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カルチべ取材班 現場参上

連作障害や暑さに負けず、 強い産地であり続る 太田市藪塚ホウレンソウ

公開日:2021.4.28
JA太田市・藪塚葉 菜部会副部会長の清水勉さん(右)、同じく藪塚葉菜部の久保田雄輝さん(左)。

群馬県南東部に位置する太田市は、渡良瀬川に形成された肥沃な扇状地にあり、関東有数の野菜の産地として知られる。藪塚地区は、昭和60年頃から雨よけハウスによる半促成小玉スイカとホウレンソウの栽培が行われてきた。

近年は高齢化による労働力不足から、雇用を導入した周年ホウレンソウへの経営転換が進んでいる。また、周年の安定した収穫に向けて連作障害や温暖化に適した新品種を積極的に取り入れている。

集出荷場を案内してくれた営農の星野雅夫さん。

JA太田市の藪塚野菜センターに集められたホウレンソウは、真空冷却装置で5℃に冷却処理して冷蔵庫で保管し、京浜方面を中心に東北、関西方面に出荷される。
12月上旬の出荷量は1日当たりホウレンソウ3000ケース、コマツナ500ケース程。年末に向けて徐々に出荷量は増えていく。

1度に260箱を5℃まで冷却できる真空冷蔵装置。真空状態で冷やした後、 出荷まで冷蔵庫で保管される。
規格はS/M/Lの3 種類。いずれも1袋210gで、1箱25袋入り

現在のホウレンソウ部会員は180名。

「高齢化の影響で扱いやすい葉物へ移行する傾向が高まり、全国的にもホウレンソウの産地が増えてきています。古い産地こそ、新しい品種や栽培技術を積極的に取り入れて品質を上げていかなくては負けてしまう」
と藪塚葉菜部会副部会長の清水勉さん。

JAを中心にハウスと露地栽培向けの栽培講習会を年2回実施し、土作りの指導、推奨肥料や資材の紹介、圃場実験を行っている。
JAや部会からの特定品種の指定こそしていないが、ここ2~3年で、タキイ種苗株式会社の「伸兵衛」、「福兵衛」など新品種を導入する生産者が増えている。藪塚地区は農家同士の情報交換が盛んで、新しいものへの関心が高い。誰かが試作していいと聞けば、すぐに評判になり、一気に広がるそうだ。

連作障害に強く、作業性の高い品種を求めて

清水さんがホウレンソウの栽培を始めたのは、40年程前から。当時の主力は小玉スイカだったが、17年前に蜂毒によるアナフィラキシーショックを発症したことから、スイカからホウレンソウに移行した。

藪塚地区はホウレンソウの名産地として高い評価を得る一方で、歴史ある産地ならではの課題もある。
ホウレンソウは秋冬作で、本来であれば、涼しい秋に種子を播けば簡単に育っていたのが、ホウレンソウを何十年も連作してきた影響から、土壌が疲れ、虫や病気が増えてきている。

土壌改良や資材・薬剤の活用といった栽培技術の向上に加えて、ベと病などの病気にかかりやすいため、抵抗性の高い品種が求められる。
また、1年を通して切らさず収穫するためには、夏の暑さに強い品種を含め、複数の品種を揃える必要がある。
さらに、農業実習生を周年雇用するため、作業性の高さも大事だ。

清水さんは、5~6年くらい前からタキイ種苗株式会社のホウレンソウ品種を試し、2年前から「福兵衛」、「伸兵衛」、「タフスカイ」の3品種を本格導入している。

タキイ種苗の関東支店課長補佐、舟橋達也さんは
「耐病性や耐寒性を改良した新品種を2~3シーズン試作してもらっています。藪塚地区は、新品種の導入に前向きで、問題点などの情報をいち早くいただける。実際に問題を抱えている農家の声を開発に反映できるのはメーカーにとってありがたいです」
と話す。

右から清水さん、JA太田市営農部の石川純也さん、同じく営農部の小沢恭平さん、藪塚葉菜部会の久保田さん、タキイ種苗の舟橋達也さん。試験品種について頻繁に意見交換を行っている。

新品種の「TSP-569」はハウスで試作中だ。「TSP-569」は、春秋どりの早生品。葉がやわらかくしなやかで折れにくく、作業性に優れているのが特徴だ。

「『TSP-569』は『福兵衛』よりもややじっくりと生育するタイプ。
品種選びで重視するのは、作業効率の良さ。いろいろなメーカーの品種を試作していますが、発芽は良くても、折れやすく収穫後の調整や袋詰めがしづらければ、導入には至りません。タキイさんの兵衛シリーズは、どれも葉茎がしっかりしていて折れにくく、実習生が作業しやすいのがいいですね。ようやく求めていた種子が揃ってきました」と清水さん。

