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【関西 野菜】ハクサイ

公開日:2022.12.15
(画像/photolibrary(https://www.photolibrary.jp/))

「ハクサイが最も売れる時期はいつだと思いますか?」と尋ねられると、多くの人は12~2月頃だと思うようだ。冬場の鍋の食材というイメージがあるからだろう。しかし、一年で最もハクサイの出荷量が多く、需要も高いのは10月だ。

これを聞くと意外だと思われる方もおられるだろう。最近は10月でも汗ばむ陽気の日が増えており、今年などは夏日になった日が何日もあったほどだ。日中は、とても鍋の気分ではない。

ところが、「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉があるように、秋分の日を過ぎると日長は短くなり、朝晩は肌寒い日も増えてくる。加えて空気も乾燥するようになっていき、汗をかく頻度も少なくなっていく。夜になると少し温かいものも食べたくなってくる。

秋になると食欲が増すという話は前回の「クリ」の回でも触れたが、「秋の味覚」と呼ばれる食材がたくさん旬を迎え、量販店の売場も秋を感じさせる売場へと様変わりするのだ。青果物のなかで秋の売場に登場するのは前述のクリやカキ、ナシなどの果物が多いが、マツタケに代表されるキノコ類も増えてくる。

今は菌床栽培で年中生産されているが、やはりキノコと言えば秋のイメージが強い。マツタケは高級食材なので、誰もが買物カゴに入れる商品ではない。しかしマツタケが売場に並ぶと、「ああ、もうそんな季節が来たのか」と秋を感じる人が多くなり、マツタケの横に広々と並べられた色とりどりのキノコを手に取るわけだ。

このシイタケやエノキ、シメジなどを筆頭に鍋コーナーとして設けられた棚に登場する鍋食材の王様がハクサイだ。半切りや4分の1にカットされたハクサイがずらりと並べられる。

冬場に一度も鍋を食べないという日本人は少ない。売場に並んだ鍋の食材を見ると「そろそろ鍋の季節だな」、「久しぶりに今夜は鍋にするか」となり、キノコやハクサイを手に取ってしまうのではないだろうか。10月はそういう季節なのでハクサイがいちばん売れるというわけだ。

そこから冬に向かって家庭で鍋をする頻度は増えていくわけだが、同じような鍋ばかりだと飽きてしまうので、味つけや食材もアレンジが加わってくる。

最も寒い1月や2月頃になると新しい年を迎えて春に向かって季節は進んでいくため、春を待つ食材が売場に並びはじめる。鍋ばかりだと飽きてくるので家庭での鍋の頻度も少なくなっていく。

それに合わせてハクサイの需要も減少していくということだ。

かつてはハクサイと言えば鍋よりも漬物需要の方が高かった。どの家庭にも大きな樽のぬか床があり、半切りや4分の1に切ったハクサイを漬けていた。今では信じられないが、消費量の多いハクサイは、昔は2玉単位で売られていたのだ。

当時のハクサイは「白菜」という字から連想されるとおり、なかが白いものが主流だった。品種改良が進むなかで黄色い色素を持つ物の食味が良いことがわかり、「黄芯白菜」として種を売り出したのだが、ハクサイは白いものだという先入観から、なかなか広まっていかなかったようだ。

ところがある年、天候不順でハクサイが高騰したことがあった。2玉売りでは手が出ないほどの価格になってしまい、1玉を半切りにして売り出されることになったのだ。

品薄だったので、ハクサイなら何でもいいからと黄芯白菜も積極的に取り扱われるようになったのだが、このハクサイを食べた人が食味の良さに出会うことになる。半切りにして売られたことで玉売りではわからなかった黄色が目に留まり、「芯が黄色いハクサイはおいしい」と評判になったのだ。

それからはハクサイと言えば黄芯だと各種苗メーカーも黄芯白菜の品種改良に力を入れ、今や白いハクサイのほうが珍しくなってしまった。

大阪市東部市場に入荷してくるハクサイの産地構成を見ると、夏場は長野県1本で、秋から春にかけては茨城県、愛知県、長崎県と主要産地をリレーしながら他にも多くの産地からの入荷がある。

価格は天候による影響を受けやすいので年によって様々だが、平均すると9月がいちばん高く、10月になると入荷量が増え、需要が高まるのにともなって価格は一気に下がる傾向にある。量販店で特売が組まれることも多いため、10月から12月までは消費者が手に取りやすい価格で安定推移する傾向が強い。

しかし、生育に時間のかかる作物なので天候の影響を受けると回復にも時間がかかるため、台風や秋の長雨、または長期間にわたる干ばつなどが起きると需要期に端境になりやすく、年末に向けて需要が高まるにつれて価格が高騰することもある。

秋冬には必須のアイテムでありながら、鍋と漬物以外の利用方法が少ないため、需給バランスが崩れやすく量が安定しないと価格が乱高下する傾向がある。必要不可欠な野菜でありながらも、収穫出荷は重労働で単価もそれほど魅力的というわけでもないため、費用をかけてまで安定生産をする意欲につながりにくい品目だ。

生産側の課題解決よりも、鍋以外の用途の開拓など少しでも消費拡大する方法を模索するなど消費側からのアプローチが必要だろう。

著者プロフィール

新開茂樹(しんかい・しげき)
大阪の中央卸売市場の青果卸会社で、野菜や果物を中心に食に関する情報を取り扱っている。
マーケティングやイベントの企画・運営、食育事業や生産者の栽培技術支援等も手掛け、講演や業界誌紙の執筆も多数。

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