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【関西 野菜】タマネギ

公開日:2022.5.16

 

タマネギを切ると涙が出る。

これはタマネギが一生物として獲得した防御機能が引き起こす、タマネギと人間の戦いの始終なのである。動物などにかじられたタマネギの細胞内では、即座に障害応答反応としてある種の酵素が作られる。それが普段は無害な物質と反応して、動物の目や鼻の粘膜に刺激を与える化合物を大量に放出するのだ。

その化合物の名称は「syn-プロパンチアール-S-オキシド」。

この物質が動物の神経終末に触れると、今度は動物の防御機能が発現する。この刺激物質を体内に入れないように洗い流すために涙や鼻水が大量に出るわけだ。火を使い調理を行う人間は、この物質を加熱したり洗い流したりすることで追い出したり無害化することができるので、糖分がたっぷり含まれたタマネギ本体にありつくことができるわけだが、普通の動物なら二度と食べようとは思わないだろう。タマネギの圧勝である。タマネギはこうやって自分の身を守っているのだ。

しかし人間は、このタマネギが作り出す、敵を攻撃するための物質を無害化するだけでなく、利用して自らの生命を守るという術をも身につけた。

タマネギの防御物質は「機能性物質」として人間を守ってくれる働きがある。かつては戦争で傷を負った兵士の治療にタマネギの汁が用いられていたこともあった。傷口から侵入する菌を倒してくれる他、食べて体のなかに取り込むことで体内の有害微生物から身を守ったり、人間の体が刺激に抵抗するために元気になったりする働きもある。

古代エジプト時代には肉体労働者の食材として頻繁に利用され、古代ギリシアではオリンピック出場を目指す選手に食べさせていたという。とにかく昔から体を元気に強くする食材として、また臭みを消したり殺菌消毒のために薬味として愛用されてきた。

日本に伝わったのは江戸時代だが、当時は観賞用として利用されるのみで食用利用がはじまったのは明治時代である。アメリカから2種類の異なる種が持ち込まれたことがきっかけであった。

「イエロー・グローブ・ダンバース」という春播き品種は北海道に導入され「札幌黄」となり、秋播きの「イエロー・ダンバース」は大阪に導入され「泉州黄」となって栽培がはじまった。今では北海道のタマネギは「札幌黄」の後継品種、その他の地域で作られるものは「泉州黄」をもとに品種改良されたもので、貯蔵技術の進歩によって一年中手に入る品目となった。

大阪市東部市場のタマネギ入荷についてのデータを見てみると、北海道産が約半数を占めるが、これは貯蔵施設の有無と出荷量に深い関連があるからだ。長期貯蔵ができる大きな貯蔵施設を持たない九州の産地は収穫期に出荷を行うが、北海道では収穫後にCA貯蔵などの長期保存ができる大型貯蔵施設に入れて計画的な出荷を行う。外皮の枚数も北海道は他地域よりも1枚多く、貯蔵を視野に入れた調整を行っていると言える。

また関西の市場に特徴的なのは兵庫県の淡路産の存在である。淡路も大型貯蔵施設を持ち計画的な出荷を行っているが、消費者の評価が高く北海道産よりも高値で取り引きされる傾向が強い。

各産地とも数年前にベト病の被害が出たり北海道が長雨や台風の影響で不作になるなど、ここ数年間は不安定な出荷が続いており、入荷量は年を追うごとに減少している。

国産のタマネギが不足している分、加工・業務用を中心に中国産の輸入タマネギの入荷量が増えているのだが、コロナ禍の影響による慢性的なコンテナ不足や人手不足もあり、加えて原油高や円安の影響もあり不足分を補い切れていないのが実状で、2021年は記録的な少なさとなった。

さらに2021年の後半から2022年にかけて前段の産地の残量が少なくなり、後続の新タマネギの産地に切り替わる時期でも天候不順が続き、単価は高騰、平年の2倍以上の高値が続いた。

しかし、気候変動の影響を考えると今後も天候との戦いは余儀なくされるだろうし、世界情勢を考えると高値が続く可能性は高い。

日本で栽培がはじまって以降、カレーや中華をはじめとして、近年では洋食やエスニックなど食の多様化とともに需要が伸びていったタマネギは、いまや日本人にとってもなくてはならない野菜だ。具材としての用途も豊富であるし、臭みを消したり甘味を出したりするなど薬味や調味料的に利用されることも多く、加えて外食や中食の業務利用や調味料・冷凍食品などの加工需要も年々高まってきている。

安定確保のためには地域を挙げた貯蔵施設の確保を含めた新規の産地開拓や栽培技術の開発が必要不可欠だろう。

著者プロフィール

新開茂樹(しんかい・しげき)
大阪の中央卸売市場の青果卸会社で、野菜や果物を中心に食に関する情報を取り扱っている。
マーケティングやイベントの企画・運営、食育事業や生産者の栽培技術支援等も手掛け、講演や業界誌紙の執筆も多数。

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