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【果実】国産パイナップルについて

公開日:2021.5.20 更新日: 2021.5.21

イチゴのシーズンが終盤に近づくと、量販店のフルーツ売場から国産フルーツが減り、熱帯地方や南半球の輸入フルーツが多く並べられるようになる。
パイナップルもそのなかのひとつだ。日本でパイナップルといえばほとんどがフィリピン産だが、これには歴史的な理由がある。

パイナップルの原産地は熱帯アメリカのブラジル、パラナ川とパラグアイ川の流域地方といわれている。
15世紀末にヨーロッパは大航海時代を迎えるのだが、大西洋ルートでアメリカ大陸への航路を発見したスペインやポルトガルの船が、次々に中南米の地へと到達した。その頃にはすでにパイナップルはアメリカ大陸の各地で食用果実として栽培されており、すぐにヨーロッパへと持ち込まれた。

そのパイナップルは、キリスト教のイエズス会の修道士たちが布教活動とともに積極的に植民地開拓をおこなった結果、フィリピンへ1558年に伝わり、その後、東南アジア全域から中国大陸、台湾にも伝わった。
日本では1830年、東京の小笠原諸島に初めて植えられたという記録がある。

パイナップルの可食部は花が多数集まった「花序」と呼ばれるもののそれぞれの軸の部分から、それを支える花托、その下の子房部分が融合して肥大化したところである。
種子からも栽培できるが、食用利用までは相当の年数を要するので、通常は葉の付け根にできる脇芽が発達した吸芽を植えて苗を作り定植して育てる。それでも商業利用までは約3年、定植から開花までで1年半、結実まではさらに半年以上がかかり、それを肥大させて出荷する。

植物としては木本類ではなく草本類に分類され、多年草なので一度植えると毎年結実するが、年を追うごとに実が小さくなっていくので商業利用としては3年くらいが限度である。

品種はスムースカイエン種が世界的に多く作られている一般的な品種で、台湾原産のボゴール種(通称「スナックパイン」)、日本で生まれたソフトタッチ種(通称「ピーチパイン」)やゴールドバレルサマーゴールド、デルモンテ社のデルモンテゴールド、ドール社のスウィーティオパインなどが栽培されている。

最近メディアでも話題となっている台湾パイナップルは「台農17号」という品種で、通称「金鑚(きんさん)パイン」と呼ばれている。

国産のパイナップルは、ほぼ沖縄県で生産されており、品種としてはスムースカイエン種が最も多く、次いでボゴール種・ソフトタッチ種が同量程度、残りがゴールドバレルなど沖縄県で生まれた品種という構成である。

世界のパイナップル生産量は1位がコスタリカ、続いてフィリピン、ブラジル、インドネシアと原産国周辺と、そこからヨーロッパ人によって苗が持ち込まれて植民地化された地域が大産地となっている。
フィリピンは原産国の中南米よりも日本にはるかに近く短時間で輸送できるため、日本における輸入パイナップルのほとんどがフィリピン産というわけだ。

そんななか、沖縄産のパイナップルが関西市場にも入荷してくる。

(大阪市東部市場実績)

国産のパイナップルは輸入物と比べると割高になってしまうので、国産ならではの特別感のあるパイナップルが一部のフルーツ店や百貨店、インターネット通販などに流通している。

なかでも人気が高いのが石垣島から入荷される「スナックパイン」と呼ばれる台湾原産のボゴール種だ。
パイナップルは切るのが面倒という点と、食べた時に少し舌がチクチクするような酸味が苦手と敬遠する人もいるが、このスナックパインは舌をつくような酸味がなく、手でちぎって食べられて、しかも芯までおいしく食べられるということで年々ファンが増加している。

手でちぎって食べられる「スナックパイン」

ここ数年では海外での人気も高まってきており、香港を中心に輸出量も急増している。

(大阪市東部市場実績)

需要が高まっているので産地での作付けも増えているのかというと、パイナップルの栽培は年数がかかることや、副業的に栽培するのでなければ採算をとるのが難しい作物なので生産量はなかなか増えることはなく、人気が高まるほど手に入りにくくなっているのが実状だ。

しかし、この時期だけの逸品なので、一年に一度は食べてもらいたいフルーツのひとつだ。

著者プロフィール

新開茂樹(しんかい・しげき)
大阪の中央卸売市場の青果卸会社で、野菜や果物を中心に食に関する情報を取り扱っている。
マーケティングやイベントの企画・運営、食育事業や生産者の栽培技術支援等も手掛け、講演や業界誌紙の執筆も多数。

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