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大田原でネギの大規模経営に挑む!

公開日:2021.7.23 更新日: 2021.9.28
村上和幸さん、代表の勝則さん、絹恵さん。

関東の北端大田原市で、周年ネギを栽培

7月初旬、栃木県の大田原市へやってきました。北関東那須高原で栽培される「那須の白美人ねぎ」の産地としても知られています。

「冬は寒さや雪で収穫できない産地があり、夏は暑さが厳しくて作るのが難しい産地があります。その点大田原は、長ネギの周年栽培が可能な産地といわれています」

村上勝則さん(62歳)は、妻の絹恵さん、長男の和幸さん(38歳)とともに、コメ10ha、ネギ10haを栽培。「MKC農産」という屋号で出荷しています。

「Mは村上のM、Kは勝則、絹恵、和幸3人の頭文字、そしてCはネギを始めた父、千秋から名づけました」(勝則さん)

ロゴ入りのブルーのTシャツがユニフォーム。家族を中心に結束力の強さが感じられます。さらに村上さんの作業場には、同じTシャツを着たスタッフが十数名。ネギの搬入、皮むき、選別、箱詰め……。一連の出荷作業に追われていました。MKC農産は、村上家を中心とした、ネギのプロ集団なのです。

「シュバッ、シュバッ、シュバッ」

作業場から絶え間なく聞こえてくるのは、土つきのネギの皮を吹き飛ばす、エアコンプレッサーの音。
「ネギの根と葉を切って、皮をむく『ベストロボ』。今年3台買い替えました」
最新のマシンに土つきのネギを通すたび、真っ白に輝く白根が現れます。

最新の「ベストロボ」が、一本ずつスピーディーに皮をむいていく。

「ベストロボ」の登場が、規模拡大を実現!

ネギは、ラーメン、そば、やきとり、中華料理等、幅広いジャンルの料理になくてはならない存在。冬の鍋シーズンはもちろん、夏もまたニーズが高く、一年中愛される商材でもあります。生はピリリと辛く、加熱すると甘い。決して主役は張らず、地味な脇役ではあるけれど、少量でもネギがなければ成立しない料理がたくさんあるため「安定的に大量に栽培できれば、必ず儲かる」商品性の高い作物ともいわれています。

その一方で、播種から収穫まで半年以上を要する息の長い作物で、美しい白根を夏は25cm以上、秋冬は30cm以上作るには、5〜6回の土上げが必要です。さらにこれを人力で掘り上げるのはとても大変で、手間と労力を要するため、長い間、規模拡大が困難な作物とされてきました。

村上家では先代の千秋さんがネギの栽培を始めたのは、35年程前。当時は米が主力で、ムロで軟白させる軟化ウドも栽培していました。当時は転作で始めたネギを、鍬で掘り上げていたので、なかなか面積を増やすことができませんでした。ところが、

「15年前くらい前にベストロボ、その後、ネギの掘り取り機が入って、一気に規模拡大が進みました」(勝則さん)。

掘り取り機の登場により、一気に栽培面積が増え、「ベストロボ」がそれまで手作業だった根と葉のカットと、手間のかかる皮むきを機械化したことで、日本のネギの世界に一気に産業革命が起こりました。では、日本のネギ業界を飛躍させた「ベストロボ」は、どのように誕生したのでしょう? 製造元である株式会社マツモトの松本穣(ゆたか)社長にお話を伺いました。

「農家の声」をひとつずつ形に

「うちの会社は群馬の高崎にあるのですが、農業機械を作っていた父は、川向こうの深谷でネギ農家さんのお話を聞く機会が多かったのです」

同社は1953年に創業。農家に役立つ機械を作ろうと、営業マンたちは農家を訪ね歩き、ニーズを探っていました。深谷のネギ農家が求めていたのは、「ネギの皮むき機」。泥つきの皮を、上から3〜4枚手作業でむくのは大変な作業だったのです。

当時農家の人たちは、片手にネギ、もう片方の手にエアガンを持ってネギに吹きつけたり、ジェット水流を吹きつけるなど、あの手この手で皮をむいていました。もっと作業性が高く、衛生的な方法はないだろうか?  そこで考えたのは、エアガンを手に持つのではなく、数台を固定させ、ノズルから一気にネギにエアを吹きつけることで、瞬時に皮を吹き飛ばす方法でした。こうして1981年、元祖長ネギ皮むき機が誕生。その名もズバリ「むきむき」と名づけられました。

