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【果実】キンカンについて

公開日:2021.2.24

織田信長が明智光秀を罵って「金柑頭」というあだ名をつけ、ことあるごとに頭を扇子で打ったことがきっかけで、光秀が本能寺の変に踏み切ったという話があるが、これは司馬遼太郎の「国盗り物語」に初めて登場した創作話らしい。
しかし、禿げ頭を「金柑頭」とたとえるのは一般的にもあったようで、キンカンの独特の艶と形状が頭髪が1本もない禿げ頭を連想させたからであろう。

いま一般的に食べられているキンカンは「寧波(ニンポウ)」と呼ばれる品種で、江戸時代後期に日本へ伝わった。中国大陸から来た清の商船が現在の静岡県の遠州灘沖で遭難してしまい、清水港に寄港した際に御礼として送られたのが砂糖漬けのキンカンだったという。その実から採った種子を播いて育て、それが日本中に伝わっていった。
ということは、やはり戦国時代にはまだキンカンはなかったから、光秀と信長の話が作り話ということは史実からも明らかになる。

かと思えば、実はキンカンそのものは鎌倉時代には日本に存在していたという記録がある。
寧波とは違う品種が同じく中国大陸から伝わり、主に薬用として利用されていたようだ。昔から咳やのどの痛みに効くといわれてきたが、実際にキンカンに含まれる成分には、抗アレルギー作用や抗酸化性をもつヘスペリジン(ビタミンP)や、抗アレルギー作用を持ち免疫力を高めるナリンギン等がある。ビタミンCや有機酸の含有量も多く、確かに咳やのどの痛み、花粉症にも効果が期待でき、風邪の予防にも持ってこいの果実だといえる。

キンカンの果肉は酸味が高く、レモンやユズ、スダチ等と同じ「高酸柑橘」と呼ばれるグループに入るのだが、果皮の甘みは強く、なんとリンゴよりも糖度が高いのだ。果皮もやわらかいため、果皮ごと果肉も一緒に食べることで酸味と甘みが絶妙なバランスとなりクセになる味わいとなる。
いま一般的に果物として利用されているキンカンはほとんどが寧波キンカンで、果皮部分の甘みがキンカン属のなかで最も強い。薬用として用いてこられた品種も現在でも栽培されており、苦味の強い長キンカン、酸味の強い丸キンカン等がある。

キンカンはその名前が示す通り、黄金色に輝く光沢があるので「金」を連想させ、またたくさんの実がなることから子孫繁栄の象徴と考えられ、昔から縁起が良いとされてきた。
中国や中華系の国々では、旧正月にあたる春節には鉢植えのキンカンを家の前に飾る風習がある。いまでも広州や香港等では、春節の前になると大きな公園等に特設会場が設けられて、花を中心とした正月商材を販売する「花市」という市場が開催され、鉢植えのキンカンも所狭しと並べられる。

香港の花市で売られているところを撮影。

中国語では「金桔」と書き、その「桔」の発音が「吉」と同じであることからも縁起物とされてきた。
日本では「運(=ん)」がたくさんつくということで縁起物とされ、冬至や正月等に食べると運がよくなるといわれて利用されてきた。

産地としては宮崎県のシェアが高く、大阪の市場に入荷してくるものもほとんどが宮崎県産だ。
樹上で完熟させてから収穫する完熟キンカンがブランド化されており、宮崎県の「たまたま」、鹿児島県の「春姫」等がある。

時期としては11月頃からスタートし、1月から2月にかけてピークを迎えるが、この頃が春節と重なっており、香港にも輸出実績がある。

柑橘のなかでは特殊な部類に入るが、コアなファンの多い果物でもあり、風邪が流行ったり花粉症が出始めたりする時期に出回るもので咳やのどの痛みに効くイメージも根付いているため、根強い人気がある。
普段食べないという方も、運気を上昇させるためにも1年に1度くらいは食べてみてはどうだろう。

著者プロフィール

新開茂樹(しんかい・しげき)
大阪の中央卸売市場の青果卸会社で、野菜や果物を中心に食に関する情報を取り扱っている。
マーケティングやイベントの企画・運営、食育事業や生産者の栽培技術支援等も手掛け、講演や業界誌紙の執筆も多数。

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