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2022年秋季 タキイ研究農場見学会リポート【ナス編】

公開日:2022.12.29

2022年11月17日に滋賀県湖南市にあるタキイ種苗(株)研究農場にて、タキイ研究農場見学会が開催された。品目別に分けてお伝えする今回は、ナス編。

画期的に省力化できる、単為結果性ナス品種!!

通常、ナスはおしべの中にある花粉がめしべの柱頭に着いて、受粉してはじめて果実が肥大する。ハウスの中であると、風が吹かず、虫などの花粉媒介者(ポリネーター)も来ないので、受粉がほとんど起こらない。したがって、ハウスナスの生産者は、ホルモン処理やミツバチを飼育し、受粉を促していた。そういった着果処理の作業時間やコストが、ナス生産の大きな負担になっていた。例えば、ナス促成栽培10a当たりの総労働時間が約1500時間かかるうち、着果処理は全体の25%、およそ375時間かかっている。さらに、ナス栽培は野菜生産の中でも労働時間の長さが比較的長いので、規模拡大がしにくく、他の作目への転換の原因にもなり、日本のナス作付け面積も縮小傾向であった。
そこで、タキイ種苗(株)は、着果処理の省力化に着目し、単為結果の品種を見出した。ホルモン処理や受粉をすると、花の中で、例えで言うと「肥大させてください」というスイッチが入る。そのスイッチが入って、肥大物質と思われる物質が生成されて果実が肥大していくそうだ。今回育種された『単為結果』の品種の花の中は、そのスイッチが入ったままになっているような特徴を持った品種が選抜されたそうだ。したがって、単為結果品種は、花が咲いたらすでに膨らみ始めており、受粉なしで肥大していく。省力化が可能で、作付面積を増やすことも視野に見えてくるのではないだろうか。

そういった特徴を、既存品種にあるようなナス形に持っていき、現在のところ、長ナスの『PC筑陽』、長卵型『PCお竜(りょう)』、『PC鶴丸』の3品種が発売となっている。ナスは地域によりカタチに好みがあるので、長卵型や長ナス型のバリエーションを持たせたそうだ。

ナスの生産者に、着果処理不要の長所を聞いたところ、その作業をやらないと実が成らないので、お金にならないといった、着果処理は精神的にストレスが非常にかかる作業だそうだ。例えば、自分がケガや病気をしたらどうしよう、などのプレッシャーの中で作業をしている、そのプレッシャーから解放されるという。栽培上の悩みから解放されるそうだ。また、単為結果品種を導入したとある生産者は、身内の不幸でハウスから1週間離れてしまい、「今年はナス栽培はだめだな」と失意の中、ハウスに戻ってみると、ナスがちゃんと実っていて感動して涙が出そうになった、という話も、同社の担当者が聞いたという。

省力、省資材が可能なタキイ種苗(株)の単為結果性ナス品種から、目が離せない。

PCシリーズ 特長

◆ハチ利用のコスト、ホルモン処理の手間を削減。◆ハチ不要のためアレルギーの心配なし、農薬散布可能。◆従来品種と同等以上の収量性・秀品性。◆果肉が緻密で美味。

*『PC』は単為結果を表す英単語『parthenocarpy(パセノカーピー)』の略。

PC鶴丸(長卵) NEW

ハウス夏秋・半促成栽培向け品種。早生で総収量が上がる。小葉・立性で管理がしやすい。果肉が硬めで店持ち良好。

PCお竜(長卵)

ハウス促成栽培向け品種。超極早生で初期収量が上がる。短節間でコンパクトに栽培可能。冬場でも果形安定、収穫の波が少ない。

PC筑陽(長ナス)

ハウス促成栽培、ハウス半促成栽培、雨除けハウス夏秋向け品種。果形は筑陽と同じ太長で、果色が濃い。トゲなしで栽培管理がしやすい。

 

取材協力/タキイ種苗(株)広報出版部

取材/御園英伸

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