農耕と園藝 online カルチべ

生産から流通まで、
農家によりそうWEBサイト

お役立ちリンク集~カルチペディア~
カルチべ取材班 現場参上

ハナモモの生産でコロナ禍も元気に!JA常陸 奥久慈枝物部会

公開日:2021.6.15 更新日: 2022.5.10

コロナ禍の影響が長引く昨今ではありますが、活性化している農業分野があります。それは、花きのなかの「枝物」です。
今回は、様々な枝物を栽培している茨城県のJA常陸 奥久慈枝物部会のハナモモ出荷の現場におじゃましました!

冬から春にかけて出荷される「ハナモモ」。桃の節句を彩る人気の花です。

奥久慈のハナモモ促成施設

新型コロナウイルスが蔓延して約1年半がたちました。この間、ブライダルや葬儀の縮小、イベントの中止などが続いたために花きを用いた装飾の需要が激減しました。

一方、一般の消費者の間では、自宅で過ごす時間が増えたことにより、花を飾りたい、植物を育てたいといった思いが高まり、ホームユースとしての花きの需要が伸びています。

ホームユースの花きのなかでも、人気となっているのが枝物です。これまでは外で眺めるものであった枝物をインテリアの一部として室内に取り入れ、自然の息吹や季節感を味わおうとする人が増えているのではないかと考えられています。

そんななか、私たちカルチベ取材チームはハナモモに注目。茨城県のJA常陸奥久慈枝物部会では、ハナモモ産地を形成して大きな利益を上げていると聞き、取材に伺いました。

ピンク色のかわいらしい花を咲かせるハナモモは、3月の桃の節句には欠かせない花木。江戸時代に果実を食べるモモを品種改良し、花を楽しむ園芸品種として日本中に広がりました。現在も日本各地で生産され、切り枝や鉢物として出荷されています。

私たちが奥久慈を訪れた2021年2月末は、桃の節句を間近に控えたまさに出荷の最盛期。まずは、ハナモモの促成施設におじゃまして、常陸大宮地域農業改良普及センターの飯嶋啓子さんにお話をうかがいました。

平成25年に奥久慈枝物部会によって設けられた促成施設。
ハナモモ出荷に向けて梱包作業をする生産者の皆さん。

施設内では、数十人の生産者さんが出荷準備の真っ最中。桶に入れられたハナモモを促成室から運び出したり、出荷用段ボールに詰め替えたりといった作業を猛スピードで行っています。皆さんの作業のおじゃまにならないようにと、カルチベチームはそーっと取材スタート!

飯嶋さん、こちらはどういった施設なのでしょうか?

飯嶋さん「ここは、平成25年に奥久慈枝物部会によって建てられた生産者さんの共同の促成施設です。主に、ハナモモの集荷と『ふかし』に活用しています」

ふかしとは、蕾の状態の切り枝を水あげし、20〜25℃の温室に入れて開花調整すること。奥久慈では、1月後半になると近隣の生産者さんから蕾のついたハナモモが促成施設に運び込まれ、1週間ほど「ふかし」を行い、蕾をふくらませてから出荷しているそう。

飯嶋さん「室温は、部屋によって少しずつ変えています。早めに咲かせたいものは室温を高めにした部屋に入れたり、逆に開花を止めたいものは冷房室に入れたりといった微妙な調整をしています。出荷先は、東京の大田花きを始めとする各地の生花市場です。ハナモモのシーズンが近づくと市場から注文が入り、それに合わせてふかしを行い、出荷日や出荷量を調整しています」

なるほど、奥久慈枝物部会の生産者の皆さんが、自身の圃場で収穫したハナモモをここへ持ち込み、それをまとめてふかして、まとめて出荷しているということですね。

ここにあるハナモモは、すべてスリーブに入れてありますが、どの段階でセットするのですか?

飯嶋さん「はい、奥久慈のハナモモの特徴の1つは、このようにスリーブに入れて出荷していることです。生産者さんが収穫した切り枝をスリーブに入れて、ここに運び込みます。そして、スリーブに入れたままふかして、出荷しています」

スリーブに入れた状態であれば、市場でも生花店でも取り扱いが簡単で、消費者にとっても買いやすく、これはいいアイデアですね! スリーブにセットする規格は決められているのでしょうか?

