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渡辺和彦の篤農家見聞録

エタノールを含んだ肥料を使い イチゴ栽培3年で高い糖度・収量アップに成功

公開日:2022.11.8 更新日: 2022.11.16
今回、ご登場いただいた鈴木良浩さん・友紀子さんご夫妻。「主人は、とにかく暑くても寒くても負けない、丈夫なもの、強い品種を作りたくて、ずっといろいろな肥料を研究しているんですよ」(友紀子さん)。

本誌おなじみの渡辺和彦氏が、生産者を訪ねるシリーズが今月よりスタート! 肥料に詳しい氏ならではの視点から、篤農家の栽培技術に迫ります。今回は愛知県田原市の鈴木良浩さんを訪ねました。

当初は鉢物栽培で使用していた
エタノールを含んだ肥料

連裁をはじめるに当たり、私は愛知県の果物・野菜スーパー「サンヨネ」の社長さん三浦和雄さんの言葉を思い浮かべた。「有限会社長浜商店の前社長・長浜憲孜(かずしげ)さんのような指導者が日本にあと100人おられたら、日本農業はきっと大きく変わるでしょうね」。その言葉が、私の脳裏に深く突き刺さっている。

そこで連載1回目は、長浜商店が販売する肥料を使って成果を出している生産者が読者の参考になるだろうと考え、長浜さんに相談してみた。すると、長浜さんの先代からのお付き合いで、スズキ農園の鈴木良浩さん(50歳)を紹介下さり、4月下旬に鈴木さんの圃場を訪ねることになった。

鈴木さんは、長浜さんとお付き合いされて30年になるそうだ。従来は鉢花栽培中心で、アジサイ約70品種、観葉植物20~30種類、グラス類(ススキなど7種類)、フリージア、ラベンダーなど。取り扱う品目が多いため栽培面積52aを抱えているが、ご主人はとくにアジサイ栽培に尽力しており、品種改良まで手がけている。

アジサイには長浜商店で販売している肥料を使用しているが、それが今、注目の、エタノールにビタミン類や植物油を含む「NCVコール」と、エタノールにフルボ酸、腐植酸を含む「VFコール」肥料である。これらコール肥料を混合して葉面散布すると、葉が丈夫で分厚く、持ちも良くなるという。鈴木さんが育成された新品種の葉は、プラスチックの感触を想起させるほどの頑丈さがあり、鉢が倒れても崩れないそうだ。茎の太さも明らかに立派で花弁も厚くて丈夫だ。

コール肥料を使って栽培している鈴木さんのアジサイの茎は太く、葉は分厚くて触れるとプラスチックのような感触の丈夫さが感じられる。

また、開花が早く、水揚げも早いという。天候不順などでクタッと元気がなくなってもすぐに「シャキーン!」と復活するそうで、コール肥料は鈴木さんの心強い味方となっているようだ。肝心のコール肥料の希釈濃度や散布頻度は企業秘密だが、花き市場は狭いからだろう、筆者もそのお気持ちは大切にしたい。それに今回の本題はイチゴである。

家庭用としてはじめたイチゴ栽培が
収益を狙える品目に

イチゴは奥様の友紀子さんがはじめた。子供がイチゴを食べたいと言うが、スーパーに買いに行くと1パック数百円と非常に高い。そこで、自宅の空いたビニルハウス約8aでイチゴの栽培をはじめた。初年度はコール肥料の100倍希釈液を毎月1回散布。今は作りはじめて3年目で、初年度にはあまり手応えはなかったが、昨年からは散布濃度を50倍希釈に高めた。すると、イチゴ果実の糖度が上がり、収益は2倍になったという。今年は希釈濃度を10倍とさらに高濃度にし、収穫がはじまってから1日おき(すごい回数である)に散布している。表1表2に、鈴木さん提供の栽培履歴を示す。年内は糖度20度で推移して年明けは16~18度、4月は15度前後となっている。調子が良いときは、最高22度まで記録したことがあるそうだ。

収穫期を迎えていた鈴木さんのイチゴ。品種は「紅ほっぺ」と「よつぼし」。

友紀子さんは言う。「3月の売り上げは170万円でコール肥料代は6万円でした。肥料代6万円と値段だけ聞くと高いかもしれないですが、売り上げが伸びて結果が出ていれば問題はないと思うんです」。さらに友紀子さんは、「長浜さんは販路も紹介してくれ、こちらの予測よりも遙かに上をいく売り上げを出してくれる。肥料代をもったいないと思う気持ちはまったくありません」

