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農業試験場の“文化祭!?”福島県農業総合センターまつりリポート

公開日:2022.10.5 更新日: 2022.10.7

去る9月2日(金)~3日(土)、福島県農業総合センター本部(郡山市)にて「第15回農業総合センターまつり」が開催されました。「センターまつり」とは、全国のいくつかの農業試験場で開催されている農業試験場の「文化祭」のようなイベントです。コロナ禍により各地の開催が見送られることも多い昨今ですが、今年は3年ぶりに福島県農業総合センターが開催するとのことで、参加も兼ねたリポートをお伝えします。

 

センターまつりとは?

今年で第15回を迎えた福島県農業総合センターの「センターまつり」。このコロナ禍、今年も開催を見送る都道府県もあるなか、例年よりはイベントの規模を縮小して3年ぶりの開催となりました。

福島県農業総合センターは2006年に創立。今回のセンターまつりが開催された郡山市の本部の他、果樹研究所(福島市)、畜産研究所(福島市)、会津地域研究所(会津坂下町)、浜地域研究所(相馬市)、浜地域農業再生研究センター(南相馬市)、農業短期大学校(矢吹町)を擁します。本部には、事務部、安全農業推進部、有機農業推進室、企画経営部、生産環境部、作物園芸部が設置され、それぞれの部署に沿った業務を遂行するとともに、技術開発や安心・安全な農業の推進、農業教育を行っています。

農業に携わる方への技術支援に止まらず、交流イベント、施設見学を積極的に開催し、消費者や次世代に対して農業の魅力をアピールしています。今回紹介するセンターまつりもその一環として開催されています。

館内ではセンターの概要説明や今までの栽培技術向上のための成果、県産の農作物の紹介をパネル展示。また、子どもも楽しめるクイズも実施。福島県産の農産物への知識を深め、興味を持ってもらうための工夫が感じられます。

トルコギキョウの斑点病防除や、タマネギの省力栽培技術など、最新の研究成果をパネル展示。

 

来場者や子どもも楽しめる、参加型のクイズも。

 

センターの概要がわかるセンターツアーに参加

パネル見学の後、センターの全容が理解できる職員の方のガイドつきの「センターツアー」がはじまりました。

福島県農業総合センターは、正職員約120名、臨時職員約40名で運営されています。本館やガラス温室、作業棟、圃場などすべてを含めたセンター全体の広さは55.6haで東京ドーム12個分に相当するそうです。うち、水田は11.6ha、畑は11.8haとなっています。

「県民の皆様に開かれた農業施設」というコンセプトを掲げており、建物はガラス張り、そしてセンターは上空から見ると草刈り鎌の形をしているというちょっとユニークな凝りよう。建築には県産の資材を使っており、柱、床のコンクリに見えるのは白河石、天井や柱には南会津のカラマツ、床は県産のナラを使用しているといいます。

センターの建物を上空からとらえた写真。草刈り鎌の形をしているのがユニークです。

最初の紹介は、安全農業推進部の分析課。放射性物質をモニタリングするための機器の揃ったこのセンターでは、平日は毎日、福島県内において販売目的で生産されている農林水産物の放射性セシウムの濃度を検査しているのです。なお、「撮影はご遠慮下さい」ということで、残念ながらこの施設の写真はありません……。東日本大震災による原発事故から今年で11年目となりますが、その間、約26万点を分析してきたとのことで、2021年度は、1万3,000点程を分析したそうです。具体的な検査対象は、お米、野菜、果物、肉、魚、卵などで、牛肉や牛乳への影響も考え、牧草などの餌も検査されており、2021年度は484品目に上るそうです。

また、検査結果は県のホームページで公表されていて、いつでも誰でも確認することができます。安全への徹底ぶりが窺えます。

ガイドの方の説明によると、分析に使用する11台ものゲルマニウム半導体検出器を完備している施設は世界でも珍しいとのことで、風評に打ち勝つべく、日々安全性を確認しているセンターの気概が伝わってきます。

