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【関西 果実】スイカ

公開日:2021.9.6 更新日: 2021.8.27

じりじりと焼けつくような太陽の日差しが肌をさす。じっとしているだけでも汗が流れ落ちる。それに追い討ちをかけるようなやかましいセミの声。日本の夏は暑い。そんな日本の夏の救世主にふさわしい果物がある。それがスイカだ。

かつては子供たちにとっての夏のご馳走だった。お土産にスイカを抱えて来た客人は子供たちのヒーローですらあった。冷たく冷えたスイカを切り分けて、奪い合うようにむしゃぶりつく。ほのかな甘味と、あふれるほどに蓄えられた水分が、のどの渇きを潤す。まさに夏の風物詩。スイカのない夏など、日本の夏ではないといっても過言ではなかった。

しかし、そんなスイカも昨今では他の果物やスイーツに夏の主役の座を奪われてしまった。高度経済成長の陰で子供の数が減り、核家族化が進んだ。かつての日本家屋はマンションへと姿を変え、庭つきの家などそうそう見られなくなった。スイカは大きくて冷蔵庫に入らない。家族が少ないから一度に食べられない。ゴミがたくさん出る。スイカなんて食べなくても、他においしいものがたくさんあるじゃないか。そうして、かつては夏の主役であったスイカは、徐々に存在感が薄れていったのだ。

作る側からもスイカは大変だ。苗の管理、定植後の誘引作業、受粉とつるの管理。放任でも栽培は可能だが、家庭菜園ならともかく商業利用となると簡単にはいかない。生育期の温度管理と、受粉から収穫までの日数を逆算してからの管理がかなりシビアで、玉サイズや品質も良いものを出荷するためには手間暇がかかる。大きくて重いので収穫や運搬も大変で、色や形の悪いものは商品価値が低く、割れたら当然ゼロになる。作付面積も出荷量も年々減少の一途をたどっている。

一方で1958年に品種改良によって登場した小玉スイカがある。小さいからという意味と、当時新幹線の「こだま」の運行が始まったことからちなんで「こだまスイカ」と呼ばれるようになったらしい。大玉スイカに比べると栽培はやや容易で、収穫や運搬については圧倒的に楽だ。それならばスイカはどんどん小玉スイカに代わっていったのかというと、そうでもない。大玉スイカに比べると単価は安めで、1玉の値頃感というのがあるため入荷量が少なくても単価は伸びにくい。また、大玉スイカは切り売りが可能なので、時代が進むとともにカット販売が主流になっていったのだが、小玉スイカは基本は玉売り販売なので、1個単価で考えると割高に感じてしまう。ニーズはあるのだが生産者的な魅力はそれほど高くないのかもしれない。

下記の大阪市東部市場に入荷してくるスイカと小玉スイカの過去5年間のデータを見ると、大玉スイカは入荷量が減少傾向で単価は上昇傾向なのに対して、小玉スイカは真逆だ。

生産者側の魅力と消費者側のニーズに大きなギャップが生じていることがわかる。

産地別にみると、大玉スイカは入荷量の差はあれど産地がリレーしていることがわかるが、小玉スイカは大産地に偏っていることが見て取れる。

カボチャなどに比べると魅力的だということで移行して作付けが増えたものが、他に魅力的な品目が出現すれば一気に取って代わられる可能性もある。いずれにしても、スイカ全体の作付けや出荷量は減少傾向が続いていくだろう。

スイカの生まれ故郷はアフリカの砂漠。砂漠の植物は、自らが必要とする水分を確保するために、根や葉に水分を蓄えるという。サボテンなどがその典型だ。しかし、スイカは違う。スイカは、その水分を根や葉ではなく実のなかに蓄えるのだ。

自分が生きていくために必要な大切な水分を、なぜスイカは実に蓄えるのだろうか? その答えは、なんとも涙ぐましいスイカの生き様にある。「わが子の将来のため」。そう、スイカは自らの身を削ってでもわが子のために尽くすのだ。

野菜や果物は、その種子を鳥などの動物に運んでもらって繁殖する。だから、鳥などに食べてもらいたいがために、おいしい実を実らせるのだ。食べられた果実のなかには、種子が含まれていて、動物のお腹のなかをゆっくりと移動する。そして、消化されることなく排出されるので、遠く離れた地域にまでその繁殖先を広げることができるのだ。

スイカも例外ではない。鳥などに食べてもらうため、砂漠のなかで目立つように縞模様の実をつけ、最後まで食べてもらえるように、中心ほど甘くなっている。しかし、それだけではない。砂漠のなかでは、他の動物にとっても水分の補給が生命線だ。その水分を与えてくれるのが、実はこのスイカなのだ。

自分が生きるためにも水分は欠かせない。でも、それでも、わが子の将来のため、種子を運んでもらうために、その水分を他の動物に与えるのだ。スイカの実の90%は水分だ。スイカは、砂漠のなかで動物たちのオアシス代わりとなっている。日本の夏だけでなく、スイカは砂漠のなかでも救世主だったのだ。

「私の大切な水分を差し上げます。だから、どうかお願いです。私の大事な子供を、どうかよろしくお願いします」。かつては家族団欒の象徴であったスイカの存在は、わが子を守る「母の心」そのものだったのだ。

わが子の将来のために自らの身を投げ打つスイカの姿。日本の夏の風物詩としてのスイカの勇姿を、再びよみがえらせてもらいたいと願う。

著者プロフィール

新開茂樹(しんかい・しげき)
大阪の中央卸売市場の青果卸会社で、野菜や果物を中心に食に関する情報を取り扱っている。
マーケティングやイベントの企画・運営、食育事業や生産者の栽培技術支援等も手掛け、講演や業界誌紙の執筆も多数。

 

 

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