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【野菜】ミニトマト

公開日:2021.6.21

トマトといえば大玉トマトのことで、わざわざ「ミニ」をつけて呼ぶくらいだから、トマトのほうがもとになっていると思われるかもしれないが、実はトマトの原種はミニトマトくらいの大きさのものだった。南米が原産で、ヨーロッパ人が大航海時代にアメリカ大陸に進出し始めた15世紀末にはすでに中南米では食用利用されていたようだ。トウモロコシやトウガラシをはじめ、現地で栽培されていた様々な農産物とともに、このトマトもヨーロッパに持ち込まれたのだが、18世紀までは観賞用としての利用だけであった。

観賞用のトマトのなかに突然変異で大きな実をつけるものが出現し、珍しいからということで選別され、種が保存されたのだろう、イタリア人がトマトを食用利用し始めた頃にはトマトといえば大きなサイズのものであった。加熱調理して煮込み料理のソースや調味料のケチャップとして広く利用されるようになり、19世紀には世界中に広まって欧米人の間では定番の野菜として親しまれるようになったが、日本人の口には合わなかったようで、明治時代に入った後もほとんど食用利用されなかった。

その後、交配により様々な品種のトマトが生まれ、生で食べてもおいしいトマトが出現するようになった昭和の時代に入ってから日本の食卓にもトマトが上がるようになり、日本でトマトといえば生食用の大玉トマトのことを指すようになったのだ。しかし、ミニトマトが食卓に登場するのはもっと後の時代になってからである。

20世紀の初めにライト兄弟が世界で初めて動力飛行に成功してから技術革新が進み、日本でも二度の戦争で多くの航空機が利用された。そして世界各国でも新たな交通手段として空路が一般利用されるようになっていき、日本でも戦後には航空会社が設立されて一般人が空路を利用するようになっていった。

長い空の旅には機内食は欠かせないが、欧米でも生食用に利用されていたトマトはカットするとドリップが出てしまい、一緒に入れた他の食材をダメにしてしまう。そこで品種改良によって開発されたのがミニトマトで、実に長い年月を経て原種に近いサイズのミニトマトが再び世に出ることになったのである。その欧米便の機内食を食べた日本人が日本でも人気が出るに違いないと持ち帰り、それを受けた種苗メーカーが品種改良を重ねて誕生したのが「プチトマト」という品種のミニトマトであった。

戦後の高度経済成長の時代に人口が爆発的に増え、都心部ではマンションなどの集合住宅に住む人が増えていったのだが、その集合住宅のベランダでもプランターで栽培可能な野菜ということで、このプチトマトは人気が出た。

これを機に、多くの種苗メーカーが品種改良に取りかかり、たくさんのミニトマト品種が世に出ることになる。ミニトマトはその食べやすさ、利用のしやすさもあるが、トマトに比べて糖度が高く、食味の良いものが多かったので急激に人気が高まっていった。そのため、ベランダ栽培に留まらず農業生産地でもミニトマトの作付けが増えていき、量販店や飲食店でも一般的に利用される野菜として定着していった。

2020年に大阪市東部市場に入荷したトマトとミニトマトの入荷量と単価の推移を示したものが以下のグラフである。

入荷量はトマトのほうが圧倒的に多いが、単価はミニトマトのほうがかなり高い。特に夏秋ものと冬春ものの端境期に高騰する傾向があり、価格の変動もトマトに比べて大きいことがわかる。価格の弾力性は小さくてトマトよりも必需品的な要素が強いことがわかる。

赤色だけでなく、黄色、オレンジ色、茶色、緑色などの品種もあり、形も丸いものや楕円形のもの、ハート形のものなど様々な品種が流通している。また、房つきのまま流通しているものもある。

パック詰めで売られるのが一般的だが、市場に入荷してくるものは大きさごとにバラで段ボールに入ったものも多い。量販店では、これをパック詰めや袋詰めにするわけだが、様々な色や形のミニトマトを箱に入れて陳列台に並べ、消費者が好きなものを自分で選んでパックや袋に詰めるという販売方法も一時期流行した。今はコロナ禍の影響でなくなってしまったが……。

カラフルミニトマト

いまや定番の人気野菜となったミニトマトだが、品種による食味の違いもあり、糖度の高いものや食味の良いものをブランド化して販売している産地もある。和歌山県の「美味房(おいしんぼう)」や愛知県の「あまえぎみ」など商標登録されたものもある。

産地別に入荷量と単価を上位8位まで見てみると、その順位には大きな差があることがわかる。前述のブランド化販売をしている和歌山県や愛知県は単価も高い。大阪府の単価が高いのは、近隣の個人生産者がこだわりの品種や栽培方法により個人ブランドで入荷してくるためである。

ならば、もっとブランド化を進めれば単価が上がっていくのかというと、そう単純な話ではない。量が増えると価格競争が起きてしまうことと、高すぎると必需品としての枠を超えて嗜好品のようになってしまうため、さすがに需要は減ってしまうだろう。ブランド化は一部にしておき、入荷量が少なくなる端境期に安定して出荷できる品種を選別することと栽培技術を向上させることがポイントである。

 

著者プロフィール

新開茂樹(しんかい・しげき)
大阪の中央卸売市場の青果卸会社で、野菜や果物を中心に食に関する情報を取り扱っている。
マーケティングやイベントの企画・運営、食育事業や生産者の栽培技術支援等も手掛け、講演や業界誌紙の執筆も多数。

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