根っこの生え際ギリギリのポイントをカットしないと、中身が伸びて出てしまう。

続いてネギ農家から、「皮が自動でむけるなら、根と葉も自動で切り落とせないだろうか」という要望が寄せられました。これは皮をむくより難問でした。なぜならネギの「白根」と呼ばれる部分は実は「葉鞘(ようしょう)」という葉の一部で、土中に伸びる根と葉の間にある「茎盤(けいばん)」は、5mmしかありません。そこを外すと葉鞘の断面が現れ、切り口から中身が伸びて出てきてしまうのです。それでは商品価値が落ちてしまうので、幅数mmのポイントを狙って正確に切り落とさなければなりません。どうすればいいのだろう?

ある時、足のケガで入院した先代の松本弘社長は、病院でレーザー技術が取り入れられているシーンを目撃しました。

「これはネギに使えるかもしれない」

レーザー光線をネギの根元に当てることで、切断面を的確に調整して、出荷規格に適した位置で、根と葉を自動的に切り落とせるようになりました。まさしく怪我の功名。こうして1993年、根葉切り機「きり子」が誕生したのです。

となると当然のように、「『むきむき』と『きり子』を合体させたマシンが欲しい」との要望が上がります。こうして両者の機能が合体。1996年「ベストロボ」が誕生し、全国のネギ農家へ次々と導入されていきました。

「ベストロボが1台あれば、5kg箱を1日100ケース以上出荷できる。うちは今、3台導入しています』(勝則さん)

医療技術を応用し、レーザー光線で狙いを定める。

「レーザー光線の色を、変えてほしい」

それは長年このマシンを使い続けてきた村上さんの声でした。以前は赤いレーザーだったのですが、作業場の照明の下にネギを置くと、見えにくくなることがあるのです。そこで松本社長と村上さんが検討を重ねた結果、光線の色をグリーンに変えることになりました。すると以前よりも光線が見えやすく、カットするポイントを外さなくなったそうです。現場の声を取り入れながら、まだまだネギ専用マシンの進化は続きます。

難しい、夏ネギの栽培

夏の間は、暑さに強い「夏扇パワー」を栽培。

そんな村上さんのネギの圃場へ向かいました。収穫を間近に控えたネギたちが、整然と並んでいます。

「ネギは乾燥に強い反面、暑さと湿気に弱い。30℃を超えると生育が止まる。まるで暑すぎると元気がなくなる夏休みの子供のようです。7、8月の雨の時期は、湿度も上がるからネギが傷む。一年中出荷しているけど、このシーズンが一番大変です」(勝則さん)

35年前、千秋さんが始めたネギ栽培を、勝則さんが機械化することで規模拡大。そして14年前、和幸さんが加わりました。

「試験品種も含めて年間二十数品種作っています。春夏秋冬、全部作っていますが、季節によって管理の方法も、肥料の配合も違います。夏は肥料が多すぎると腐ってしまう。逆に冬場はじっくりじわじわ効かせるようにしています」(和幸さん)

和幸さんは、品種選びや施肥、除草等、栽培全般を担当。
丸富ねぎという独自のブランドでネギを販売。

以前は、出荷先を農協一本に絞っていましたが、3年程前から飲食店を中心に、「丸富」という独自のブランドで、ラーメン店等への直接取り引きも始めました。地元那須塩原市の森商店というラーメン店では、「村上さんのネギが入っています」と明記した、ネギラーメンが人気なのだとか。丸富ねぎの評判は口コミで広がって、自然に販売先が増えているそうです。

土上げと追肥を同時に行う管理機を開発

夏の間の主力品種は、「夏扇パワー」(サカタのタネ)。栽培期間の長い長ネギに、追肥は欠かせません。

「夏ネギのなかでも、この品種は一番難しい。パワーがあるので太るのが速く、ネギの“首元”が早く開いてしまいがち。ここが開くと腐りやすいのです」(勝則さん)

なので追肥のタイミングはとても重要です。20日〜1ヵ月に一度土上げと追肥を行っていますが、村上さんは地元のカントウ農機株式会社(本社・栃木県小山市)と協力して、土上げと追肥の作業を、同時に行う管理機を開発しました。

ネギ専用の土上げ機の先端に肥料を入れるボックスを装着。追肥も同時に行う。

手押しの管理機「ほる兵衞Pro」の先端に肥料を入れるボックスを取りつけ、土上げと追肥を同時に行えるスタイルを実現。村上さんの意見を取り入れて、何度も試作を重ねてようやく実用化されました。