周年出荷するための播種サイクルと暑さ対策

藪塚地区のホウレンソウ栽培はハウスが9割だが、秋冬は露地栽培も行っている。
露地は、9月上旬から10月中旬頃に播種し、年末年始にかけて収穫する1期のみ。その後、約半年間は圃場を休ませて、裏作にトウモロコシやエダマメを栽培する。

10月中旬に播種した露地栽培の「福兵衛」。今年は台風被害がなく、11月に暖かい日が続いたため、例年よりも生育が早く、霜による葉の傷みも起こらず、豊作となった。 久保田雄輝さんの圃場にて撮影。

12月中旬に訪問した圃場では、10月15日に播種した「福兵衛」が収穫のピークを迎えていた。例年であれば、からっ風で葉先が傷んで白くなる時期だが、2020年は暖かく穏やかな天候が続いたため、傷みがなく、葉先まで濃緑で美しい。
「福兵衛」は、早生だが収穫期幅が広く、低温でも完全には生長が止まらずに少しずつ育ち、50日程で収穫を迎える。生長が早すぎると、暖かい日に伸び過ぎてしまうので、出荷日の調整が難しい。そのため、各農家では、それぞれに複数の品種を組み合わせて、切らさずに出荷できるように工夫している。

清水さんの播種サイクルは、9月中旬から11月は肉厚で生育旺盛な早生種「福兵衛」、12月~1月10日までは低温に強く伸びの早い「伸兵衛」、1月から再び「福兵衛」に戻り、2月の節分を過ぎたら、2020年新品種の中早生種「吉兵衛」の順。夏の暑いシーズンは、「タフスカイ」をはじめ、高温耐性の強い品種をいくつか試しているところだそう。

周年栽培のもうひとつの課題は、夏場の暑さ対策だ。ホウレンソウはもともと涼しい環境を好むため、温度が高いとストレスがかかり、生育が抑制されてしまう。
しかも、太田市は猛暑の町として知られる伊勢崎市・熊谷市・館林市に囲まれており、夏場は最高気温が35℃以上の猛暑日が続く。ハウス内は50℃を超え、作業もままならないほどだ。

太田市農協では、ハウス内の環境改善に取り組んでおり、高温対策のひとつとして、従来の銀色の遮光資材から白色の新資材へ変更した。遮光率は40~50%で光をよく通し、生育を阻害することなく、ハウス内の温度上昇を抑えられる。収穫期までかけたままで育てられるので作業性も高いのがメリットだ。

ハウスの内側は細かい虫を抑えるための防虫ネットで覆い、夏場はハウスの両サイドを開放し、少しでも涼しくするように工夫をしている。

生育不良を改善するため、土作りにも力を入れている。圃場調査、土壌分析の結果から、有機堆肥を中心に、化成肥料とホウレンソウの発芽に欠かせない石灰を加えて、土壌改良を進めている。
冬季の農薬散布は、本葉が生え始めた時、4~6枚の頃、収穫の2週前の計3回。ハウス栽培の水やりは、播種時に15分間潅水。その後、収穫までに3~4回程乾燥したら潅水する。夏場は夕方に潅水して地温を抑え、水分過多によるとろけを防ぐため、水やりは少なめにしているとのこと。

清水さんのハウスで栽培している「福兵衛」(10月30日播種)。土が乾いたら潅水する。

とはいえ、ここ数年は暑さが厳しく、被覆資材の活用やハウスの換気だけでは、対応しきれなくなっているのが実情だ。

「実習生がいるから、夏も仕事をしなくてはいけない。コマツナやモロヘイヤなど別の品目も育ててはいますが、ホウレンソウの産地として、市場に求められるのであれば、できる限り周年で出荷したい。農協やメーカーさんと連携して、新しい資材や種子、手法を取り入れて、少しでも夏場の出荷を増やしていくことがこれからの課題ですね」と清水さん。

藪塚はホウレンソウ産地のなかで最も高温の地域。メーカーには、40℃を想定した7月8月播きの品種開発が急務だ。

 

協力/太田市農業協同組合 藪塚葉菜部会副部会長 清水勉 営農部 石川純也
タキイ種苗株式会社
取材・文/松下典子 写真/杉村秀樹
「農耕と園芸」2021年春号より転載

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