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第145回 戦前におけるダリアの流行について(4)

公開日:2021.11.19

 

「ダリア 1反歩の副業栽培」

[掲載]『実際園芸』第14巻第4号増刊号
[著者]渡邊正平(東京郊外・代々木農園園主)
[発行]誠文堂新光社
[発行年月]1933(昭和8)年3月

[入手の難易度]難

戦前のダリアについての記事を3回に分けて述べてきたが、最後に、昭和8年時の切り花栽培の様子について書かれたものを紹介する。1933(昭和8)年3月、渡邊正平(東京郊外・代々木農園園主)が書いた「ダリア一反歩の副業栽培」という記事。想像以上に多様な種類を切り花として扱っていたことに驚く。また、現在、切り花栽培の手法として注目されている、栄養系の苗による生産に近い方法(掻き芽、挿し芽栽培)も、この時期に行われていたことがわかる。非常に興味深い記事である。

図1 切り花用ダリアの品評会の様子(『実際園芸』第14巻第4号、昭和8年3月)。

・農家の副業として園芸が絶好なものとして紹介されるが、私はダリアほど好適なものはないと思う。その栽培地はいかなる所でもよく、すなわち地味の非常な肥沃な所でも反対に非常に痩薄な土地でも栽培できてしかも収益が多いからだ。

・ダリアの栽培には切り花を目的とする場合と、球根を目的とする場合がある。

・どんな品種がよいか
まず、ポンポン咲が第一である。大輪ものでは、カクタス、ディコラチーブ、ピオニー等のなかで花首の強いものが適している。ポンポン咲は切り花の数も多く切れるし、輸送にあたっても花傷みが少ないので、大輪ものより副業栽培には遥かに優れている。しかし一輪の値段は大輪ものには遥かに及ばないが、前述のように数を多く切れるだけに有利となる。

以下、各花型について品種の説明、栽培方法についての記述があるが省略する。

図2 露地のダリア栽培場の様子(『実際園芸』第14巻第4号、昭和8年3月)。

・切り花栽培にあって、特に注意すべきことは、ダリアが1尺5寸くらいに伸びたならば必ず支柱を立ててやることである。支柱を立てずに置くと、風またはその他の原因で往々にして倒れることがある。倒れると枝が曲がり、花首がさらに上に立ち直るので切り花としての価値が全然なくなってしまうような結果となる。ことに9月10月には日本では大暴風が多いから十分注意しなければならない。万一倒れた場合は直ちに起こすようにしないと前述の如き結果を招くこととなる。また折れた枝は必ず切り去る事を忘れてはならない一つの仕事である。

・一般に需要者の間には二つの希望がある。すなわち、切り花として花が小さくても咲いていればいいという人と、ポンポンにしても大輪ものにしても花は小さくても立派に真っ直ぐに咲いているのを好む人があるから、販売の上には常にこうした需要者の好みということも常に研究すべきことであろうと思う。

・立派な、つまりダリアの大輪の上物を作るにはどうするかというと、枝数を制限する、すなわち1株から、7〜8本くらいの枝を出しその一枝に一花を咲かせるようにするのである。

図3 切り花用ダリアの露地栽培圃場の様子。40~50cmほど伸びたら株ごとに支柱を立てるのが必須だった(『実際園芸』第14巻第4号、昭和8年3月)。

・掻き芽および挿し芽に依る切り花栽培
ダリアの球根を植えると一球から2〜3本も芽が出るから、5〜6月頃に掻き芽をして、砂と土を半々くらいにして作った挿し芽用土にこれを挿し日陰に置けば必ず活着するものであるから、こうした挿し芽苗を養成しておき7月の半ばすなわち土用までに畑に植え込んで肥料を施し管理していけば切り花を得ることができる。

・この場合、一株からは3本ないし4本の枝を出して他は取り去るようにすれば、9月下旬から10月にかけて、球根では見られないような大輪なみごとなものが咲くものである。

・挿し芽によってもまた掻芽と同様な立派なものが得られる。挿し芽の時期は前者と同様4月から6月中がよく、この間ならば必ず根付くものである。挿し芽は地に直接行ってもよいが、それよりは小鉢(2寸鉢)に一本ずつ挿した方が成績が遥かによい。

・挿し芽を取る場合は側枝が出る直下を切るようにする。あまり離れて切ると来年の芽が出ないような結果となる。そしてなお挿し芽とするものは細いものほどよいようである。かくして切った挿し芽は挿す前に葉を各々半分くらいに切断しておくことも大切である。

・挿し芽後遅くとも4週間を経れば根が出てくる。早いものは2週間ぐらいで発根することもある。発根の有無は葉の勢いによって誰にでも見分けることができるし、また根は白く鉢の周囲に出てくるのですぐに知ることができる。

・発根したならば直ちに畑に定植してもよいが、でき得れば小鉢に水を施し、そのまま縁を叩いて抜き取り、4、5寸鉢に肥料分のある土を入れ移植を行い、そして土用前に畑に定植すればなおさらよいのである。しかし農家の副業としては労力の点を考慮して行うべきであろう。畦幅および株間は球根の植付の場合と同様である。

・暑中の刈り込み  
球根を植え付けた場合は、8月中は最も花が悪くなり需要も少ないので秋によい花を得るために次のような方法が行われている。すなわち、7月下旬から8月の上旬に今までに生育してきた枝を刈り込んでしまうのである。刈り込みは枝の一部を1節または2節だけ残して刈り込むのであるが、かくすると残された節からは勢いのよい芽を出してくる。この芽を育てていけば秋にみごとな花を咲かせることができる。(中略)暴風の被害の点からもぜひ行うべき手入れ法である。

・切り花を切る時は夜分か早朝に行うのが最もよい。その日に100本なり200本なりを切ったものを20本あて1束とし花は動かないようにしっかり押しつけるようにして新聞紙で包み、それを更に5束または10束を一つとして市場または小売屋に出すのである。

・最もよい相場(小売)では大輪の上物は6月中および10月初旬のものは1本15、16銭から20銭見当であり、ポンポン咲では7、8本で10銭くらいである。最も昨今はポンポン咲100本30銭くらいが普通である。(※白米10キロの価格が当時1円90銭として現在4000円と考えると、現代なら上物300~400円、ポンポン30円くらいだろうか。)

球根を目的とする栽培法についても記録があるが省略する。

参考
『実際園芸』各号 誠文堂新光社 1926~1941
『横浜植木物語』近藤三雄他 誠文堂新光社 2021年
『横浜植木株式会社100年史』横浜植木株式会社 1993年

著者プロフィール

松山誠(まつやま・まこと)
1962年鹿児島県出身。国立科学博物館で勤務後、花の世界へ。生産者、仲卸、花店などで勤務。後に輸入会社にてニュースレターなどを配信した。現在、花業界の生きた歴史を調査する「花のクロノジスト」として活動中。

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