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過酷な夏を乗り切る! 施設栽培の高温対策技術のポイント

公開日:2021.4.23 更新日: 2021.4.27

千葉大学 学術研究・イノベーション推進機構
特任教授 中野明正

1.高温化で生じる問題

近年、平均気温が上昇している。夏季栽培の主産地である中山間地や冷涼地域でも気温が上昇し、高温障害が発生している。もちろん、平地や温暖地域はいうまでもない。

このような現状において、どのような対策が可能なのかポイントをまとめた。基本的には、ひとつの技術で解決することではない。やれることを費用対効果に鑑みて適切に積み重ねて実施する、ということに尽きる。

まず、どのような問題が発生しているのか整理してみる。

収量の低下

一般に、高温になりすぎると光合成速度が低下する。また、呼吸速度は高温ほど増加する。
ヒトは植物が蓄えた同化産物を生産物としていただいているので、この差である「純光合成速度」がヒトにとっての関心事である。この最大値は植物により異なるが、35℃以上の高温では純光合成速度を急速に低下させる図1)。これが、高温による植物への影響の最も基本的な部分である。
育苗期の場合には発芽不良を引き起こす。発育期においては、生育遅延、萎れ、葉焼けが発生し収量を低下させる。

図1 温度が光合成速度と呼吸速度に与える影響のイメージ図

品質の低下

高温下で生育した葉茎菜類は、品質の低下も生じる。
結球性の野菜では変形、芯腐れが発生し、高温環境では鮮度が落ちやすい。果菜類(トマト、ナス等)では、着色不良や、裂果や裂皮などが発生する.

作業環境の悪化

総務省の調査では、2018年の熱中症による搬送者数は約9.5万人と過去最高であった(樫村ら、2018)。
農林水産省の統計では、2018年22名が農作業中に熱中症で亡くなっている。70歳以上の高齢者が多く、5月~6月の時期にハウス内作業で亡くなる事故が発生している。対応を徹底してハウス内での死者ゼロを目指すべきである。

2.高温で生産を維持する3つのポイント

1)環境を制御する(図2)

図2 さまざまな視点での高温障害抑制技術(クリックして拡大)

(1)光環境の制御—遮光による高温抑制

さまざまな手立てで、ハウス内に入ってくる熱エネルギーを減らす。
一方、遮光は「もろ刃の刃」である。光を遮りすぎると高い生産性は望めない。技術の費用対効果を見極めないと本末転倒になりかねない。

  1. 遮光カーテン
    外張りのカーテンによる外部遮光は、高温抑制に有効であることは間違いない。しかし、台風なども激甚化しており、強風時の対応が必要となる。
    内部遮光は熱を効率的にハウス外に逃がすことも考えて、換気に注意する。
  2. 遮熱塗布剤
    ハウスのビニルなどに展着させる白色の液体資材である。
    光合成有効放射束を大きく減じることがなく、たとえば果実の表面温度を4℃程度低下させるとされる。
  3. 赤外線反射フィルム
    光合成有効放射束は透過させるが、ハウス内の温度上昇に寄与の大きい赤外線を選択的に反射するフィルムがいくつか開発され、農業分野への適用が進みつつある。

