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【関西 野菜】レンコン

公開日:2022.3.12

沼沢地や水田で栽培されるレンコンは、日本各地でお城の堀に植えられ、非常用の食材として用いられたという逸話が残っている。ことの真偽は確かではないが、レンコンは昔から日本人にとってはなじみの深い野菜だったようだ。日本最古の歴史書である『古事記』にも登場し、平安時代以降には食用にも利用されていたとの記録がある。

名前のとおり「ハス」の「根」なのだが、このハスの歴史となるともっと古くなる。

まだ人類も誕生していない遥か昔の白亜紀の地層から佐賀県でハスの葉の化石が見つかったのだ。また関東地方の2000年程前の地層からは種子が見つかっており、これを発芽させて花を咲かせることにも成功している。

これら日本に自生していた在来種は、かつて食用として利用されていたが、現在主に食用として利用されているハスは明治時代に中国大陸からもたらされたものが広まったもので、根が浅く、太りやすいという特徴があったので栽培しやすく安定収量が確保できるということで全国に普及していった。

現在では茨城県だけで全国の5割以上を生産しており、佐賀県、徳島県が西日本の大きな産地である。辛子蓮根が特産の熊本県や「加賀れんこん」の石川県、「岩国れんこん」の山口県など昔からブランド産地として知られてきた地域もあるが、大阪市東部市場の入荷は徳島県が最も多く、次いで多い茨城県と合わせて9割以上を占めている。

 

 

茨城県産は東日本大震災の後の風評被害により、関東圏を中心とした出荷先から入荷を停止されていたことがあり、西日本への出荷量が増えたという経緯がある。

関東で比較的多く栽培されている品種は、ふっくらと丸い金澄(かなすみ)系やだるま系の品種。「金澄」は中国種群と在来種群のレンコンを交配して誕生したもので、シャキシャキ感が強いのが特徴である。徳島県や愛知県で多く栽培されている節間が細長い「備中種」や、石川県や山口県が主産地の「支那白花」など地域特産に利用されている品種はもっちりとした食感でうま味が強い。

ハスは仏教では象徴ともいえる存在で、お釈迦様が生まれた時にハスの花が咲いたとも伝えられており、「蓮は泥より出でて泥に染まらず」といわれるように、不浄である泥のなかから茎を伸ばして美しい花を咲かせることから極楽浄土に咲く花としてふさわしいと尊ばれてきたようだ。穴がたくさん開いていることから「見とおしが良い」縁起物として、また「ん」がたくさんつくものを食べると「運」がつくということからも、正月や慶事の食材として古くから利用されてきた。

 

 

大阪市東部市場の月別の入荷量を見てみると、秋から冬が旬ということもあるが、やはり正月用の商材としての位置づけから12月の入荷量が多いことがわかる。入荷量の経年変化を見てみると、2019年までは年を追うごとに右肩下がりであったが、これは食の外部化が進み、レンコンの需要が外食や弁当、総菜などにシフトし、輸入物が利用され市場経由率が下がったためである。2020年にはコロナ禍で外食需要が落ち込んだが、同じくコロナ禍の影響で世界的なパレット不足が起こり、2020年の4月以降は輸入の中国産が激減したことから国産の入荷が増え、2021年には入荷増量となった。

レンコン自体の需要は高く、様々なシーンでも利用されるのだが、家庭消費ではやや高級な野菜というイメージがある。しかし、収穫や出荷調整の大変さを考えると、現状でも妥当な価格とはいいがたいのかもしれない。コロナ禍の影響で外国人労働者の確保が難しくなったこともあり、輸入物が減っているため国内産の需要が高まっているなか、天候不順による不作もあいまって高値が続いている。昨今ではカモなどの鳥害も増えているため、ますます高級な野菜になっていく可能性がある。縁起の良い野菜なので、この状況を打開するためにも運気を呼び戻すために消費を拡大したいものだ。

著者プロフィール

新開茂樹(しんかい・しげき)
大阪の中央卸売市場の青果卸会社で、野菜や果物を中心に食に関する情報を取り扱っている。
マーケティングやイベントの企画・運営、食育事業や生産者の栽培技術支援等も手掛け、講演や業界誌紙の執筆も多数。

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