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【果実】正月飾りについて 2020年12月

公開日:2020.12.28

12月も中頃になってくると、量販店の売場にも正月商材が次々と並び始める。

初めはクリスマスの売場に押されて細々と、クリスマスが終わると一気に正月売場が拡大されて年の瀬を彩る。おせちの定番といえば煮しめに使うレンコン、ゴボウ、サトイモや栗きんとんに使うサツマイモなどに加え、この時期ならではのユリ根やクワイ、大阪では雑煮に使う金時ニンジンと雑煮ダイコンなどが売場を賑やかす。

新しい年を迎えるのに縁起の良い料理や食材が利用されるのだが、それぞれにいわれがあることはご存じの方も多いだろう。レンコンは穴が空いているから「先が見通せるように」、サトイモは土中でたくさん子芋をつけるので「子宝・子孫繁栄」、ユリ根は鱗茎が花びらのように重なり合っていることから「歳を重ねる」「和合(仲が良いこと)」に通じるとされ、クワイは芽が出ているので「めでたい」「立身出世」を意味するなど食材の形状からたとえられるものが多く利用される。

また、レンコン、栗きんとん、金時ニンジンなどは、「ん」がたくさんついているので「運がつく」という語呂合わせがある。他にも金色は小判を連想させるので縁起の良い色とされ、栗きんとんやキンカン、数の子などが利用されたり、紅白も縁起の良い色なので、ダイコンと金時ニンジンは紅白なますや雑煮に利用されるなど色にまつわるものも多い。

大阪で雑煮に入れる雑煮ダイコンと金時ニンジンは細めのものが用いられるのだが、その理由は輪切りにして用いるためで、「円=縁」を切らないようにという意味がある。このような語呂合わせも縁起物としてよく用いられるが、その最たるものが正月飾りの鏡餅だろう。

鏡餅は平安時代から続いている日本の風習で、「大年神」という正月に各家庭を訪れるという穀物の神様を迎えるためのお供え物である。日本神道の三種の神器を表しており、丸い餅が「八咫鏡(やたのかがみ)」、串柿が「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」、丸い柑橘が「八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)」を模して飾られる。

カキは「嘉来」という当て字から「幸せが訪れる」ことを意味しており、この並び方にも縁起がある。10個の干し柿を外側が2つずつ、中が6つになるように間をあけて串に刺すのだが、「いつもニコニコ(2個2個)中むつ(中6つ)まじく、共に白髪(白粉)が生えるまで」の語呂合わせとなっている。勾玉を模しているのはダイダイという柑橘で「代々栄える」ことを意味しているのだが、実はこの語呂合わせ、そもそも「ダイダイ」の語源が「代々栄える」なのである。

ダイダイの実は、冬になると緑色から黄熟していわゆる「だいだい色」に色づくのだが、収穫せずに置いておくとそのまま木になり続け、翌年の夏にはなんと再び緑色に戻る。そして、また冬が来るとだいだい色に色づく、ということを2~3年は繰り返す。前の年の実がなった状態で新しい実もつけるため、1本の木に2~3世代の実がなっていることになる。これが代々栄えることを連想させるため「ダイダイ」という名前が付けられたのだ。

しかしダイダイの実は酸味と苦みが強く、ポン酢やママレードの材料に使われる以外にほとんど用途がなく、今ではほとんど流通しなくなった。代わりに使われるようになったのが「葉付きミカン」だ。葉付きミカンは温州ミカンとは違い、温州ミカンが登場するまでは広く栽培され食用にされてきた「小ミカン」と呼ばれる品種で、紀州ミカンとも呼ばれている。

温州ミカンが広く栽培されるようになってからはこちらも流通が減り、今では正月用の飾りとして栽培されるものがほとんどという状況だ。ダイダイも葉付きのまま飾るのだが、なぜ葉付きなのかというとこれにも縁起があって、実が「葉」というよりも「枝」についたままの状態を模している。

ダイダイがずっと木になり続けていることをイメージしているようだが、「木から落ちない」ということが縁起が良いという意味合いもあるようだ。

最近は正月を迎える風習も変化してきており、切餅が入ったプラスチックの鏡餅を飾るだけの家庭も多く、そもそも正月飾りなどしないという家庭も増えている。当然、葉付きミカンも串柿も年々消費は減っており、それに合わせて産地からの入荷量も減っている。

文化的な風習が変化していくことは仕方のないことなのかもしれないが、1000年以上も続いてきた日本の風習が消えてしまうのは寂しい気もする。なんとか形を変えてでも残していって欲しい。

ちなみに、市場流通している串柿は「非食用」で消費税は10%、葉付きミカンはというと産地によって異なるため、8%のものと10%のものが混在しており処理がややこしい。

著者プロフィール

新開茂樹(しんかい・しげき)
大阪の中央卸売市場の青果卸会社で、野菜や果物を中心に食に関する情報を取り扱っている。
マーケティングやイベントの企画・運営、食育事業や生産者の栽培技術支援等も手掛け、講演や業界誌紙の執筆も多数。

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