(2)大気環境の制御

次に、ハウス内に入ってしまった熱をどう排出するか。基本は気化冷却と排気である。費用対効果で技術を選択したい。

  1. 細霧冷房技術
    細霧冷房は、砂漠のような乾燥した地域では気温より室温を10℃以上下げる。実際の施設生産においても、高温抑制に極めて有効な技術であることが実証されている(礒﨑、2018)。
    さらに、様々な環境下でどのような制御が合理的なのか検討が進んでいる。それによると、ノズルからの噴出される水滴の粒径は30μm未満が、温度抑制効果と作業のしやすさからも推奨されている。
    細霧は温度の抑制以外にも、湿度を一定レベルに保つことにより光合成促進や葉を大きくするなどのメリットがある。しかし、場合によっては病害のリスクを高め、蒸し暑くなり作業環境を悪化させる等のデメリットもある。
  2. 強制換気を中心とした環境制御
    「プロファームT-キューブ」(デンソー)はアクティブ換気システムにより気流、気温、CO₂濃度などが均一化され、ハウス内の環境がより一層安定になっている。
    吸気ファンやCO₂発生機などの機器一式が、実証研究に基づいて最適にレイアウトされている。
    「パッシブハウス型農業システム」(パナソニック)も同様の考えで開発されており、沖縄県石垣島で実証研究も実施され、高温多湿環境で慣行の生産と比べて収量増加を確認している。
    いずれも高温条件も含めて、トマトでは30t/10aを超える年間生産量を達成している。

2)植物体を健全に保ち、歩留まりを上げる

(1)樹勢を維持するためのCO2施用

夏の高温を乗り切るように、植物体の樹勢を旺盛にするという戦略もある。
異なるCO2濃度で測定した温度-光合成曲線が示すように、CO2濃度によって速度が最大になる温度(最適温度)は異なり、高CO2濃度ほど最適温度が高くなる図3)。
光が充分あり、着果もできていれば、CO2施用は多収を目指した攻めの環境御制御になる。

図3 CO2濃度が高いと光合成速度のピークが高温にシフトする(イメージ図)

(2)品種選択

  1. 単為結果性品種
    ハウス内が暑すぎると、花粉稔性も低下し、合わせて授粉用のハチも飛ばなくなるため着果率が低下する。
    そこでトマトトーンを噴霧することになるが、これをヒトがやるのは大変である。まずは、作業時間を配慮する。噴霧ロボットなども開発されているので、その実用化に期待したい。
    特にナスなどであれば花粉がなくても果実肥大する単為結果性品種を導入するのが有効な選択肢である。「あのみのり2号」等の実用品種もあるので活用したい。
  2. 耐裂果性や着色良好な品種
    トマト等では高温下において着色性、裂果耐性について品種間差がある。
    高温時の生産に適する品種選択も基本技術のひとつである。

(3)接ぎ木による強勢化

ミディトマトの周年栽培は、促成長期どり栽培で行われてる。
たとえば福井県ではこの作型で12t/10a程度の収量が得られているが、さらに増収を図るためパット&ファンを利用した夏越し長期どり作型が開発された。その中の要素技術の一つとして、強勢台木の利用が草勢の維持、増収に効果が高いことが明らかになっている。

強勢な状態は夏越しに有効である。しかし、梅雨期間など気温が高く日射が少ない日が続く時期に強勢になりすぎると、異常茎や心止まりが発生することがある。施肥管理や環境制御、植物体管理によって草勢が強くなりすぎないようにコントロールする。

(4)紫外線カットや植物調整剤で可販果率を向上

紫外線カットフィルムにより、トマトの裂果率が下がることもわかりつつある。生産性を考える上では、高温下での可販果収量に対する影響も考慮する必要がある。
裂果防止剤として、サイトカイニン活性を示す植物調節剤「フルメット液剤」(住友化学(株))等の果実散布も効果的である(川村、2018)。

(5)酸素剤による根系環境の改善

高温になると溶液中の溶存酸素が少なくなる。また呼吸も増加し、根の機能が低下すると考えられる。
高温期のトマト栽培において酸素供給剤(「ネオカルオキソ」(保土谷化学工業))を添加したところ、根の褐変を改善し収量を増加させる効果が認められた(川口ら、2021)。

(6)重要になる病害虫への対策

高温では病害の発生が増える。葉菜類では軟腐病、立枯病、根茎腐敗病等。養液栽培のトマトやトルコギキョウでは、ピシウムなどの対策が必要となる。
マニュアル等に従い適切な防除につとめる。

一般に、害虫も高温で増える。特に、ハダニ類、オオタバコガ等は通気性も配慮しつつ、側窓などにネットを着実に展張する。
いずれにしても発生初期での対応が重要である。環境モニタリングとAIによる病害予測機能で構成されるハウス栽培向け農業ソリューションPlantect(プランテクト)」(ボッシュ(株))も市販されている。

