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【関西 野菜】春の七草

公開日:2023.1.7

芹(せり)なづな 御行(ごぎょう)はくべら 仏の座 すずなすずしろ これぞ七草

これは「春の七草」と呼ばれる植物、セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロを覚えやすいように五七調に並べたものだ。

1月7日に無病息災、健康長寿を願い、粥に入れて食べるという習慣があるわけだが、これらの植物のなかで聞いて馴染みのあるものはセリくらいだろう。

スズナとスズシロはそれぞれカブラとダイコンだと言われれば、ああそうなのかと思うかもしれないが、他の植物は田畑や空き地に存在はしているのだが、普通に暮らしいていて目にすることはほぼない。

真冬に寒いなかでも春に向かって力強く生きようとする植物の生命力にあやかろうと、雪のなかから吹き出した新芽を摘みとっていただくという、奈良時代に行われていた「若菜摘み」という風習から派生したもののようで、同じく奈良時代に唐から伝わった「人日(じんじつ)」という節句の風習と合わさって1月7日に七草粥を食べるようになったようだ。

古代中国では、正月の1日を鶏の日、2日を狗(犬)の日、3日を猪(豚)の日、4日を羊の日、5日を牛の日、6日を馬の日として吉凶を占ったり、それぞれの日にはその動物を殺してはならないとされていた。そして唐の時代辺りから7日を「人の日」として人を殺めたり処罰したりしない日と定め、無病息災や立身出世を願って「七種菜羹(ななしゅさいのかん)」という7種類の野菜を入れた汁物を食べるようになったそうで、それが正月の6日に摘んだ7種類の若菜を7日に食べるという風習へと転じたようである。

地域によっても採れる若菜の種類はまちまちで、当初はとくに何の植物と決まっていたわけではないようだ。しかし、南北朝時代から室町時代にかけて左大臣の官を受けた歌人で古典学者でもある四辻善成(よつじよしなり)がその著書で触れているのが冒頭で紹介した五七調の短歌で、それをきっかけにこの7種類の植物を春の七草として食すようになったとも伝えられている。

これら7種類には意味があって、セリは「競り勝つ」、ナズナは「なでて穢れを取り除く」、ゴギョウは「仏様の体を表す人形」、ハコベラは「繁栄がはびこる」、ホトケノザは「仏様が座る座」、スズナは「神様を呼ぶ鈴」、スズシロは「穢れのない清廉潔白」と植物の名前から連想される縁起の良いことに見立てて、食すことで験を担ごうとしたわけだ。

これらのなかには胃腸や消化器官に効能がある薬用植物も含まれているため、無病息災を願うという意味もあることが窺える。

江戸時代には幕府によって定められた五節句のひとつ「七草の節句」として公式行事ともなっていた。他の4つの節句が3月3日の「上巳の節句」、5月5日の「端午の節句」、7月7日の「七夕の節句」、9月9日の「重陽の節句」であることを踏まえると、かなり重要な行事として位置づけられていたことがわかる。

明治以降に公式行事としての五節句はなくなったが、ひなまつり、子どもの日、七夕などの季節の行事として残り、七草粥も正月明けの風習として続けられてきた。

今は野草を摘みに行くことはほぼないと思うが、日本各地で七草セット用に栽培されており、年始には量販店などでも販売されている。

大阪市東部市場に入荷してくるものは愛媛県産が8割以上を占め、岡山県産や大分県産、地元の大阪府産や岐阜県産の入荷がある。

七草粥を食べる習慣が年々薄れてきていることもあるが、フリーズドライや七草入りのレトルト粥など多種多様な手軽で便利な商品の出現もあり、野菜としての七草セットの利用が年を追うごとに減少している。

栽培も大変で、1月7日までの販売に間に合わなければ意味がなく、かと言って早すぎると1月7日まで持たないため、かなりピンポイントで出荷できる栽培体系が確立されないと成り立たない。7種類の若菜もバランス良くパッケージ化される必要があり、どの品目も多すぎても少なすぎてもダメで、大きくなりすぎたり育ちが悪すぎたりすると商品にできないため、すべての品目が揃って収穫できなければならないのだ。当然、ロスも多くなる。

パッケージに詰めるのも手作業で、縁起物だから見栄え良くバランス良く詰めなければならないため労力も大変なものだ。

これらが価格に見合っているかというと疑問で、年々単価は上昇しているとは言え縁起物を作っているのだというプライドが大部分を占めているのではないだろうか。

燃料や資材のコストも上がっているため単価を引き上げざるを得ないのだが、季節ものとして必要ではあるが消費者からの引き合いが強い商材とは言えず、高くなると消費は落ち込んでしまう。機を逃すと売れないため、仕入れる側も数量を絞り込む傾向があり、なかなか難しい商品なのだ。

奈良時代から続く、縁起と体を労わるという風習の灯を消さないためにも、一年に一度のことであるし、多くの人に買って食べてもらいたい。

著者プロフィール

新開茂樹(しんかい・しげき)
大阪の中央卸売市場の青果卸会社で、野菜や果物を中心に食に関する情報を取り扱っている。
マーケティングやイベントの企画・運営、食育事業や生産者の栽培技術支援等も手掛け、講演や業界誌紙の執筆も多数。

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