村上さんはまた、みのる産業株式会社(本社・岡山県赤磐市)と協力して、「白ネギ用除草剤散布機」も開発しています。これは背負式の動力噴霧器を背負いながら、2畝同時に散布を行うスグレもの。絹恵さんがその使い方を教えてくれました。

「女性にも使えます。ネギの苗がまだ小さいうちに除草剤を撒いていきますが、畝間が調節できるので、キャベツやブロッコリーの圃場にも使えますよ」(絹恵さん)

動噴を背負いながら、畝間に除草剤を散布できる。

ネギ栽培には、除草、追肥、掘り取りなど、専用機が欠かせませんが、研究熱心な勝則さんは、「こんなマシンがほしい」、「こんな機能もつけてほしい」と現場から各メーカーに提言。それを取り入れて実用化に至ったものも少なくありません。それはまた、多くのスタッフが働く作業場にも反映されています。

ネギ調整プラントの設計も

再び作業場へ戻ると、最新の「ベストロボ」3台がフル稼働していました。皮をむく時に飛び散るホコリやゴミは、「専用の飛散防止ボックス」へ。そのままダクトを通して外へ排出する構造になっています。スタッフはラオスからの技能実習生も含め15名。誰もが働きやすい環境を作ろうという、村上さんの心遣いが伝わってきます。

作業中に出るホコリやゴミは飛散防止ボックスへ集め、ダクトを通して屋外へ。

土つきネギの搬入→根葉切り→皮むき→選別→箱詰め、残さの排出といった一連の作業がスムーズに流れるように、プラント全体の設計も株式会社マツモトが担当しています。

「作業所の規模、人数、動線もそれぞれ違うので、マシンの配置や残さを載せるコンベアの角度も、一から図面を引いて、オーダーメイドで設計しています」(松本社長)

同社は農家の「あったらいいな」をひとつずつ形にすることで、多くの専用機を開発。ネギ農家の機械化と大規模化を実現してきました。一方、村上さんは全国各地の大規模ネギ農家と情報交換。さらに収量と収益を上げる方法を探究し続けています。次はどんな「あったらいいな」が飛び出すのでしょう?

ベストロボをバージョンアップ。作業場全体の設計も担当した松本社長と。

勝則さん「今、ベストロボには、根葉切りと皮むきに2人の担当者が必要だけど、1人で動かせるマシンがあったらいいな」

松本社長「人手不足の昨今、そのようなご要望はよくいただくのですが……。がんばります!」

大田原で長ネギの栽培が本格化して35年。メーカーに現場の声を伝えながら、家族経営を軸に雇用を生み出し、大規模経営を着実に実現させてきました。これからも互いにキャッチボールを繰り返し、さらに栽培技術を高めていきます。

勝則さんを中心に一致団結。高品質なネギ栽培を目指す。

取材協力/株式会社マツモト
取材・文/三好かやの 撮影/杉村秀樹

ベストロボ MB-1DⅡ型光電センサー制御システム

「ベストロボ MB-1DⅡ型」は、ネギの根葉切り・皮むきの2つの作業が一台でできる。

㈱マツモトは、ネギの根葉切り・皮むきの2つの作業が一台でできる「ベストロボ MB-1DⅡ型」を発売しました。大型プラスチックバケットでネギを置きやすく、レーザー光線で根の切断位置が合わせやすくなりました。マツモト独自の「押さえて切る」方式により、きれいな切断面が得られます。皮むきは「タッチスイッチ」を軽く一回押して引き抜くだけ。左右2穴ノズルから大量空気が放出され、一瞬で皮がむけます。また、廃棄ダクトで皮を屋外に廃棄。室内空気の汚れが大幅に減少。音消・遮音カバー、プラスチックバケットにより音質が低くなっています。さらに、オプションとしてベストロボ専用ネギ残渣処理システム「マツコンセット・デラックス MB-ZS型」を設置することで、根葉切り・皮むき後の残渣をまとめて排出できます。ベストロボは2台まで連結可能です(3台以上設置する場合は特注で対応しますので、ご相談ください)。


お問い合わせ

株式会社マツモト
〒370-1201
群馬県高崎市倉賀野町2454-3
TEL 027-347-1921 FAX 027-347-1120
http://kkmatsumoto.co.jp

 

 

 

 

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