飯嶋さん「生産者さんがそれぞれ枝ぶりや花芽の付き方を見ながら、6〜7本の枝を入れるようにしています。長さは80cmが基準になります。このスリーブに入れたものを50束にして段ボール箱に詰め、1ロットになります」

ハナモモの出荷規格は部会内で統一。生産者自身でスリーブに入れた状態で促成施設に運び込みます。
スリーブに入れたハナモモ50束で1ロット。このまま出荷用段ボール箱に詰められます。
「奥久慈の花桃」と印刷された出荷用段ボール箱に入れて準備完了。

奥久慈枝物部会で取り扱っているハナモモの品種はどういったものでしょうか?

飯嶋さん「現在は『ピンク』、『早戸川』、『乙女川』の3種類になります。『ピンク』というのは、ハナモモの王道の品種の『矢口』と『新矢口』です。この部会では、もともと『矢口』『新矢口』を栽培していたのですが、『早戸川』も手がけるようになり、今年初めて『乙女川』も出荷するようになりました。『乙女川』はまだ出荷数は少ないのですが、濃いピンク色で花弁数が多く、花付きも良い品種です。また、白モモと赤系も栽培し『紅白』として出荷しています」

ハナモモ出荷はチームワークとアイデアで!

お話をうかがっているうちに、ハナモモを入れた出荷用段ボール箱がどんどんと積み上がっていきます。今日の出荷量を聞いてみると、305箱とのこと。前回の出荷量は330箱、前々回の出荷量は380箱と、まさに今がハナモモの最盛期です。

しばらくすると、促成施設の外に大型トラックが横付けされました。荷台が開くと、ハナモモが入った段ボールが皆さんの手に寄ってどんどん載せられていきます。そのスピードと正確な連携プレーに、部会の皆さんのチームワークの良さを実感!

大型トラックの荷台に載せられていく305箱のハナモモ。連携プレーであっという間に作業終了!

ハナモモを満載した大型トラックの出発を見送ると、施設内の後片付けが始まりました。ここで気になったのが、台車の存在です。先程までこの台車には大量のハナモモが載せられていましたが、移動させる人は軽々と動かしていて、くるくると小回りもきいているようでした。この台車の秘密を、飯嶋さんにお聞きしました。

飯嶋さん「この台車は、ハナモモの促成作業専用に作られているんです。1台に6ロット載せることができますが、タイヤがついているので動かしやすく、パイプもついていて排水しやすい構造になっています」

枝物を取り扱う際に逃れられないのは、重量との戦いです。1本80cmものハナモモを何百本も束にして移動させるとなると、当然のことながら身体に大きな負担がかかります。吸水のための水も一緒に運ぶため、さらに重くなることは必至です。

しかし、この台車に載せてしまえば、6ロットまとめて促成施設内を軽々と移動させることができるのです。注水は各所に設置された水道からホースで行えるようになっているので負担軽減。排水もスムーズにでき、出荷後の洗浄も簡単です。

身体に負担をかけず、時短にもなるこうしたアイデアは、楽しく農業を営むための大切なポイント。自分たちの作業にはどういった問題があり、どうすれば解決できるかを考え、実行していくことが未来につながっていくのだなあと、この台車から学んだカルチベチームなのでした。

アイデア満載の台車は特注で製作。取り回しもラクラクです。

自由度高し! 奥久慈枝物部会

生産者さん同士のチームワークの良さを拝見し、奥久慈枝物部会には長い歴史があるのでは……と思いきや、実は、設立されたのは平成17年。今から16年前だったといいます。

JA常陸のなかに部会を設立したのは、現在も会長として活躍する石川幸太郎さん。

石川さんは、JA茨城県中央会の常務理事として農協の運営に携わったのち、定年になる前に退職し、新たに枝物の生産者としての道を選ばれたそうです。常陸大宮市の耕作放棄地を活用してご自身で枝物栽培をスタートし、その数年後に9名の仲間と部会を設立しました。

その部会も、今では部会員数119名となり、販売実績も年間1億3000万円を越えるほどに成長。ハナモモのみならず、250品目以上の枝物を栽培しています。この日もハナモモ出荷の現場で陣頭指揮をとっていた石川さんにもお話をうかがいました。

JA常陸 奥久慈枝物部会 会長の石川幸太郎さん。
奥久慈の枝物栽培の今を知る、常陸大宮地域農業改良普及センターの飯嶋啓子さん(左)と石川さん。

石川さん「奥久慈枝物部会は後発の産地なので、他にはない産地になろう、他の産地との差別化を図ろうと考え、少量多品目での枝物栽培を行っています。ハナモモの出荷の後は、コデマリ、レンギョウ、サクラ、ヤマブキなど、いろいろな枝物を出荷します」

少量多品目栽培を実践するなかで、部会員の皆さんはどうやって栽培品目を決めているのでしょうか? 部会全体としての方針などはありますか?

