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バイオスティミュラント特集

公開日:2021.9.24

海藻資材や微生物資材など、これまで農業現場へ親しまれてきたものの総称として呼ばれているバイオスティミュラント資材。ここ数年、日本バイオスティミュラント協議会が発足したこともあり、関心が高まっている。今回は、バイオスティミュラントの定義と、編集部注目の資材をご紹介する。

本企画は「農耕と園藝」2021年冬号、「バイオスティミュラント特集」との連動企画です。

バイオスティミュラントとは何か?

日本バイオスティミュラント協議会 事務局長 須藤修

バイオスティミュラントという言葉を耳にしたことがあるだろうか。地球温暖化に起因する様々な作物の障害が各地で報告されているなかで、バイオスティミュラントはそれらの問題解決手段のひとつと考えられている。

バイオスティミュラント先進国であるヨーロッパでは、EuropeanBiostimulants Industry Council (以下、EBICが2011年に設立された。農業をより持続可能で弾力性のあるものにし、植物バイオスティミュラントの使用を促進するために発足した団体である。日本もこれに遅れること7年、2018年に日本バイオスティミュラント協議会(以下、JBSA )の設立に至った。3 年後の現在では農業関連企業を中心に100 社以上の企業・団体が所属する。バイオスティミュラントが次世代の農業ソリューションの要であり、多くの注目を集めていることがよく表れている。

バイオスティミュラントの何が新しいのだろうか。海藻や腐植酸は長らく農業現場で使用され、それぞれが個別の産業として成長を遂げてきた。それに対して現在ではバイオスティミュラントという1つの概念のもとに、関連産業を再構築し、同じ目的を達成できる総合的な枠組みとして認識されるようになってきた。これが農業における新たな潮流となっている。

近年の日本の状況

農林水産省による地球温暖化影響調査レポートでは、日本列島は毎年のように記録的な高温や大雨に見舞われ、農作物被害も増加傾向にある。水稲では白未熟粒の発生が深刻な問題である。リンゴやブドウなどで着色不良、着色遅延が起きる。トマトでは着果不良や不良果の問題が収益減を導く。これらの問題に対し、水管理の徹底、高温耐性品種の導入、栽培地の高台への移動などの対策は考えられるものの、すべての作物に対してこれを行うことはコスト的にも現実的ではない。そこで農薬や肥料のように現場で使用できる対策資材「バイオスティミュラント」への期待が高まっている。

バイオスティミュラントの定義

バイオスティミュラントの定義は長らく曖昧なものであった。未だ米国でも法的定義はなく、日本も同様である。最大のバイオスティミュラント市場を有するヨーロッパでは、EBIC によって次のように定義されている。

「植物向けバイオスティミュラントはそれ自身の栄養素量に関係なく、植物栄養素の効率化、非生物的ストレスへの耐性付与、または農作物の品質特性を向上させる目的で、植物に適用する物質または微生物である」。また、その機能は植物の自然のプロセスを刺激して起こると言及されている。

バイオスティミュラントは植物の活力にのみ作用し、病気、昆虫、または雑草に対して直接的な作用を提供しないことに注意することが重要である。また、農薬取締法で管理されている植物成長調整剤とは一線を画すものである。

バイオスティミュラントの分類

バイオスティミュラントは多種多様な物質と微生物が含まれる資材群であるが、これらをいくつかのカテゴリーに分類することができる。ここではScientia Horticulturae (vol.196, 2015 )によるバイオスティミュラントのカテゴリー分類を若干アレンジして紹介する。

海藻エキスと植物エキス

海藻より得られた抽出物であり、長らく肥料や土壌改良材として使用されてきた。農業分野で利用される海藻のほとんどは、褐藻類に属しており、主な属としてはアスコフィラム属、ヒバマタ属、コンブ属、エクロニア属にあたる。含有される物質は多彩で、多糖類のラミナラン、アルギン酸やそれらの分解産物、植物の生長促進に関与する成分として、微量栄養素、ベタイン、各種植物ホルモンが含まれる。旧来の認識では、海藻エキスの効果は土壌の物理的な改善、土壌微生物相へのポジティブな作用、海藻に内在する植物ホルモンの作用などが考えられていたが、近年、乾燥耐性の付与や抗酸化による作物保護機能に代表される非生物的ストレスの調節作用が注目されている。

タンパク質加水分解物(アミノ酸、ペプチド)とその他のチッ素含有化合物

植物源と動物廃棄物の両方から化学的または酵素的タンパク質加水分解によって得られるアミノ酸、あるいはペプチドとの混合物。その他のチッ素分子にはベタイン、ポリアミン、非タンパク性アミノ酸などがある。グリシンベタインは、植物の浸透圧調整や抗ストレス作用がすでに農業場面で利用されている。タンパク質加水分解物は土壌微生物の活性を高め、土壌の肥沃度に貢献することが知られているが、シグナル伝達による酵素の調節やホルモンの活性化についても研究されている。5- アミノレブリン酸、グルタチオンなどのアミノ酸・ペプチド類は、単一化合物としてのバイオスティミュラント効果の立証が進められている。

フミン酸とフルボ酸(腐植物質)

