは何か―「濡れ』の生態学―』

[著者]木村和義
[発行]農文協
[入手の難易度]易

ときどき、植物の葉はなんでこんなにきれいなのかなと思うことがある。動かないはずなのに、ホコリだらけで汚れた葉っぱの植物は少ないよね。あれはどうなっているんだろう。植物が自ら洗い流しているのではないかと思うくらい不思議に思う。花や緑の仕事を始めてからこれまで、いろんな先輩方に、「植物を外に出して夜露にあてるのは大事だよ」とよく言われた。大宮の盆栽美術館で職員の方に盆栽の展示について話をうかがったときにも、毎日閉館後に室内から出して、夜露にあてるようにしていると聞いた覚えがある。盆栽の室内飾りでは日光の強さが外と室内ではものすごく差があるため調子を悪くしやすいので、毎日、開館時間が終われば戸外に出し、一つの盆栽の室内展示を短期間とし、随時入れ替えていくという。植物の体表面からの水分吸収に関して、本連載では第36回(https://karuchibe.jp/read/6918/)で野菜の「50℃洗い」をやっているので、そちらも参照を。

さて、きょうは雨が作物にどんな影響を与えているのか、あるいは、葉が濡れたときに何が起きるのか、というような話をしたい。とてもシンプルなテーマだが、今回紹介する「作物にとって雨とは何か」以外に類書がほとんどみられない。土中に沁み込んだ雨の量と生育への影響といった研究はあるそうだが、濡れることそのものの影響が著者のテーマなのだ。類似の研究が少ない理由について、著者の木村和義は、土と根しか考えてこなかった時代が長かった、また、いくつもの領域にまたがって広く知見を集め、地道な観察と研究を続ける必要があるからだと書いている。問いはシンプルなのに、答えようとすると難しい。気象学(微細気象、農業気象)、作物学、園芸学、植物生理学といった諸学問分野の境界領域にあって、とても学際的なテーマなのだそうだ。実際、実験を行うにも条件を整えるのが難しくわからないことも多い。たとえば、一口に「雨に濡れる」と言うが、葉が雨に濡れても地面はそのままの場合、葉は濡れないで地面だけが濡れる場合(降った雨が流れてきて地面が濡れる場合)、水浸しになって地面も作物も水の中に入ってしまう場合(水没するほどの大雨、洪水)などについて、作物(植物)がどう変化するか調べるといったふうに緻密に調べている。こうした地道な研究によっていろいろなことが分かってきているが、それがとても興味深いのだ。

ゴボウの畑で

まず、ひとつ植物を見ておこう。(図1)から(図3)は、ゴボウの様子だ。昨年、一年かけて友人の畑を手伝った。ゴボウは春に播種をして一年栽培すると冬には地上部が枯れてしまうが、翌年の夏がくる頃に2mにもなる花茎を伸ばして結実する。いわゆる多年草なのだけど、花が咲くと個体は枯死するので、「一回結実性植物」、「一稔性植物」というそうだ。1年目で発芽し、2年目に成長、3年目に花を咲かせて枯れるものや、もっと長い年月にわたって花をつけずに生長し、最後に開花して枯れるものも少なくない。よくニュースになるタケやリュウゼツランがそれだ。

ゴボウは、タネを播いたその年内に根を収穫し食用にするので、アザミのような花や触ると痛いくらいの果実はかんたんに見ることはできないようだ。畑を見ると、とにかく巨大な葉が目立つ。葉の質はやや厚めで革のような質感があり裏面には柔らかな白い産毛が密生する。葉の縁はゆるやかに波打っておりおおらかな感じがする(図1)。この大きな葉を支えるためなのか葉脈もしっかりしている。深い溝が刻まれたような立体的な葉脈だ。面白いのは葉の付け根から茎にかけて中心と左右の3方向を軸に力強く葉を支えている。(図2)。これがそのまま茎に接続しており、雨樋のような大きなチューブ上の溝を根本まで引き込んでいる。本連載の第50回(https://karuchibe.jp/read/8402/)でハスをやったが、あのハスも水滴が葉の中央に集まるようになっている。ハスにお酒をついで茎から吸って飲むという行事があるように、葉に集まった水は茎を通じて植物内部と連携している。南米に生息するブロメリアの仲間でも葉の間に水を貯める仕組みがあるものがあって、「タンク・ブロメリア」などと言われている。この小さな水たまりの中だけで子育てする世界最小クラスの珍しいカエル(ヤドクガエルの仲間)がいて、よくテレビ番組で紹介されている。

ゴボウの葉は中心部から次々に立ち上がってくるのだが、中心の茎は力強く上を向く。これが、秋から冬になるとだんだんと地面に近く倒れるようになり、霜が降りるころべったりと地面に降りてくる。植物によっては、新芽が出てくる場所の上に葉をかぶせるように枯れ、冬に寒さから株を守ろうとするものもある(ハマユウとか)が、ゴボウの場合は中心部がわりとよく見える。年を越して4月、5月になると新芽をぐんぐんと伸ばし、再び大きな葉を広げている。