3)作業者への配慮

過酷な夏は作業者にも十分配慮する。
まず、環境モニタリングによりRGBTなどで警報を出すことも必要である。その時間帯はハウスに入らないようにする。
そうすると、夏季では10:00~15:00ぐらいはハウスに入らいないほうが望ましい状況になる。このような状態でも、生産が持続できるような生産体系を模索する必要がある。
収穫などは、できるだけ朝早い時期か、保冷庫があるような場合は夕方から収穫という選択肢もあるだろう。朝採り野菜はおいしいと思われがちであるが、夜間に消耗され品質が落ちる場合もある。
効率的に午後に収穫することは、作業者にも配慮し、品質も良くなる可能性もある。

これは流通まで含めたことであり、必ずしも経営者によっては選択できないかもしれない。
しかし、流通や労働環境も激変しているので、様々な可能性を改めて検討することも必要である。

3.技術を導入するにあたっての留意点

技術の特徴と効果をよく理解することである。
たとえば細霧冷房は、水質が悪い条件で粒径が細かいノズルを使用すると、すぐに目詰まりを起こし機能しなくなる。配管中の水が問題であるので、その日の最後の噴霧の時は、RO膜(逆浸透 Reverse Osmosis膜:圧力をかけて塩類を含む水を膜に通し,塩類を除去する手法)などで処理した硬度の低い水で配管を置換するだけでトラブルはかなり回避できる。
いずれにしても、合理的に技術を組み立てて、費用対効果についても厳密に考えると失敗が少ない。

また、様々な技術も、地域や環境に合わせた効果、また営農者、作業者の習熟度により大きく変動する。
農業に関して要素技術の慣行生産に対する改善効果は10~30%程度と考えておくと良い。
資材であれば面積あたりの必要コスト、装置であれば原価償却費から評価し、数年間のシミュレーションをする。

4. 重要性を増す高温対策技術

ここ数年の気温の上昇トレンドは明確である。施設を周年利用し生産を維持発展するために、今回取り上げたような高温対策技術の活用が増加すると予想される。
さらに、現在開発が進む熱線カットフィルムなどの資材の現場実装が、飛躍的に進展することに期待したい。

5. 参考文献

  • 「細霧冷房のタイプと効果的な運用方法」
    礒﨑真英,2019,施設と園芸,187,27-30.
  • 「ハウス栽培農業従事者の実態と熱中症予防対策」
    樫村修生,齊藤雄司,2019,施設と園芸,187,20-25.
  • 「底面給液型養液栽培における酸素供給剤の培地添加はトマトの根系褐変を改善し収量を増加させる」
    川口哲平ら,2021,農業および園芸,96(4),294-298.
  • 「遮熱資材のハウス天ビニル塗布処理とホルクロルフェニュロンンのトマト果房散布によるトマト放射状裂果の軽減技術」
    川村宜久,2019,施設と園芸,187,39-42.

 

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ファインシェード(遮光剤) アキレス株式会社

遮光剤『ファインシェード』標準タイプ

既設のハウスに、液状の遮光剤「ファインシェード」を水で希釈して吹き付けるだけで遮光を実現します。
持続効果は標準・短期・長期の3タイプがあります。ハウス内の温度上昇抑制、作物焼けを軽減します。
(参考記事:https://karuchibe.jp/read/4073/

<標準タイプ>

  • 内容物(12.5kg/缶)…水、界面活性剤、炭酸カルシウム、アクリル系樹脂
  • 内容量…8.8L
  • 8.8Lに対して水約60L(原液:水=8.8L:60L)
  • 1缶での塗布可能面積…800〜1,000㎡
  • 遮光率…20〜30%

※短期、長期タイプは特注

『ファインシェード』を塗布した農業用ハウス。

(お問い合わせ)

アキレス株式会社 農業資材販売部
TEL03-5338-9289
〒169-8885 東京都新宿区北新宿2-21-1 新宿フロントタワー

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