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【関西 果実】ビワ

公開日:2022.6.17

今年のNHKの大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は、平安末期から鎌倉前期を舞台に、源平合戦と鎌倉幕府が誕生する過程で繰り広げられる権力争いが描かれている。舞台は東北から九州まで広きにわたっているが、滋賀県の琵琶湖周辺も重要な舞台のひとつとなっている。

源氏のなかでも有名で有力者であったのが源義経と木曽義仲だ。

木曽義仲は平家討伐の功績を挙げた源氏のひとりであるが、頼朝との権力争いの末、義経に宇治川(京都)の戦いで敗れて退陣したのちに、琵琶湖の南端にある粟津の松原で討ち死にした。

源義経は平家を倒すために京都の鞍馬から奥州藤原氏のもとへ旅立ったのだが、途中の「鏡の里」で平家の追手から逃れるために自ら元服を行ったと伝えられている。

それが今の滋賀県蒲生郡竜王町鏡、琵琶湖の南東部に当たる。今でも「鏡神社」では義経が元服を行った池の跡や宿泊地が史跡として残っている。

その後、源平の戦いは壇ノ浦の戦いで平家が滅亡したと伝えられているが、厳密には義経の手によって捕虜となった平家の将、平宗盛(平清盛の息子)親子を義経が元服を行った地のほど近くである篠原で殺害したことで平家は途絶えることになる。

この辺りの歴史の根拠となっているのは学校の教科書にも出てくる『平家物語』という鎌倉時代に書かれた軍記物語であることはご存じの方も多いだろうが、この平家物語を語り継いだのが琵琶法師と呼ばれる盲目の僧であることも有名な話である。

琵琶湖の「琵琶」は、その上空から見た形が琵琶湖の竹生島に祀られている弁才天(三大弁天)が手にする楽器の琵琶に似ていることに由来するそうだが、これは江戸時代に入り測量が行われて琵琶湖の形が判明してからのこと。

同じく、この楽器の琵琶に似ていることから名づけられたものがある。それが今回のテーマ食材であるビワだ。

ビワの漢字表記は「枇杷」だが、なぜ楽器の琵琶が語源なのに枇杷と表記するのか疑問に思ったので調べてみると、どうやら楽器の琵琶はもともとは後漢時代に「批把」と表記されていたものが転じて琵琶となったようで、果物のビワももとは批把と表記されていたようである。木になる植物なので、のちに木へんが充てられて現在の「枇杷」になったようだ。

日本での食用のビワ栽培は、江戸時代に千葉県の富浦に持ち込まれたのがはじまりという記録が残っている。この場所は、偶然にも源頼朝が平家討伐を決意したものの、石橋山の戦いに敗れて伊豆から海を渡って逃げてきた場所のほど近くだ。

今の日本で栽培されている品種に比べると小ぶりなビワだったようだが、江戸時代には江戸向けに出荷されていたようで、今でも富浦のビワは皇室献上用として利用されている(コロナ禍で現在は一時的に献上中止になっている)。

当時は鎖国時代であったが、開港されていた長崎には世界中から様々なものが持ち込まれていた。そのなかに、今、日本で栽培されているビワのもとになった品種があり、江戸時代の末期に持ち込まれてから長崎県の茂木で栽培がはじまって「茂木ビワ」となり、今も一大産地として名を馳せている。

産地構成としては、長崎県と千葉県で全国の半分以上が出荷されており、次いで鹿児島県や香川県などが多い。関西市場へは和歌山県の出荷も多く、大阪市東部市場の入荷は長崎県、香川県、和歌山県でほとんどを占めている。

近隣産地ということもあって香川県や和歌山県の入荷量が多かった時代が長く続いていたが、近年では香川県と和歌山県では生産戸数も作付けも減り、長崎県産が中心の入荷となっている。


品種改良も進み、「茂木」を中心に、「田中」、「なつたより」など全国で様々な品種が栽培されているが、どの品種も寒さに弱いためハウス栽培が主流となっている。

早いものでは年明けの1月頃から出荷されるものもあるが、季節感としては春から初夏にかけてが旬というイメージが強いため、5月から6月にかけて入荷量が多い。他の国産の果物の端境期に当たるため、季節感を彩る売場作りには欠かせない品目だ。

しかし、産地での生産量は年々右肩下がりで、市場への入荷量も年々減少している。

入荷量が少ないなかで価格が上昇しているかというと、値頃感というものもあるため、価格上昇には反映されていないというのが実状である。

実はビワは、江戸時代に食用利用として栽培されるようになるよりもかなり昔から日本でも栽培されていたという記録が残っている。古代のインドや中国でも、「薬のなかの王様である」と表記されていたほど、ビワは薬用植物として長きにわたって利用され続けてきた。

日本でも奈良時代には主に葉を薬用利用していたらしく、今でも漢方薬の原料として用いられ、科学的にも消炎、排膿、鎮吐などの作用を示すネロリドールという成分を含むことがわかっている。

実にも薬用効果があると信じられて食べられてきたビワは、日本の気候では体調を崩しやすくなる季節の変わり目となる春から初夏にかけて、気温や湿度が目まぐるしく変化する時期が旬の果物だ。

旬のものを食べて英気を養うというのは昔から日本人の魂の源泉でもあるのだから、この時期にはビワを食べて元気に過ごしていきたい。

著者プロフィール

新開茂樹(しんかい・しげき)
大阪の中央卸売市場の青果卸会社で、野菜や果物を中心に食に関する情報を取り扱っている。
マーケティングやイベントの企画・運営、食育事業や生産者の栽培技術支援等も手掛け、講演や業界誌紙の執筆も多数。

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