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【野菜】実エンドウ(エンドウマメ)について 2021年4月

公開日:2021.4.28

関西人にとって春を感じる食べ物のひとつが「豆ごはん」だが、関東では苦手な人も多いらしい。
その理由は、関東に多く出回る「グリーンピース」と関西で一般的に食べられている「ウスイエンドウ」(写真)がまったく別物と認識されているからだ。

未成熟な実を莢から取り出して食べるという点ではグリーンピースもウスイエンドウも同じ「実エンドウ」と呼ばれる豆だが、ウスイエンドウのほうが皮が薄くて甘味が強く、青臭さも少ない上、食べた後に口に残るパサつきもほとんどないため「おいしい」と感じる人が多い。
この違いは実はグリーンピースとウスイエンドウのルーツの違いにあるのだ。

ウスイエンドウは明治時代にアメリカから入ってきた「Black Eyed Marrowfat」という品種の実エンドウを、大阪府羽曳野市碓井(うすい)地区で栽培したことから名づけられた。

その後、より栽培に適した和歌山県で品種改良され、今は地域団体商標ともなっている「紀州うすい」が誕生した。紀州うすいは「きしゅううすい」、「紀の輝」、「矢田早生」の3品種の総称で、全国の実エンドウの半分以上が和歌山県で作られている。
2月のハウスものから始まり、4月には露地ものもあわせてピークとなる。
大阪府ではウスイエンドウの原種の種子を保存し、「なにわの伝統野菜」として認証される18品目のなかにも含まれている。

一方、奈良時代に遣唐使によって伝えられたエンドウマメを成熟させて収穫し、乾燥保存させて大豆と同じように穀物として利用していたものがグリーンピースの原点だ。エチオピア、中央アジア、中近東辺りが原産で、アジア西部やヨーロッパでは紀元前6000年頃から利用されていたようだ。

最初は穀物としてのみの利用であったのが、13世紀頃のフランスでサヤエンドウが利用されるようになり、15世紀頃からは未熟果の種を食べる、今でいうところのグリーンピース「ガーデンピー」が登場した。
江戸時代にはヨーロッパからサヤエンドウの食べ方が普及していたようで、その後の江戸の都でもグリーンピースとしての利用につながっていったことが容易に予想できる。

ところが18世紀の終わり頃に珍しい品種のエンドウマメが発見される。そのエンドウマメにはしわがあり、これまでのエンドウマメに比べると格段に糖度が高かった。このエンドウマメを品種改良して作られたのが「Marrowfat」で、瞬く間に広がりアメリカの大統領も好んで食べるほどになった。

この品種を開発した英国のトマス・ナイトという園芸家兼植物研究者は様々なエンドウマメを掛け合わせ、種々の特徴をデータとして蓄積した。ナイトは多くの実績と資料を残したが神髄に迫ることはできず、彼の基礎実験をもとに研究を続けて成果を挙げたのがオーストリアのグレゴール・ヨハン・メンデルだった。
近代遺伝子学の道を切り開いた「メンデルの法則」の誕生である。

この糖度の高い「Marrowfat」の改良品種である「Black Eyed Marrowfat」がアメリカから大阪に持ち込まれた後にも品種改良を重ねて、より糖度が高くやわらかく食味の良い「ウスイエンドウ」へと進化していった一方で、明治以降には未成熟なまま食べる文化が全国に広まったが、関西以外では昔からの品種が利用され流通するに至ったのだろう。

今では種苗メーカーによって様々な品種が開発され普及もしているが、このルーツの違いが文化として残り、現在でもグリーンピースとウスイエンドウは違うものとして認識されるに至った。

ウスイエンドウは関西以外で見かけることは少ない。
逆に関西でグリーンピースといえば缶詰などの加工品くらいで、この流通の偏りによって豆ごはんに対する印象が大きく異なるわけだ。

ところで、関西人のなかにもグリーンピース嫌いは結構いるのだが、実エンドウが嫌いなのではなく、ウスイエンドウしか認めないということのようで、ウスイエンドウは関西では根強い人気の野菜として売り場を賑わせている。

図1
図2

ちなみに、偶然発見されたしわのある糖度の高い品種のエンドウマメにおいて、体内の糖をデンプンに変化させる酵素を作る遺伝子が欠落していることがわかったのは1990年代で、最新の遺伝子学である分子生物学の研究者によって明らかにされた。
エンドウマメは人類の遺伝子研究とともに歩んできた野菜なのだ。

著者プロフィール

新開茂樹(しんかい・しげき)
大阪の中央卸売市場の青果卸会社で、野菜や果物を中心に食に関する情報を取り扱っている。
マーケティングやイベントの企画・運営、食育事業や生産者の栽培技術支援等も手掛け、講演や業界誌紙の執筆も多数。

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