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【関西 果実】西洋ナシ

公開日:2021.12.10

「秋の味覚」、「収穫の秋」など、秋は農産物の収穫の時期を彷彿とさせる季節だ。秋が深まってくると空気が乾燥して、日々の気温や天気は目まぐるしく変化し、朝晩の寒暖の差も激しくなるため体調を崩しやすくなるといわれている。

中医学(漢方)では肺を潤す食材としてナシが良いとされており、体内の水分を正常な状態に戻す作用があって、皮膚や気管支を乾燥から護り、咳を鎮める効果があるということで秋になるとよく食べられるらしい。生のままだけでなく、過熱して食べることも多いのだとか。しかし日本ではナシの旬は夏から初秋にかけてで、空気が乾燥してくる晩秋はもうナシの時期は終盤だと思うのだが、なぜ秋なのだろうか?

実はナシには和ナシ、西洋ナシ、中国ナシの3種類があり、原産地はすべて中国大陸だが、その形も旬の時期もすべて異なる。和ナシは中国大陸から日本へ渡って来て品種改良されたもので、一般的に形は真ん丸で夏から秋にかけてが旬となり、収穫したらすぐに食べる。中国ナシは、形はいびつな西洋ナシに似たものだが、和ナシと同じく収穫したらすぐに食べる。しかし旬の季節は秋から冬にかけてと中医学のナシの季節が当てはまるわけだ。これらに対して、西洋ナシは中国大陸から西ルートでヨーロッパに渡ったもので、形は中国ナシと同様いびつな形。しかし収穫してすぐには食べられず、追熟を必要とするナシで、食べられる時期は秋から冬にかけて。追熟に技術を要する上、味にバラつきがあるのでヨーロッパではコンポートなど加熱調理して食べられることが多い。

日本での西洋ナシの栽培は、明治時代に入ってから始まったが、最近まではほぼ缶詰として利用されていた。しかし研究が進み、栽培技術や追熟技術が年々高まったことから生食利用されるようになり、今では海外でも日本の西洋ナシがおいしいと評価されるまでに至った。

産地としては初めて西洋ナシが導入された山形県が全体の3分の2以上を占めており、その他、青森県や新潟県など北日本の冷涼な地域で主に栽培されている。

一番多く生産されている「ラ・フランス」。
新潟県の特産品となっている「ル レクチエ」。

品種としては山形県で主に作られている「ラ・フランス」が全体の6割以上を占め、次いで初めて日本に持ち込まれて缶詰加工用に生産されていた「バートレット」、新潟県の特産である「ル レクチエ」が比較的生産量は多いが、「ラ・フランス」以外は大差なく、他に青森県の特産である「ゼネラル・レクラーク」など全体で約20種類くらいが日本国内で栽培されている。

大阪市東部市場に入荷された西洋ナシは、山形県が全体の90%以上を占めており、品種もほとんどが「ラ・フランス」である。

入荷量は微減傾向からここ数年は横ばい状態で、需要も高まっているとはいいがたいが、この季節の売り場のにぎやかしとしてはなくてはならない品目でもある。

西洋ナシは追熟して食べるので食べ頃の見極めが難しく、量販店の店頭などでも説明して販売しているわけではないので消費者にとってはハードルの高い果物という認識になってしまっている。「さびが出る」とか、「形がいびつで見た目が悪い」というのも手が出にくい要因の一つで、本当に好きな人しか購入しない傾向が強い。

ふるさと納税やお歳暮等のギフト需要もあるが、近年は果物単体よりもセットものの需要が高いため、全体的には減少傾向にある。生産地としても貯蔵施設が必要で貯蔵期間中のコストがかかるということもあり、既存産地以外に産地が増えていくことも考えにくい。また西洋ナシだけを専門に栽培している生産者はほとんどおらず、他の果樹も栽培していてどちらかというとモモやブドウなど売れ筋商材の栽培比率が高まっている。

それでもコアなファンはいて、「ラ・フランス」だけでなく他の品種を求める声もあり、インターネット通販や果物専門店などでは差別化アイテムの一つとして、酸味の少ない「マルゲリット・マリーラ」だとか、舌触りの良い「ル レクチエ」だとか、「カリフォルニア」や「レッドコミス」などの果皮の赤い珍しい品種だとかが売られていたりする。

ディープなファンを惹きつける「レッドコミス」。

単価としては上昇傾向なのだが、栽培の手間やコストを考えると生産意欲を向上させるほどではないようで、高くないとはいえ需要が減っているわけではないのに出荷量は現状維持がやっとというところである。生果を食べたことのない消費者にいかにして食べ頃やおいしさを伝えていくかというのがポイントで、貯蔵施設や出荷時期なども考えると地域を挙げての取組みが不可欠だ。

 

著者プロフィール

新開茂樹(しんかい・しげき)
大阪の中央卸売市場の青果卸会社で、野菜や果物を中心に食に関する情報を取り扱っている。
マーケティングやイベントの企画・運営、食育事業や生産者の栽培技術支援等も手掛け、講演や業界誌紙の執筆も多数。

 

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