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異業種から参入。高糖度・高品質トマトで勝負! 山元町・大栄ファーム

公開日:2022.4.12 更新日: 2022.4.22
高糖度で食味もよいと評判の「フルティカ」。

 

宮城県南部に位置する山元町は、イチゴやブドウ、リンゴ等、果樹栽培のさかんなエリア。東日本大震災後に造成された「イチゴ団地」では、温暖な気候と豊富な日射量をフルに活かして着々と栽培が進んでいます。

そんな山元町の山のふもとに、小規模なトマトハウスが出現しました。その名も「大栄ファーム」。北隣の岩沼市でビルメンテナンス事業を営む大栄施設管理工事株式会社が、6年前に新規事業として立ち上げた農園です。

 

それまで農業経験もなく、初心者として栽培に取り組み始めたミニトマトは、「高糖度で食味がよい」と評判に。今では車で40分ほどの仙台市からわざわざ訪れて買い求める人も。自社のトマトを使ったジュースも徐々に広がって、ちょっとしたブームを巻き起こしています。3月9日、そんな大栄ファームのハウスを訪ねました。

 

「フルティカ、アイコ、小鈴の3品種を栽培しています」

と、栽培管理責任者の大内英之さん(34歳)。管理栄養士として給食センターに勤務していた経験の持ち主。父で社長の大内健市さんが、この農園を立ち上げるとき、栽培責任者に抜擢され、ハウスの管理と販売を担当するようになりました。

ハウス内は土足厳禁。シートに覆われた地面も苗が植えられたベンチも真っ白なので、日が射すととても明るく感じます。10aのハウスに植えられた苗は約6000本。真っ赤なトマトが実っていました。

大内さんたちは、それまで農業やトマト栽培の経験はありませんでしたが、小面積で確実に高糖度のミニトマトが栽培できる養液栽培システムに着目し、これを導入。試行錯誤を重ねながら、栽培を続けてきました。

異業種から参入。ミニトマトの養液栽培にチャレンジしている。

 

トマトの株元に目を移すと、同じ品種でも他の農園で栽培される同じ品種のトマトよりも、かなり華奢で茎が細いことに驚かされます。こんなに細くても、きっちり実をつけているのです。

三好「とても華奢なトマトですね」

大内「はい。おそらくギリギリの状態で生きていると思います」

 

連続9ヵ月出荷でリコピンも豊富

トマト栽培には大きく分けて、適度な水分と養分を与えて生産量を上げる栽培方法と、水分を極限まで絞ることで糖度や食味を上げ、高価格帯での販売を目指すふたつの方法がありますが、後者は収量が少なく、場合によっては樹そのものが枯れてしまうリスクがあります。
ところがこの圃場では、高糖度のトマトが安定的に採れる上、枯れることも少なく安心して栽培できています。そして、
「7月下旬に苗を定植して、収穫は9月下旬から6月末まで続けます」

約10aのハウス内に直売所を併設。遠方から車で乗りつけ購入する人も多い。

7月に苗を入れ替え、約2カ月で出荷。つまり約9カ月間の長期栽培が可能に。そしてその果実のリコピン含有量は、一般的なトマトが10mg以下なのに対し、「フルティカ」13.8mg/100g、「アイコ」14.9mg/100g、「小鈴」10.6mg/100gをマークしています(宮城大学の分析による)。

一見華奢に見えるミニトマトの樹には、恐るべき持久力と生産力、そしてそこから生まれる果実には、機能性が潜んでいるのです。

 

2年目にして野菜ソムリエサミット銀賞

ミニトマト栽培に着手した時、初心者だった大内さんは、栽培に没頭するあまり、販路の開拓に時間を割くことができませんでした。それでもトマトはどんどん着果し、結実していきます。栽培を始める前から「販売先は直売に限る」と決めていましたが、なかなか顧客が見つかりません。

「せっかく美味しいトマトができたのに、収穫して捨てて、また収穫しては捨てての繰り返しでした」

当初は販売先の開拓に苦労していた大内さんですが、それでも訪れた人や知り合いが試食すると「おいしい」と言ってもらえていたので、口コミで評判は広がり、徐々に顧客は増えていきました。

そして2年目。2018年の「野菜ソムリエサミット」に「山のふ元のあまトマト」と名付けて出品した「フルティカ」と「アイコ」が、見事銀賞を受賞したのです

 

2年目の「フルティカ」と「アイコ」が野菜ソムリエサミットで銀賞を受賞。

 

2年目に栽培したトマトが、野菜のプロたちに認められた。そこで自信を得た大内さんは、積極的に販路を拡大。営業先でも「試食をすればわかってもらえる」と、確信するようになってきました。

そんな大栄ファームのミニトマトは、野菜というよりフルーツの域にあるようで、仙台市民の間で高級フルーツ店として知られる「いたがき」で販売中。また太白区の人気チーズケーキ工房「yuziki」とコラボレーション。高糖度のトマトの特徴を活かした生チーズケーキも生まれています。

さらに先ごろ開催された日本野菜ソムリエ協会主催「第1回全国ミニトマト選手権」において、全国から寄せられた70品のミニトマトの中から、見事金賞に選ばれました!

 

パック詰めの「フルティカ」(左)、小粒な「小鈴」も人気。

 

「まるで濃厚スープ」なジュースを製造

さらにハウスに併設した直売所では、高糖度のミニトマト3品種に加え、これを使用したオリジナルジュースも販売中。
その名も「真朱(しんしゅ)の恵み」といいます。こちらは180mlで1,350円、500mlが3,800円。トマトジュースとは思えぬ、ちょっとした高級ワイン並の価格ですが、愛好者も多いのだとか。完熟トマトを100%使用した「まるで濃厚スープ」のようなジュースは、食味がよいことはもちろん、「できれば薬やサプリメントを使わずに免疫力を上げたいけれど、大量の野菜は食べられない。少量のジュースから効率よく体によい成分を取り入れたい」と考える女性や高齢者たちのニーズに見事にマッチ。この価格に納得した上で購入する人が多いようです。

完熟した高糖度トマト100%の「真朱の恵み」。

 

そんな「真朱の恵み」は、「第6回新東北おみやげコンテスト」入賞。山元町の「ふるさと納税返礼品」にも選出されています。

「これからハウスを増やして規模拡大を図りたい」
と話す大内さん。就農から6年。その食味と栄養価の高さで認知度とブランド力を高めてきた「山のふ元のあまトマト」は、震災から立ち直り、東北屈指のイチゴ産地として躍進を始めた山元町の、新たな特産品になりつつあります。

「山のふ元のあまトマト」は、山元町の新たな特産品に。

 

取材協力/宮城県山元町 大栄ファーム 大内英之さん
大栄ファーム https://daiei-farm.jp

取材・文/三好かやの 撮影/杉村秀樹

4月22日記事内容更新

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