(図1)ゴボウ畑。葉は巨大で縁が波打っている。
(図2)葉脈と「樋」のようになった葉柄。
(図3)葉面についた水滴は葉柄を流れて株元に集まる。

藤原平司の『図説 野菜の生育』(2005)によると、ゴボウはダイコンとならび、日本人にとってとても親しみ深く大切な野菜だという。米を食べる人間にとって田のそばに植えられて、繊維質の多い野菜は白米食に欠かせないおかずになった。ゴボウの大きな葉はお日さまをまともに受けるようになっている。ゴボウの株が元気なら、その大きな葉の縁をV字に上に向けてきれいに配置する。ゴボウの葉の付け根を藤原は「力脈」と呼ぶ。この力脈の開度によって大きな葉が支えられているのだが、葉齢が古くなると逆V字状に葉脚から垂れはじめる(外側の縁のほうが低くなる)。若くて健全な葉は水をどんどん株元に流し去るのだが、古い葉は養分を周囲にポタポタと落としながら下葉に当てている。凹凸のはっきりした葉脈や波打った縁の形状は、上手に養分を散布するようになっているのだ。このようにゴボウの古い葉は次々に老化していくのだが、カリなどの養分を株の周辺に落とし、それを再び根から吸収しているのだという。そうやってゴボウは長期の栽培に耐えている。

濡れやすい葉、濡れにくい葉

植物の葉っぱには濡れやすいものとそうでないものがある。ゴボウのように平たく展開し、水を流しやすくしている葉もあれば、水を弾く葉もある。イネのように細く立っているものもある。こうした違いは僕らも経験的に知っている。雨に強い植物もあるし弱いのもある。花屋では、水やりの時にとにかく花に水がかからないようにやるのが基本だと教わる。「ひと雨で作物の顔が変わる」という言葉のように、植物の葉は濡れると表面のワックスが溶け出し、葉だけでなく植物全体からさまざまな物質が流亡する。雨粒の大きさによって葉が打撃されることでも影響はあるという(ヒョウが降ると完全に穴があいてしまいますが)。

葉の濡れ具合は、葉面ワックスの量や化学組成、微細構造によって変わってくる。その植物の種や品種が持っているパフォーマンスのほかに、葉齢や葉の状態によって変わる、ということだ。

「リーチング」という現象

木村和義が書いたこの本の価値は「リーチング(leaching)」という概念を示したことだろう。リーチ(leach)は、浸出するとか濾し取るという意味。土壌肥料学でも使われる用語で畑から養分が流出していくことなどを表す。この本で木村はリーチングを「植物体からの物質の流亡」と訳している。切り花を花瓶に入れると花瓶の水が汚れる、あるいは、野菜を煮ると「アク」が出る。リーチングという用語は、当初は「水に浸した葉から無機養分が溶出すること」という意味で使われた。その後、「雨、露、霧、ミストその他水溶液などによる植物体のいろいろの部分からの諸物質の流亡現象」をさす広い意味に使われている。

・1804年…ド・ソシュールは葉に接触した水は、アルカリ塩を含むことを観察し葉から物質が流亡することを示した

・1883年…フォン・ホマイヤーは樹木の下草がよく生育する例から、樹木の葉から栄養分が流出した結果であると推察した

・1892年…ウェイマーは雨の後、植物の塩類濃度が減少することを観察し、これは塩類が流亡した結果であると考えた

その後も多くの研究者が、いろいろな物質が葉から雨によって流亡することを報告したのだが、一般にはそれほど関心を引かない問題としてかたづけられてしまった。

一般に、植物の体表はクチクラ層に覆われているから、水やその他の物質は漏れ出さない(透過が困難)と思われている。ところがだ、実際には植物の体内にある物質が雨によって葉から流亡し、また逆に植物体内に侵入することを多くの学者が認めている。「50℃洗い」の回で述べたように、切花の水揚げには植物全体を水につける方法があるし、カラーやダリアなどの日持ちを良くするために花の表面に薬剤をミストしたりする。栽培でも薬剤の「葉面散布」というのが普通に行われている。研究者たちは、このような葉の表面からの物質の出入りが植物体の状態に思ったよりも大きな変化をもたらしていることに気がついた。こうした研究から、実際の作物生産の現場(露地栽培など)では、雨が水分を供給するだけではない重要な意味を持つことがわかってきたのだ。

