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【野菜】八尾若ごぼうについて 2020年3月

公開日:2021.3.22

まだ真冬の寒い時期に出荷が始まり、春に向かって生産量が増えていくような野菜を、「春を告げる野菜」と呼ぶことがある。
昔は冬に収穫ができる野菜が少なかったため、真冬でもなんとか食べるものを確保しようと、塩漬けや乾燥などで長期保存したものを利用したのだが、春が近づくにしたがって芽吹き始める様々な植物のなかから、食用可能なものを利用し始めるのだ。

代表的なものは菜の花やタラの芽、フキノトウなどの山菜類で、なかにはアクが強く、そのまま調理ができずアク抜きをして食べるものもある。また、そのまま食すことができても苦みのあるものが多く、子供等には敬遠されるものも少なくない。

そんななか、大阪で春を告げる野菜といえば「八尾若ごぼう」が特徴的だ。2月の上旬頃から入荷が始まる八尾若ごぼうは、ゴボウの葉の軸を主に食べる野菜で、大阪府の中東部を中心に昔から親しまれてきた。

栽培方法も変わっていて、9月のお彼岸頃から種播きを始めて、年内に大きく育った葉を、12月に全部根元から刈り取ってしまう。年を越えて1月から順次新しい葉が出てくるのだが、その新葉の軸がやわらかくて歯ごたえが良く、また香り高くておいしいということで、産地である八尾市周辺で好んで食されている。

昔から矢の形に結束することから「やーごんぼ(河内弁で矢ごぼう)」とも呼ばれていて、4月まで出荷が続く。種苗メーカーが販売している品種もあるが、昔から八尾市内の各生産者の圃場で自家採種を続けている固定種も存在し、伝統的な野菜としても守られ続けてきた歴史がある。

八尾若ごぼうは、ほとんどアクもなく、フキのように皮をむく必要もない。もちろん根の部分は普通のゴボウのように利用できるし、葉の部分はアクこそあるが豊富な栄養素や機能性成分が含まれていて注目されている。
伝統的な食べ方としては、薄あげと一緒にダシで炊いた煮物や、鶏肉(大阪では鶏肉のことを「かしわ」と呼んでいる)と一緒に炊き込みご飯にするのがポピュラーだ。

「八尾若ごぼう」という名称は地域団体商標の認証を受けたものである。一般的には「葉ゴボウ」という名称で呼ばれることが多く、大阪府以外にも産地があり市場出荷もされている。
八尾若ごぼうと同じように刈り取りをしてから出荷されてくるものもあるが、なかには刈り取りを行わずに、最初に出たものが出荷されてくるものもあるようだ。
産地としては、香川県や高知県、長崎県があるが、入荷量は大阪府が圧倒的である。

量販店でもシーズンが来ると売場が作られるのだが、大阪府内であっても地域性が高い。八尾市の周辺の大阪府中東部から中南部での販売がほとんどで、大阪市内の北部や西部、大阪府の北部ではあまり需要がなく存在を知らない人も多い。

毎年、市場関係者と行政やJAが連携して認知度を高めるイベントを開催したり、TVでも取り上げられたりするなど普及にも力を入れている。反面、生産者や生産面積は増えず、なかなかニーズにこたえきれていないのも実情だ。
新規就農者や作付面積の拡大も一緒に進めながら、大阪の伝統を守り続けていきたいと願う。

著者プロフィール

新開茂樹(しんかい・しげき)
大阪の中央卸売市場の青果卸会社で、野菜や果物を中心に食に関する情報を取り扱っている。
マーケティングやイベントの企画・運営、食育事業や生産者の栽培技術支援等も手掛け、講演や業界誌紙の執筆も多数。

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