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ハナモモの生産でコロナ禍も元気に!JA常陸 奥久慈枝物部会(2)

公開日:2021.6.21

前回は、茨城県のJA常陸 奥久慈枝物部会のハナモモの出荷の様子を紹介しました。今回は、ハナモモ出荷の現場で活躍していた枝物生産者の柳田雄介さんを紹介します。それでは、常陸大宮市内に広がる柳田さんの圃場へ、レッツゴー!

柳田雄介さん。4年前に建設業から転身して枝物生産者として就農しました。

ハナモモの栽培技術とは

前回のカルチベで紹介したハナモモの促成施設から車で数分のところに、柳田さんのハナモモ圃場があります。前回から引き続き、常陸大宮地域農業改良普及センターの飯嶋啓子さんにも同行いただいて、柳田さんにお話をうかがいました。

柳田さんは就農して4年目とお聞きしましたが、前職はどういったお仕事をされていたのですか?

柳田さん「建築業で大工をしていました。家を建てたり、リフォームしたりといった仕事を1人でやっていました」

大工さんからの転身とは、私たちも興味津々です! そのお話は後でまた聞かせてください。様々な枝物を栽培されているそうですが、そのなかでハナモモの売上はどれくらいでしょうか?

柳田さん「ハナモモは枝物全体の15%くらいでしょうか。ここの他に圃場は数ヵ所あり、合わせて300株くらいを栽培しています。品種は、新矢口、乙女川の2品種ですね」

ハナモモはすでに収穫が終わっているため、圃場にある樹はご覧のように主枝が残された状態でした。

飯嶋さん「柳田さんのハナモモの仕立て方を見てください。主枝を4本にして根本から広げるように誘引しているんです」

約90度の角度で伸びている4本の主枝。

なるほど、幹の根本のすぐ上から4本の主枝がバランスよくきれいに開心しています。これは柳田さんが考案した仕立て方なのでしょうか?

柳田さん「いえいえ、先輩から教えていただいて、試験的にやってみています。収量が上がるって聞いたので……」

飯嶋さん「実際に、通常の仕立て方より3割ほど収量が上がっているんですよ」

通常の仕立て方とはどういったものですか?

飯嶋さん「ただ放任するだけです(笑)。通常は、苗を植えてから芯止めをして、主枝を4本に分枝させるということはやるのですが、柳田さんの場合は、4本を広げるようにして、開心形に仕立てているんです。こうすることで枝が混み合うことなく、風通しが良くなります。主枝を5本以上にすると、枝が細くなったり、日に当たりにくい枝ができたりしてしまうんです」

主枝と主枝の間隔を広げておけば、収穫する際にも作業がしやすそうですね。

柳田さん「そうなんです。開心形にして樹高も低く仕立てているので収穫しやすいですし、芽摘み作業もしやすいです」

樹高は2m程度。脚立などは使わずに無理のない姿勢で作業できる高さに調整しています。芽付きが悪く収穫できなかった枝で作業のデモンストレーション。

柳田さん「僕は、樹高の低い開心形にするために、こういうやり方で枝を誘引しているんですよ」

柳田さんの誘引方法。2股に分かれた枝で誘引したい主枝を挟み、地面に突き刺して固定しています。

柳田さん「ロープで引っ張って誘引する方法も試してみたのですが、4mの株間にロープを張ると草刈り機が通れなくなってしまうので、枝で挟む方法になりました」

芽摘み作業をするということですが、芽摘みをする理由は何でしょうか?

柳田さん「他のハナモモ産地では、2年目の枝を収穫するようですが、僕たちの産地では1年目の枝を収穫して出荷しています。2年目は枝ぶりも良くなるのですが、1年目で収穫すると1本になってしまうんですね。芽摘みをすることで分枝を促して、枝ぶりを良くしています」

1年目の枝は木肌がつるつるしているんですよね?

柳田さん「そうなんです。それが僕たちのハナモモの売りでもあります」

就農4年目の枝物栽培の今

現在、44歳の柳田さん。就農前は大工をやっていましたが、4年前に農業に転身。就農することを決めてから1年間は奥久慈枝物部会の会長である石川幸太郎さんのもとで研修し、その後、近隣の畑を借りて、自身の栽培をスタートさせました。農業のなかでも枝物栽培を始めたのはどういう理由だったのでしょうか?