今は1パック400円で出しているが、今後はもう少し上を狙っていきたいそうだ。イチゴはとにかく追肥追肥!がポイントで、そのわけは長浜さんの指導のようだ。それは下図に解説したのでそれを参照していただきたい。

今年は昨年の倍と収量も上がっており(表3)、はじめたばかりのイチゴがこんなに成果を出すことは想像だにしていなかったそうである。前述のスーパー、サンヨネさんに出荷すると「糖度が高い」と評判を呼び、同社の品質の良い商品につけられるハートマークつきの「鈴木さん家の苺を使用」と書かれた「苺ジェラート」も開発。友紀子さんが誇らしそうに商品を見せてくれた。

サンヨネで開発・販売されている鈴木さんのイチゴジェラート。ハートのマークはとくにおいしくて人気商品の証。生産者に誇りを与えてくれる魔法のマークだ。

長浜さんからは、「花よりもイチゴ栽培のほうが収益の機会が多いから、イチゴ栽培に力を入れてみてはどうか」と指導されているそうだ。今はご主人もイチゴ栽培に面白さを感じて本格的にする気になり、来年からは10a程、栽培面積を増やす予定である。友紀子さんは「今でも忙しいのに、どうなるか?(笑)」と少し不安もありそうだったが、張り切っているご主人と二人で力を合わせれば大丈夫だと私は感じている。

なお、取材の帰りに、三浦さんのスーパー「サンヨネ」を訪れた。アイス売り場を覗くと、確かにハートマークつきの鈴木さんの「苺ジェラート」があった。改めて若い生産者を心から応援している三浦さんの立派さ、行動力、実行力に私は頭が下がる思いがした。

イチゴの栽培指導が得意な株式会社ジャットの岩男?昭さんに尋ねたところ、今や農協出荷(売り上げ金額が正確)でも、イチゴは10a当たり1000万円超えの生産者が日本各地で多く出はじめているそうだ。新品種の影響が大きいが、ときには、ジベレリンや冷蔵技術も組み合わせると多くの生産者がそれほどの売り上げが可能になるそうだ。鈴木さんも10a当たり1000万円超えを目指せ! と私からエールを送りたい。

エタノールの効果の
今後の科学的実証に期待

最後に学問的な新発見について記載する。2022年4月27日、株式会社エヌ・ティー・エス発行の『バイオスティミュラントハンドブック』が出版された。私も前記のエタノール利用の葉面散布剤について10ページ程度執筆協力をしているのだが、同じく執筆協力者として理化学研究所の関原明チームリーダーが、エタノールは高温や乾燥などのストレス耐性を強化できるとの新発見の学問的試験結果をデータを示す写真とともに紹介されている。私がその引用紹介の許可をいただこうと、関さんにお電話すると、私の執筆した記事も読んでおられ、逆に長浜さんや、コール肥料を使っている長野県のブドウ農家の宮川多喜男さん(本誌2020年冬号拙稿参照)を紹介していただきたいとのことで、さっそくご両人に承諾を得てすでに連絡をしている。エタノールの効果についてはまだ実証がなされてなく、この分野の学問的研究を理研がやっていただくことは私にとっては願ってもないことで、非常にありがたいと思っている。

鈴木さんが愛用している長浜肥料店のエタノールを含んだコール肥料の「VFコール」と「NCVコール」。上の「プラスウェット」は速乾性を重視して浸透材として使用している。

以前の本誌連載時にも述べたことがあるが、長浜商店のコール肥料の主成分・エタノールやデンプン、植物油などが高等植物のCHO源となるという新発見は、リービッヒの無機栄養説一辺倒の教育を受けた土壌肥料専門家が驚く、歴史をひっくり返す大発見なのである。

関さんは自分たちが発見した事実をご自分で書きたいとのことで、本誌本年冬号と来年春号にエタノールの乾燥耐性や高温耐性について執筆されることになったそうだ。ぜひ、本稿の重要な関連研究成果として、そちらも一読いただければと願う。

(注)本記事は「農耕と園芸」2022年秋号掲載の連載から転載したものです。

 

取材・文/一般社団法人 食と農の健康研究所
理事長兼所長
元兵庫県立農総技術センター部長
農学(京大)博士 渡辺和彦

取材協力/スズキ農園

 

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