そのかいあって、原発事故のため55の国と地域が福島県からの農林水産物の輸入規制をしていましたが、試験研究の成果を活かした生産現場での放射性物質の吸収抑制の取り組みと、センターでの分析で安全性を確認し続けた結果、徐々に規制が撤廃され、輸入規制の措置は9月現在12の国と地域までに減ってきているそうです。震災前の2010年には福島県からは153tの農産物の輸出が行われていましたが、事故後は9割減となり、今はこうした取り組みが功を奏し、盛り返してきていて、2021年度の輸出量の実績は432tとなっているそうです。

一般食品における国際的な放射性セシウム濃度の基準値は1kg当たり1000ベクレルですが、わが国ではその10倍厳しくして100ベクレルを基準としています。また、検査精度を検証するために国際原子力機関(IAEA)の技能試験に参加し、A評価をもらっているそう。引き続き、検査の精度を維持しながら安全な農林水産物を提供するためこれからも日々邁進するとのことで、これらの取組みによって私達の食卓の安全は守られることでしょう。

次に屋外案内と続きます。

屋外の圃場では、県産オリジナル品種の育成、水稲や畑作物などの栽培技術、病害虫防除、肥料や環境保全、農産物加工や原発事故による農産物の放射線除去対策などの実験が行われています。

展示農園では、水稲の見本園が目の前に広がります。毎年50品種程度の作付けを行っており、今年は56品種を作付け。奨励品種の他、日本酒の材料となる品種も作付けしています。

水稲の見本園。隣には、地元の小学生に田植え、収穫体験をしてもらうための水田もあります。

コロナ禍となる前は、来場者をバスに乗せ、広い敷地に広がる他の圃場にも回ることもあったそうですが、新型コロナウイルス感染対策に考慮して、センターツアーはここまでとなりました。

 

家族連れで楽しめるイベントも

家族で楽しめる企画も盛りだくさん。そのひとつが「いも掘り体験」で、展示圃場にあるサツマイモ畑では家族連れが楽しそうにイモ掘りに興じていました。

品種は「からゆたか」、「紅はるか」、「紅あずま」の3つ。毎年参加の経験からか、自前のジャージ、長靴を用意している参加者も。

「染めかすみ草のレジン細工体験」も家族連れや女性客の参加が目立ちました。レジンとは合成樹脂の種類のひとつで、UV(紫外線)を当てると液体から固体へと変化します。自分好みの色のカスミソウを、シリコン型にレジン液とともに流し込み、UVランプを当てれば箸置きの完成! センターまつりの良い思い出となるでしょう。

素材に使うのは福島県が生産量1位を誇る、宿根カスミソウ。染色剤を使い、自分好みの色に染め上げた後、型に入れてレジン液を流し込みます。

さらに「有機農業理解促進ミニ講座」では、有機農業について「化学的に合成された肥料および農薬を使用しない」、「遺伝子組換え技術を利用しない」、「農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減する」などといった基本の定義を紹介、その他、表示ルールなどについて担当者が解説を行いました。

スライドを使い、担当者がわかりやすく有機農業について解説。
「有機農業理解促進ミニ講座」に参加するともらえる、センター内で有機栽培した野菜セット。

 

こうしたイベント以外にも、センターは年末年始を除き土日、祝日も一般に開放されており、農業関係の図書室や会議室の利用も可能。これからも県民に愛され、信頼されるセンターとなることを目指し、日々努力を続けていくとのことです。

開催内容に関するアンケートに答えるともらえた福島イレブンのシール。モモやトマトなど、県内産の主な生産物11点をサッカーチームに喩えて「ふくしまイレブン」と称しアピール。

通常の開催ならば、バター作り体験や作物の重量当てクイズ、スマート農業の実演など多岐にわたり、3000人程の来場者を数えることもあったという本イベント。新型コロナウイルス感染対策の観点からイベントもかなりセーブ、さらに参加人数にも制限のあった今回ですが、次回は大いに賑わうことを願います。全国のすべての農業試験場で開催されるものではありませんが、地元はもちろん、少しの遠出で他県の農業試験場を訪ねてみてはいかがでしょう。

福島県農業総合センター
https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/37200a/
※年末年始を除き、常に見学可能(開放施設のみ)となっています。

資料提供・取材協力/福島県農業総合センター
取材・文/丸山純

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