柳田さん「まず、農業を始めようと思った時にいろいろ調べてみたんです。イチゴ、トマト、ナスなどの栽培を考えたこともあったのですが、あまりしっくりこなくて。そんな時に、妻の姉のだんなさんが枝物栽培をしていることを聞き、その紹介で奥久慈枝物部会の石川さんに会い、枝物栽培の話を聞いたんです。そこで、これはおもしろそうだなと思ったのがきっかけです」

その時、枝物栽培がうまくいくという確信はあったのでしょうか?

柳田さん「いえ、まったくわからない状態で決めました(笑)。野菜の栽培なら、畑を見たこともあるので想像できたのですが、枝物については、なんだこれ? という感じでした」

飯嶋さん「一般の人からすれば、枝を見て、これがお金になるとは想像できないですよね(笑)」

柳田さん「そうなんですよね。でも、そういうところに魅力を感じました。そして、ここの産地はもともと多品目での枝物栽培をしていたので、自分も多品目で始めました」

柳田さんの圃場の広さと品目数を教えてください。

柳田さん「圃場は数ヵ所に分かれていて、合わせて4町5反ほどです。30種類くらいを栽培しています」

かなりの広さですね! 柳田さんお一人で作業するのですか?

柳田さん「僕と妻、あと、農繁期に義理の母に手伝ってもらっています」

では、ハナモモ以外の枝物を拝見できますでしょうか!

柳田さん「はい、圃場をご案内しますね。まず、こちらがサンゴミズキです」

鮮やかに色づいたサンゴミズキ。

サンゴミズキは、フラワーアレンジメントやディスプレイなどに多用される枝物ですね。とても美しく色づいていますね!

飯嶋さん「今はこのように色づいていますが、夏場には緑の枝に葉がついているだけの状態なので、知らない人が見たら、ここは何の畑だ? と思うでしょうね(笑)」

柳田さん「そして、隣にあるのが黄金ミズキです。これも、切った枝を地面に挿すだけで増やせます」

黄金色に染まった黄金ミズキ。

柳田さん「その向こうに植えてあるのがコニファーのブルーアイスという品種です。これは、クリスマスの頃に切り枝として出荷します。短いサイズで出荷できるうえに注文数も多い品目です」

クリスマスリースやアレンジメントの花材になるコニファー「ブルーアイス」(写真提供/柳田雄介)。

柳田さん「そのほかに、スモークツリー、ユーカリ、ロシアンオリーブ、アメリカリョウブ、ボケなども手がけています。部会で奥久慈桜として出荷しているサクラも栽培しています」

柳田さんの主力品目のスモークツリー(写真提供/飯嶋啓子)。
グリーンの葉色が美しいヒメミズキ(写真提供/飯嶋啓子)。
生花店でも人気が高いユーカリ(写真提供/飯嶋啓子)。
ロシアンオリーブ。オリーブとは異なる品目です。「ロシアンオリーブの栽培には成功していますが、オリーブはうまくいかないんです」と柳田さん(写真提供/飯嶋啓子)。
ヤナギ類を染める作業風景。奥久慈枝物部会では、年末近くになるとヤナギをゴールドやシルバーに染めた枝を出荷。クリスマスやお正月用の花材として人気があります。(写真提供/飯嶋啓子)。

様々な枝物を栽培されていますが、どうやって選択しているのでしょうか? 新しくトライする際の決め手になるのは?

柳田さん「基本的には、定番とされるものを植えています。あとは、これが売れそうだという直感、でしょうか。最近はシルバー系が人気だなとか、これはクリスマス時期に売れそうだなとか、そういうことも考えますね。もちろん、ここの気候に合うかどうかも検討します。けっこう失敗もしているんですよ。オリーブやミモザなども好きで植えてみたのですが、枯れてしまいました。こうしたことは植えてみないとわからないですね。今は、クリスマス用にブットレアのシルバーアニバーサリーという品種を試してみています」

枝物の多品目栽培が始まって十数年の新しい産地。試験的に栽培してみるというチャレンジ精神も大切なのかもしれません。部会で出荷先のルートも作られているので、安心してトライできそうです。

柳田さん「数が出せるので安心です。これからは単価を上げていくための努力もしていかないといけないと思っています。枝物栽培で生活が成り立つという形を作っていくことで、若い人も参入しやすくなるのではないでしょうか。販売方法を変えたりといったことも考えていきたいですね」

多品目栽培を実践する柳田さんが、年間を通してどの時期にどの品目を出荷しているかを聞きたくて、出荷表を作成していただきました。枝物栽培をすでに始めている人も、これから始めようと考えている人も、ぜひ参考にしてみてください。

枝物に対しての世間の評価は?

