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【関西 野菜】伝統行事 お盆

公開日:2022.8.10
(画像/photolibrary(https://www.photolibrary.jp/))

 

お盆の仏壇のお供え物として野菜を飾る風習が各地にある。

よく見かけるのが、キュウリとナスに割箸や爪楊枝を刺して動物に見立てたものだが、これらは「精霊馬(しょうりょううま)」、「精霊牛(しょうりょううし)」と呼ばれている。

お盆の期間には、亡くなったご先祖様やご家族がこの世に帰ってくるという風習。そのご先祖様たちを送迎するための乗り物に見立てて精霊馬や精霊牛が飾られるのだ。

親族としては帰って来てくれる方々が少しでも長くこの世にいられるように、迎え入れるときには少しでも早く帰って来てほしいため足の速いウマを、見送るときにはできる限り長く、ゆっくりとこの世にいて、この世の風景を目に焼きつけて帰られるようにと、足の遅いウシを用意するというわけだ。そういう意味合いから、お盆の時期にたくさん穫れる野菜のなかから、ウマに似たキュウリとウシに似たナスを飾るようになった。

キュウリやナス以外にも野菜をお供えする習慣がある。

今では栽培技術も進歩しているので、暑いお盆の時期であっても基本的な野菜なら何でも手に入るが、もともとは自分たちの庭や畑で穫れた野菜をお供えしていた。

自分たちの礎を築いて下さったご先祖様たちに収穫の喜びを伝えて感謝するとともに、お盆に帰ってくるご先祖様たちにも食べていただこうというわけだ。

お供えとしてよく用いられる野菜としては、キュウリ、カボチャ、スイカといったウリ科の野菜の他、ナス、サツマイモやサトイモなどのイモ類、インゲンやササゲなどのマメ類といった具合だが、これらにはご先祖様と自分たちの「ご縁」を代々伝えていこうという意味づけがなされている。

ウリ科の野菜は実のなかにたくさんの種子が入っているのが特徴だが、これが生命力を感じさせるとともに、子宝や子孫繁栄を連想させる。

ナスは「成す」とも読めるし、花が咲くと必ず実がなることから、物事を成し遂げる「成功」を連想させる。

イモ類は土のなかでしっかりと育つことから、目立たなくてもたくましく育つという謙虚な姿勢と生命力、また大器晩成を連想させる。

インゲンやササゲは細長い莢のなかにたくさんの種子が入っていることから、細くても長くまめに働いて多くの実を結ぶことができるようにとの願いが込められている。

単にご先祖様たちをお迎えするというだけでなく、自分たちの家族や子孫の健康や繁栄を願い、その思いを食材に込めてお供えしたり食べたりするのは、冬至カボチャや正月野菜のときにも触れたが、日本の伝統的な風習だ。

今は昔と違って自分で野菜を栽培しているという人は少ないため、お盆が近づいてくると量販店などでは「お盆お供えセット」がパッケージとして棚に並べられるようになる。キュウリとナスは定番だが、他は前述のイモ類やマメ類など以外にトウモロコシやホオズキなどが入っているパターンもあったり、カボチャは小さな「おもちゃカボチャ」と呼ばれるペポカボチャであったり、ナスやキュウリも小さな仏壇や玄関などでも飾りやすいように小ナスや姫キュウリが使われることもある。

必要な品目が一式揃った便利な「お盆お供えセット」。
ミニサイズの可愛いペポカボチャはハロウィン時期にも人気。

小ナスは普段は量販店ではあまり見かけないが、漬物や料亭などの需要があり、高知県では一年中栽培されている。8月のお盆時期が最需要期となるため、その前後も含めて夏になると入荷量が急増する。

小ナスは、左に置いてあるマジックとほぼ同じ大きさ。

入荷量が多くても量販店で単体で売られることは滅多になく、お盆前のお供えセットとしての販売がほとんどだ。おもちゃカボチャやホオズキも7月末〜8月初旬だけの期間限定の入荷である。

昨今はお盆だからと言って特別なことをしなくなる家庭も増えてきた。お盆の野菜セットは飾らずに、果物や加工食品などをお供えして、お盆が明けたら皆で分けるといったケースも多い。

夏の風物詩としての野菜セットだが、時代の流れとともに少なくなっていくのは寂しいかぎりだが、仕方のないことなのかもしれない。それでも、ご先祖様達に感謝することと、帰ってきた方々と対話するために、お墓の前や仏壇の前で親戚が集まって会食したりするという風習は失われないでほしいと願う。

 

著者プロフィール

新開茂樹(しんかい・しげき)
大阪の中央卸売市場の青果卸会社で、野菜や果物を中心に食に関する情報を取り扱っている。
マーケティングやイベントの企画・運営、食育事業や生産者の栽培技術支援等も手掛け、講演や業界誌紙の執筆も多数。

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