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環境ストレス耐性の強化に役立てられる?  リンゴ酸による環境ストレス対応の仕組みを解明

公開日:2022.10.27

生育環境が悪化しても植物はより良い環境を求めて移動することはできません。そのため植物には移動せずとも環境の変化に対応する様々な仕組みが備わっており、その一つが葉の表面にある通気口の気孔の開閉です。

過去の研究から植物は環境ストレスに反応して、体内で生じる様々な代謝の中間産物であるリンゴ酸を体外に放出することが明らかになっており、このリンゴ酸によって気孔が閉鎖することも知られています。しかし、気孔の閉鎖にリンゴ酸がどのように関わるかは分かっていませんでした。

岡山大学の研究グループは、モデル植物のシロイヌナズナを用いて環境ストレスへの反応としてのリンゴ酸の分子機構の解明に取り組みました。その結果、リンゴ酸が働く対象として陰イオンの輸送体とタンパク質をリン酸化する酵素を見つけ出しました。

イラスト/坂木浩子

陰イオン輸送体に関しては、アフリカツメガエルの細胞を用いた実験から、リンゴ酸が細胞の外側から直接活性化させることを確認。さらにシロイヌナズナの遺伝子を破壊した変異体を用いた実験や、酵素の働きを阻害する薬剤を用いた実験によって、リンゴ酸がタンパク質リン酸化酵素を介して気孔を閉じる情報伝達を活性化させることも分かりました。

こうして環境ストレスに対する気孔の閉鎖という反応の背景にあるリンゴ酸の分子メカニズムを解き明かされたわけですが、リンゴ酸は特殊な物質ではなく、ありふれた化合物です。その上、土壌微生物が分解できるため、環境中に長期にわたって残留することはありません。そのためリンゴ酸を散布することによって環境に負荷を与えずに農作物の環境ストレス耐性を高めることができるようになると期待されています。

文:斉藤勝司

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