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【関西 野菜】スイートコーン

公開日:2021.8.23

スイートコーンとは、トウモロコシのなかでわれわれが野菜として食べている甘味系のものの呼び名で、トウモロコシにはデントコーン(飼料用)やポップコーン、デンプン用など様々な種類がある。

スイートコーンは甘味の強さや含まれている糖の種類によって、普通甘味系、スイート、スーパースイートなどに分類されるが、これらは甘味を司る3種類の遺伝子の組み合わせで決まっていて8種類くらいに分けられる。このなかで青果として市場流通しているのは「スーパースイート」、「ウルトラスーパースイート」またはこれらの改良種の4種類で、他のスイートコーンは缶詰加工用など業務用として利用されている。

また、スイートコーンは粒の色でも分類され、黄一色のイエロー、黄と白が3:1のバイカラー、白一色のシルバーの3種類が主だったもので、他にも3色のトリカラーなどもある。

トウモロコシの皮をむいた時に出てくるひげは「雌穂(しすい)」と呼ばれるトウモロコシの雌しべである。1つの粒から1つの雌しべが出ているのでひげの数と粒の数は同じで、このひげの先に雄しべの花粉が受粉することで粒が肥大する。受粉できなかった部分は粒が大きくならずに歯抜け状態になることもある。また、別の品種の花粉が受粉することで性質が変わってしまうことを「キセニア」(写真下参照)という。栽培する時、近くに別の品種を植えるのには注意が必要だ。同じウルトラスーパースイート系のイエロー品種同士なら良いが、デントコーンの花粉を受粉してしまうと糖度の低いコーンができてしまうこともある。また白色は劣性の遺伝子なので、白のコーンに黄色のコーンが受粉すると粒が黄色くなってしまうことがあるため、2種類以上の品種を作付けするときは離れた場所で栽培する必要がある。

キセニア

トウモロコシの原産地は不明だが、アメリカ大陸のメキシコ辺りと考えられており、15世紀の大航海時代にヨーロッパ船がアメリカ大陸に上陸を果たした際に持ち帰ってから広まった。日本へは16世紀にポルトガル船によって長崎に伝えられたのが始まりで、「フリントコーン」という硬粒種だった。これが九州や四国の山間部で作られるようになり、水田や畑地の少ない地域で栽培できる重要な食糧源として各地へ広がっていった。スイートコーンが日本に持ち込まれたのは明治時代の初期に北海道の開拓が始まった時で、アメリカから来たゴールデンバンタムという品種が最初で、その後スーパースイート種の「ハニーバンタム」、「ピーターコーン」などが生まれ、おやつとして人気が高まっていった。

九州産地のハウスものの早出しからスタートし、徳島、愛知、関東、長野、北海道と産地リレーしていく。関東ではウルトラスーパースイート系イエロー種の需要が高いようだが、関西での需要は関東ほど際立ってはいない。しかし少しずつウルトラスーパースイート系イエロー種の人気が高まってきている。

昔から屋台でも人気のスイートコーンだが、最近は加工技術が高まっていることなどから屋台や外食での生果の利用は減っており、1本丸ごとのレトルトや缶詰などが利用されることが多く市場経由率は低い。消費者ニーズは高いのだが、季節商材であり週末需要の高い品目であることから、市場配荷の品目としてはそれほど伸びていないのが実状である。生産者が高齢化していることもあり、収穫や運搬が大変なわりには売価が量販店で固定化されてしまっている傾向がある。生産者にとっての魅力はそれほど高くはなく、他の作物に移行している生産者も増えており、生産量自体も増えておらず横ばい状態である。

シーズンになるとインターネット、SNSなどで様々な産地や品種が取り上げられ人気は高いのだが、野菜というよりはおやつ的な要素が高く、おかずとして利用されるのはどちらかというと缶詰など手軽で安価なもので、安くておいしい嗜好品として認識されているようである。またアブラムシやアワノメイガ、カメムシ、コガネムシなどの虫害に遭いやすく、外からはわからないが皮をむいてみると給餌跡が残っていたり、虫そのものが残っていたりすることもあり、クレームの対象になることもある扱いの難しい品目でもあり、高単価での販売は難しい。栽培地では鳥獣害も増えており、ネットなどの対策に手間やコストもかかるが100%被害を食い止めることもできず、害鳥獣の多い地域では歩留まりが悪い。

人気は高いので消費者にとっての魅力と生産者にとっての魅力のギャップを埋めることができればまだまだ将来性のある品目なのだが、なかなか難しいのが現実である。

 

著者プロフィール

新開茂樹(しんかい・しげき)
大阪の中央卸売市場の青果卸会社で、野菜や果物を中心に食に関する情報を取り扱っている。
マーケティングやイベントの企画・運営、食育事業や生産者の栽培技術支援等も手掛け、講演や業界誌紙の執筆も多数。

 

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