植物、動物、および微生物の残留物の分解の結果として、土壌中に自然に発生する有機酸である。腐植物質の効果は起源や環境条件、適用した作物、適用量・方法で変化するといわれている。土壌肥沃度に重要な因子として認識されており、陽イオン交換容量の増加とともにリン酸の利用性の改善効果が知られている。その最大の効果は根の栄養吸収能の改善である。また腐植物質が作物のストレス反応を調節することも示唆されている。

無機化合物(ミネラル)

植物の生長を促進する元素のうち、微量必須元素にあたるミネラルは肥料的な効果を持つと同時に植物の生理の調整機能を持っている。鉄、亜鉛、銅、モリブデンなどのミネラルは酵素タンパク質の中核をなす元素で、光合成反応も二次代謝物質の合成もすべて酵素による化学反応である。特に鉄は葉緑素の合成やアミノ酸の合成に関わる非常に重要なミネラルである。これらの元素の不足は生理障害という形で生育遅延や収穫物の劣化を招く。ミネラルの補給では、土壌水分、土壌粒子の帯電、㏗、他元素との拮抗など、その吸収に影響する要因には細心の注意を払う必要がある。必須元素以外にも有用元素と呼ばれるミネラル群、例えばケイ素やナトリウムも細胞壁の強化や浸透圧ストレスに関わっているとされている。

有益な微生物群

真菌ベースの資材として、菌根菌は多くの植物と共生でき、ミネラルの可溶化、根量増加、根の活性向上などの効果が確認されている。また、トリコデルマ属種の微生物は菌間寄生性や病害抵抗性誘導の性質を利用して生物防除材としての使用実績がある一方、非生物的ストレスへの耐性、栄養素の利用効率、器官生長および形態形成の向上(根張り効果)など、多くの植物反応を誘導する。細菌を利用したバイオスティミュラントはPGPR (植物生長促進根圏細菌)と呼ばれ、「プロバイオティクス」、すなわち植物の栄養素および免疫に効率的に寄与するとみなされている。その他、バチルス菌や放線菌を含む有用微生物群は根圏環境全体を改善し、土壌改良資材と土壌、植物を結びつける緩衝材的な役目を担っている。

キチン、キトサンおよびその他の生体高分子

キチンは甲殻の主成分で天然に存在する物質である。一方、キトサンはキチンが脱アセチル化された天然に存在しない物質である。両者とも多糖高分子であるが、異なる物質であることは広く知られていない。長年これらの効果は病原菌類に対する植物保護に焦点が置かれて研究されており、作用は異なることが報告されている。また、これらが非生物的ストレス(高温、乾燥など)への耐性付与、ならびに収穫物の品質特性に影響を与える報告もあり、この効果を付け加えるべきである。前述の海藻多糖類などの生体高分子も類似の作用を有する。生物防除とバイオスティミュラントは区別して取り扱う必要はあるものの、シグナル伝達経路は綿密に関連しあっていると考えられている。

その他バイオスティミュラント

新たなバイオスティミュラントの開発も実現している。植物間コミュニケーション物質として知られるトランス- 2- ヘキセナールは、ストレス情報を伝達し、植物の抵抗力の調節に関与している。これを利用し、高温耐性や気孔開放による光合成の活性化を提供する新しいタイプのバイオスティミュラントも商品化に至っている。

バイオスティミュラントの利点

バイオスティミュラントを適用することの利点は、次のように考えられる。

①栄養素の効率化
土壌からの栄養素と水の移動および吸収、輸送、根の発達、栄養素の貯蔵および同化を含む。

②非生物的ストレスの緩和
高温、渇水、塩類障害、日照不足などの環境ストレスに対する耐性。農薬、特に除草剤使用時のストレス軽減のためにバイオスティミュラントが用いられていることも応用的な使用例であろう。

③植物生理の適正化と品質特性の維持
生長ステージごとの植物ホルモンバランスの適正化と収穫物の品質、栄養価、色素形成、保存期間など、多岐にわたる。

④根圏環境の適正化
植物と微生物の相互作用による根圏全体の健全化と土壌肥沃度の改善。

⑤前記4項目のいずれかの複合的な要因による作物の増収(経済的収益増)。

バイオスティミュラントの規制

EU諸国では、現在バイオスティミュラントを法的に管理しようとする動きが進んでいる。長年の議論の末、欧州肥料規制のなかでバイオスティミュラントを管理するレギュレーションが構成されつつある。バイオスティミュラントを安心して使用するためには、その作用機序と効果の有効性についての裏付けを準備することが求められる。毒性学的なリスク評価はもちろん、一定の指針の中で有効性評価に規制を持つことはバイオスティミュラントの技術と市場の発展には必須であろう。

おわりに

バイオスティミュラントを取り巻く基礎科学は急速に進歩しているが、農業現場での応用は残念ながら未熟と言わざるを得ない。これは、本技術が「植物-環境-バイオスティミュラント」という三つ巴の関係性の上で成り立ち、加えて混合物主体の資材であるところが、更なる複雑性の要因となっている。施用後の結果を現場で注意深く観察、測定することこそが、どの製品が生産者に真のメリットを生み出すかを見つけるための鍵となるであろう。

参考文献
Patrick du Jardin, (2015). Plant biostimulants:
Definition, concept, main categories and regulation:
Scientia Horticulturae Volume 196

平成30年地球温暖化影響調査レポート 農林水産省

「農耕と園藝」2020年秋号より転載・一部改編

 

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