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【関西 果樹】せとか

公開日:2022.4.13

近年、カンキツ類の新しい品種が次々に世に出回るようになり、季節になると果物の売場が所狭しとたくさんの品種で埋め尽くされるようになる。一般的に「ミカン」と呼ばれるのは温州ミカンのことで、10月頃から量販店でも売場が作られるようになる。12月頃まではカンキツの主流となるが、年末頃からは他のいろいろな品種のカンキツが出てくるようになり、これらは「中晩柑類」と呼ばれている。昔ながらの「伊予柑」や「八朔」などに加えて、最近では「不知火(デコポン)」、「紅まどんな」、「甘平」などが人気だ。これらの中晩柑類の人気の先駆けとなったのが「せとか」で、2010年頃から人気が高まってきた品種だ。

「せとか」という名前が瀬戸内海を連想させることと、愛媛県が一大産地であることから愛媛県の独自品種だと思われがちだが、実は「せとか」が生まれたのは長崎県で、生まれ年は1984年とおよそ40年も前になる。国の研究機関である農研機構の試験農場(当時は農林水産省の果樹試験場)がある長崎県口之津(くちのつ)で、タンゴールの「清見」と「アンコール」を掛け合わせたものに「マーコット」を交配し育成された品種である。タンゴールというのは、ミカンを表す「タンジェリン」の最初の文字「TANG」とオレンジの最初の文字「OR」を合わせたもので、ミカン類とオレンジ類の交雑種を意味し、「せとか」もこのタンゴールに分類される。その後、長きにわたる試験栽培ののち、2001年に品種登録されて世に送り出された。

この農場があるのは、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」として世界遺産に登録された構成資産のなかでも重要とされる「原城跡」や、関連資産の「日野江城跡」のすぐそばで、日本最大級の一揆である「島原の乱」が起きた地域である。

地図で見てもわかるとおり、島原半島の南端と天草下島の北端の間は約4kmの狭い海峡であり、有明海の入口にも位置しているため「日本三大潮流」の一つとしても数えられている。海から見ると断崖絶壁の上に立つ原城は、戦略的にも優れた城だったそうだ。この海峡の名が「早崎瀬戸」であることから「せとか」は名づけられた。「瀬戸」はもともと「狭門」と書き、両側の陸地が接近した幅の狭い海峡を意味している。

一方「瀬戸内海」は狭い海峡でもなければ潮流が速いわけでもなく、この内海の両端の入口が「瀬戸」であることが名前の由来であり、非常に穏やかな海であることはご存じだろう。

「せとか」の特徴の一つとして枝にトゲが多いことがあるのだが、潮流の早い瀬戸の近くは風も強く吹くことが多いためトゲの多いカンキツ品種は果実の表面に傷がつきやすく、見た目が悪くなりやすいだけでなく、かいよう病などにもなりやすいため栽培適地とはいいがたいのだ。瀬戸内の特産品であるレモンもトゲの多い品種の一つだが、「せとか」も同じく風が少なく穏やかな気候である瀬戸内に適した品種ということも名前の由来に含まれているようだ。

栽培適地である瀬戸内に面しており、カンキツの一大産地である愛媛県で広く栽培されるようになり、今でも日本の「せとか」の6割以上が愛媛県産である。

大阪市東部市場に入荷してくる「せとか」も当然、愛媛県産が多く、9割近くが愛媛県産、次いで関西のカンキツ王国である和歌山県産の入荷が1割弱、「せとか」の故郷である長崎県産も若干の入荷がある。

オレンジのように切って食べることも多いが、外皮は手でむくこともでき、じょうのう(薄皮)も薄く種もないので非常に食べやすい。酸味が抜けやすく糖度も13度から14度程になるものが多く、甘味と酸味のバランスも良いため一度食べるとおいしさにはまり、リピート率の高い品種である。「アンコール」の特徴である良い芳香も引き継いでおり、それも「せとか」の人気を高めている要素の一つだ。

「せとか」が世に出てくるまでの中晩柑類といえば、外皮が硬くてむきにくいとか、じょうのうが硬くて食べられないとか、種が入っているとか、また味の面では苦味があったり酸度が高くて酸抜けしにくかったりなど、特に若い世代の果物離れが進む要素が詰まっている品種が多かった。しかし、それらの弱点をすべて克服した「せとか」は人気となり、その後に育種された他の品種もせとかを模範に開発されて世に送り出されて人気を獲得していった。

産地での作付けも生産量もここ何年かは横ばい状態で、新しい品種が出てきても、「せとか」は残しつつ他の古い品種をやめて切り替える人が多いようだ。

大阪市東部市場の入荷量も多少の増減はあるもののほぼ安定した入荷が続いていたが、この2年は夏秋の豪雨や晩霜などの気候の影響を受けて減量となっており、今後も気候変動の影響は不安材料だろう。

前述のとおりトゲが多いので傷果が出やすく、訳ありとして販売されたりもするのだが、高単価の贈答品などの率が下がると生産意欲の減退につながることもある。トゲなしの変異種もあるが若木ではトゲが出やすいこともあり、トゲを切ったり袋掛けをするなどしたりして対策しているようだが、大変な作業である。

人気の商材なので今後も安定した生産を続けてもらいたい。

著者プロフィール

新開茂樹(しんかい・しげき)
大阪の中央卸売市場の青果卸会社で、野菜や果物を中心に食に関する情報を取り扱っている。
マーケティングやイベントの企画・運営、食育事業や生産者の栽培技術支援等も手掛け、講演や業界誌紙の執筆も多数。

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