農耕と園藝 online カルチべ

生産から流通まで、
農家によりそうWEBサイト

お役立ちリンク集~カルチペディア~
カルチべ市場動向

【果実】八朔(ハッサク)について

公開日:2021.3.31

現在では当たり前のように使っているカレンダーも、もとは農作業のために作られたと考えられている。どの時期に種を播けば良いか、寒くなったり暑くなったり、雨が多いとか風が吹くとか、虫や鳥、植物の生態を観察して、日長や太陽の昇沈の方角、気候などをもとに「暦」というものが作られていった。

現在の暦は「グレゴリオ暦」で明治時代から使われるようになったのだが、その前は江戸時代に日本で作られた暦が、さらにその前は飛鳥時代に中国大陸から持ち込まれた「太陰太陽暦」が長く使われていた。

太陰太陽暦は月の満ち欠けによって数えられていた暦で、現在の暦でも1~12に「月」という字があてられているのはこれが由来だ。新月から始まり、29~30日で1ヵ月となるため現在の暦とずれが出る。新月のことを「朔」と言い、月が立つ(つきたち)日ということで1日は「ついたち」と呼び「朔日」と表記する。
月の初めで縁起が良い日とされるが、中でも特に縁起が良いとされるのが8月1日(八月朔日)であり、各地で「八朔」という祝い行事等が行われる。今の暦で8月下旬から9月下旬にあたる。

稲の収穫の前祝に「田の実」と「頼み」をかけて初穂を恩人に配る風習が古くからあった。
これらの行事とは直接の関係はないが、他の柑橘がまだ酸っぱいこの時期に食べてもおいしいということで、明治時代に因島の寺の住職によって名づけられたのが柑橘の八朔(ハッサク)だ。実際には、この時期はまだ硬くて酸っぱくて食べられたものではないと思うのだが、原木も因島に残っている。

八朔の実際の旬は年明けで、12~2月ごろに収穫したものを貯蔵熟成、または収穫せずに樹上完熟させたものを食べ、3月頃が一番おいしいとされる。大阪の市場に入荷してくるのも2月~3月が最も多く、産地構成としては和歌山県が9割以上、次いで広島県、香川県となっている。

産地別ハッサク入荷量(2020年)

種類は大きく2種類あり、「普通八朔」と呼んでいるものと「紅八朔」がある
紅八朔は果皮の色が濃く香りが強くジューシー感があり糖度も高いものが多いが、普通八朔の方は果肉がしっかりして歯ごたえが良い。

皮が厚くて硬く手でむきにくいことや、じょうのう(薄皮)が硬くて食べられないこと、苦みがあることから、最近ではどちらかというと敬遠される果物となってしまっている。
しかし、独特のサクサクとした歯ごたえや、ほろ苦さと上品な甘さの絶妙なバランスは他の果物にない魅力で、根強いファンも少なくない。甘いとかお手軽とかが万人受けするので、果物界全体がそちらに移行する傾向が強いが、ファッションのようなものなので飽きられるのも早い。それに比べると、八朔のような果物はコアなファンがついており、毎年このシーズンになると心待ちにされている方も多い。

八朔の旬である3~4月は、ひな祭りや合格発表、卒業、入学、新入社など祝いごとの多いシーズンだ。八朔のような魅力的な個性を持った人になってもらえるように、縁起の良い八朔を食べて欲しいと願う。

著者プロフィール

新開茂樹(しんかい・しげき)
大阪の中央卸売市場の青果卸会社で、野菜や果物を中心に食に関する情報を取り扱っている。
マーケティングやイベントの企画・運営、食育事業や生産者の栽培技術支援等も手掛け、講演や業界誌紙の執筆も多数。

この記事をシェア