戦後間もない1950年代になるとさまざまな分析技術の進歩によりリーチング現象に関する研究は大きな進歩を見せた。この研究の第一人者とされるアメリカのテューキーは、葉は光合成、蒸散などの働きを行っているだけでなく、水や栄養分の吸収、流亡なども葉面で行っており、栄養バランスを保つダイナミックな役割を果していると指摘した。よく植物は「小さな化学工場」だと言われる。植物から「溶け出した」物質は実に様々で植物によっても違いがあるというが、1haの畑に植えられたリンゴの葉から年間約800kgもの炭水化物、アミノ酸が流亡したという研究もあるそうだ。植物から見ると「損失」のように思える現象だが、地面に降りた無機、有機のさまざまな物質は、土の中にいる無数の微生物の栄養となって土を育て、ふたたび植物の生育に関係をもってくるのである。

・リーチングは植物の種類によって程度が異なっている。また同じ植物でも葉齢、栄養条件、生理活性その他によっても著しく異なる。たとえば呼吸が阻害されたとき、乾燥したときなどにはリーチングが促進される。

・葉以外の部位からもリーチングは起きる。茎、枝、花、種子などからも流亡する。収穫直前のイチゴの場合、果実を24時間水につけると糖の6%、イチゴ独特の芳香成分、アントシアン色素などがかなり流失する。そのため、露地栽培では、収穫前に雨に降られると甘みがなく薄味になってしまうという。

・成熟葉は若い葉よりもリーチングされやすい。葉面のワックスが減って防水性が低下し濡れやすくなるからではないか。農薬を散布する時に展着剤を使うのもここに関係している。

・雨で濡れた葉からさまざまな物質が流亡したとき、その不足した分を植物は補充するのだろうか。これは、補充されるそうだ。植物の代謝に関係するリンなどは流失分を直ちに補充するような働きが見られる。こうした働きはカルシウムなどを根から吸収し茎葉への移動を促進する。一方で、長雨が続くような場合は流亡のほうが多く、他の部位からの物質移動、供給が間に合わなくなり植物の生長や生産が阻害される。

・雨によって植物体が濡れることのないガラス温室などでの栽培では、ガラス室で生育した植物は雨の降る野外で育ったものと比較して種々の物質の含有量が高くなる。

・障害を受けた葉では、リーチングが増大する。日当たりのいい場所と悪い場所を比べると日当たりのいい所で生育した植物のほうがリーチングは少ない。ワックスやクチクラ層の発達の違いが要因になっている。

・葉面微生物の活性化……葉面には細菌、カビなど数多くの微生物が生活している。葉面ワックスの減少やリーチングにともなって葉内より種々の物質がにじみ出てくる。これらの葉面状態の変化は微生物の数や活動に大いに影響する。雨実際に測定された例では、夜間葉面に露ができると、日中葉面に析出した物質を溶解し、また、光合成による同化産物や代謝産物を葉内から溶出するので、微生物の活動に好都合になり、盛んに増殖するようになる。そのため、朝方ぬれているときの病原細菌数は、日中乾いている葉の1000倍に達するという。キュウリの斑点細菌病の例では、細菌数が1日1mlあたり1,000個から1億個(!)の増減を繰り返している。また、降雨中に病葉から落ちる水滴中には多数の病原細菌が含まれている。

・(土の中の水分量と生理)……植物にとって用土中に水分があることは大事だが、その水分が多過ぎると酸素不足になって根が効率的な有酸素呼吸ができず、非効率な無酸素呼吸をするために根に蓄えた養分の炭水化物やたんぱく質を大量に消費してしまう。しばらく雨に濡れたあと雨が止むと、葉の表面から急激に水分がなくなり、一方で根の方が酸素不足となり、土中から水分を吸収して葉まで押し上げるエネルギーが不足する。そのため葉面では水分が足りなくなって葉がしおれてしまい、ひどい場合には枯れてしまう(長雨のあと、水はたっぷりあるのに葉が枯れる)など、植物のダイナミックな姿が説明されている。

毎日のように植物に水をやりながら、葉の様子を見ている。この本はとても平易に植物の生理生態を説明する。ぼくらが経験として分かっていると思い込んでいることについて、裏付けをしてくれているとも言えるし、ぜんぜんわかっていなかったなあと気づかされることがたくさんある良書だと思う。

参考
論文「雨と植物(リーチングを中心として)」木村和義 1978
https://www.jstage.jst.go.jp/article/agrmet1943/34/1/34_1_23/_pdf/-char/en

『新装版 図説 野菜の生育―本物の姿を知る』 藤原平司 農文協 2005
『雨の科学』 武田喬男 講談社 2019
『葉っぱはなぜこんな形なのか? 植物の生きる戦略と森の生態系を考える』林将之 講談社 2019

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著者プロフィール

松山誠(まつやま・まこと)
1962年鹿児島県出身。国立科学博物館で勤務後、花の世界へ。生産者、仲卸、花店などで勤務。後に輸入会社にてニュースレターなどを配信した。現在、花業界の生きた歴史を調査する「花のクロノジスト」として活動中。

 

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