石川さん「ハナモモに限っては、どこにも負けない一流のものを生産しようと、部会内できめ細かくやっていますが、他の品目については、個人個人が自由に決めて栽培しています。一流を目指さなくても、他の産地より価格が多少低くても、みんなで楽しくやっていこうというのが私たちの考え方です」

ということは、栽培してみたい、売ってみたいと思う品目があれば、自由に作って自由に出荷していいということなのですね。

石川さん「そういうことですね。よく、部会員さんから『この枝物は売れるかな?』と聞かれるのですが、売れるか売れないかは出荷してみないとわからないのだから、自由にやってみては? とお話することが多いです」

まずは出荷してみて、どれくらい売れるかがわかったところで、さらに栽培にチャレンジしてみるということですね。

飯嶋さん「そういう自主性がこちらの部会員さんたちのやりがいにつながっていると思います。出荷先を決めることも部会員の皆さんにおまかせしています。市場にはそれぞれ特徴がありますし、出荷していくうちに、ここではこれを高く買ってくれたということがわかってくるんですね」

石川さん「枝物は、従来は生け花に使われることが多かったのですが、最近ではフラワーアレンジに使用することも増えたので、大ぶりのものだけでなく短めの枝物も作るようにしています。このように用途に合わせて、小さいものも大きなものも供給できるというのが、奥久慈枝物部会の特徴の1つでもあります。また、首都圏から近く、運送体制が確立されていることも強みだと考えています。今日もトラックで大きなウンリュウヤナギを送りますよ」

数mもの長さのウンリュウヤナギや、大ぶりの枝物も出荷。ハナモモを運ぶトラックに混載して東京へ。

たしかに、買いやすくて飾りやすいコンパクトな枝物を手軽に購入したいという思いは、一般消費者側のニーズではないでしょうか。さらに、消費者自身では栽培することも山に採りにいくこともできないような珍しい枝物と生花店で出会うことができたら、植物のある暮らしももっと楽しくなりそうです。

石川さん「たとえば、米農家なら毎年同じ米を作りますよね。野菜もそうですね。私たちの枝物栽培では、多い人は50〜60種類くらいを作っています。部会員の皆さんも、いろいろな枝物を栽培できるので飽きがこなくて楽しいといっています。あと5年早く始めればよかったといっている人もいますね(笑)」

部会の発足当初は、定年退職後の年金プラスアルファの収入になればという思いで、石川さんが仲間の皆さんに枝物栽培を勧めたと聞いていますが、現在の状況はいかがですか?

飯嶋さん「大きな規模で枝物栽培をやられる方も増えていますね。一方、自分のできる範囲、お小遣い稼ぎの範囲でやりたいという方もたくさんいらっしゃいます。そういうところも皆さんの自主性におまかせしています。生産の規模は様々ですが、産地としてはいろいろな品目を栽培しているので、市場からの注文に柔軟に対応できるところが奥久慈枝物部会の強みです。全国的に見ても、1つの産地でこうした出荷ができるところはそれほどないのではないでしょうか。市場の方々には、困った時の奥久慈、と思っていただけたらうれしいですね」

石川さん「かつてこの周辺では、枝物栽培はほとんどやっていませんでした。まったくの新興産地なんです。発足当初はみんなが栽培の素人だったから、『今度はこれを作ってみよう』『このやり方はダメだったからこうしてみよう』と相談しながらやってこられました。それが、私たちの強みになっているんです」

栽培も出荷も生産者自身にまかせているとはいっても、部会として売り先の開拓には力を入れてきた奥久慈枝物部会。今日の出荷でも、オリジナルのPOPを作成してハナモモとともに送ります。消費者へ向けたきめ細かなアピールも、産地を成長させていくための重要なポイントなのですね。

飯嶋さん「こうしたものをいろいろなところに展示したりして、名前をアピールすることにも力を入れています。新聞やテレビなどのメディアも活用しています」

ハナモモは邪気を祓うことをアピールしたPOP。「仲卸さんや花屋さんの店舗に飾ってもらいたいと思っています。花屋さんを応援するために、生産者ができることをやっていきたいですね」と石川さん。

枝物の一大産地として成長を続けている奥久慈では、若手の新規就農者も増えているといいます。次回は、建設業から農業に転身した新進気鋭の枝物生産者さんをご紹介します。お楽しみに!

閉校した小学校の跡地に建てられている促成施設。2棟目も建設中です。
取材協力/常陸農業協同組合 奥久慈枝物部会 石川幸太郎
茨城県県北農林事務所 飯島啓子
撮影/河野大輔
取材・文/高山玲子

 

 

この記事をシェア