枝物を収穫する時、枝ぶりの良し悪しはどのように判断しているのでしょうか?

柳田さん「野菜の場合、出荷サイズの規格がありますよね。枝物も長さの規格はあるのですが、枝ぶりについては決まりがないので、栽培を始めたばかりの頃は、どういう枝ぶりが良いのかを見極めるのに苦労しました」

注文通りの長さに切ることはできても、枝の付き方や広がり方まで指示されているわけではないから、どういう形のものを出荷すれば気に入ってもらえるのかを判断するのは難しいのですね。

柳田さん「でも、いけばなの作品を見たり、都内の青山フラワーマーケットなどに行って、自分が出荷した枝物がディスプレイされているのを見ていたら、こういう枝ぶりのものを出すといいんだなというのがわかってきました。それがつかめてからは、使われ方、ディスプレイのされ方を想像しながら収穫するのが楽しくなりました」

生産者として、枝物の多品目栽培の動向をどのように感じていますか?

柳田さん「興味を持っている人がけっこう多いというのが僕の感覚です。花の施設栽培をされている方がユーカリやミモザを露地栽培したり、果樹園の方がオフシーズンに枝物を出したり、という話を聞いたこともあります。先程お見せしたコニファーは、植えっぱなしにしておくだけで消毒などしなくても育つし、12月頃の需要のある時期に出荷できれば利益になります。このように、枝物は他の作物との複合的な栽培が可能です」

消費者のニーズはどうとらえていますか?

柳田さん「昨年の10月と12月に、水戸のショッピングセンターで枝物だけの販売をしたことがあるのですが、枝物を飾りたいという若いお客さんが多く、流行ってきているのだと実感しました。ディスプレイ用として大きなものも持ち込んだのですが、これもけっこう売れたんですよ。枝物はなかなか買うことができないし、都内に買いに行っても高いし、と感じているお客さんに向けた販売もできると感じました。30種類くらい飾ったのですが、すごく映えるんですよ。楽しそうに演出すると、お客さんも興味持ってくれるんですよね」

野菜の栽培ほど、農薬や肥料の使用にセンシティブにならなくてもいい枝物栽培。地植えしていれば潅水の手間もなく、連作障害防除や改植も不要です。さらに、花や果樹栽培のように悪天候や台風の被害にあうことも少ないと、柳田さんは語ります。

柳田さん「野菜や花の場合は、タイミングを逃さずにどんどん出荷しないといけないけれど、枝物はそれほど急ぐ必要はありません。休みたい時に休むことができるんです。仮に、今年収穫しなくても、来年まで待てば2年目の枝として出荷することもできます。でも、やろうと思えばいくらでもやれるのが枝物栽培でもあります。僕は、基盤を作るためにも基本的には休みません。今は、フルにやってみてどれくらいの収益になるのか、妻と2人でどこまでできるのか、限界がきたらどうなるのかを見たいと思っています。それによって、今後、規模を拡大していく可能性もあるし、家族経営でやっていく可能性もあります。まだまだ不安は尽きません」

古くから、木々の枝ぶりの妙を味わい、季節ごとに咲く花々を愛で、変わりゆく葉色を楽しむといった植物との付き合い方を身につけてきた日本人。コロナ禍によって華やかでにぎやかなシーンでの植物の活用は減ったものの、ひとりひとりが植物と向き合う時間が増え、日本人の植物への思いが静かに再燃しているのはないでしょうか。枝物は、そんな日本人に寄り添うツールになり得ると実感した今回の取材でした。

取材協力/常陸農業協同組合 奥久慈枝物部会 柳田雄介
茨城県県北農林事務所 飯島啓子
撮影/河野大輔
取材・文/高山玲子

 

 

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