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新品種発表会

トキタ種苗大利根研究農場オープンデー2022

公開日:2023.3.1 更新日: 2023.2.24

去る2022年11月17〜18日の2日間にかけて、埼玉県加須市にあるトキタ種苗大利根研究場で同社のオープンデーが開催された。今回のテーマは「今こそ国産野菜」。輸入価格の上昇、国産の安全性・信頼性を求める声の高まりを受け、国産化への転換が期待されている。2日間を通して約2000人が会場を訪れ、盛況のうちに幕を閉じた本イベントから、いくつか注目の品目を紹介する。

ラディッキオ

マーケットが潤沢にあるにもかかわらず、ほぼ輸入に頼っているのがイタリア野菜のラディッキオ。古代ローマ時代から食されていたラディッキオだが、現在よく知られる赤と白のコンストラストが美しい球形のラディッキオの栽培の歴史は意外と浅く、1950年頃からはじまったとされ、北イタリアが本場。日本でも現在2000t近くの輸入があるが、それを国内生産に転換すれば2000tのマーケットを狙える。今まで国産化できなかったのは栽培できる品種がなかったからでハードルは高かったが、13年を費やした品種改良の末、同社では国内で周年供給できる品種ラインナップが完成した。

ラディッキオのなかで一番の使い勝手が良いおすすめ品種が「TSGI-010」。定植後80日で収穫期を迎える春秋用の中早生で、11月頃の収穫に適したベーシックな品種。レタスより日持ちする特徴を持つ。

ラディッキオの「TSGI-010」。収穫して食べるのは赤い中心部。育苗〜生育中も乾燥させず、外側の葉を緑色に保つように管理すると赤と白の美しいコントラストを呈する球形となる。

日本列島は南北縦に伸びているので時期、品種を変え、周年供給ができるのはラディッキオの強みである。秋口から春先辺りにかけては関東、九州、四国、春先から夏は北海道と、途切れずに産地リレーができる。

現在、ラディッキオは一般家庭用より業務流通が多くなっている。生野菜として食するにはもちろん、海外では加熱調理でもたくさん食べられている。おいしさの秘密は、調味に油と酸味を加えること。ラディッキオの苦味と肉やオリーブオイルの油、レモンやバルサミコ酢の酸味が絶妙なハーモニーをもたらし、クセになる味が楽しめる。

同社がラディッキオに力を入れているのは国産マーケットが少なく、競合がないということが大きいが、ラディッキオの特性として抗酸化作用が高く、おいしくヘルシーエイジング対策を訴求できることも大きな理由である。

同じくラディッキオのトレヴィーノの定番早生品種「プレコーチェ」。70〜80日で収穫できる。肉厚な葉はサラダでも存在感があるが、加熱調理も美味。コンパクトな草姿で揃いが良いため秀品率が高い。結球しやすいため容易に栽培できる。

 

カリーノケール

カリーノケールは、ビタミン、ミネラルを多く含み、栄養価が高い。ほど良い歯ごたえがあり、パワーサラダやスムージーなど、生のまま食べても青臭さや苦味はない。加熱調理ではキャベツの替わりに焼きそばや鍋物にも入れられるなど、幅広い用途で使える。

ラディッキオと同じくイタリア野菜の仲間で、サラダで食べられる「カリーノケールCG」は耐寒性に優れた秋冬用品種。耐暑性を備えた春夏秋品種「カリーノケールHG」など他2種で地域作型別で栽培が可能。繰り返し摘み取りできるので長い期間収穫できる。

 

スナップエンドウ

スナップエンドウはエンドウ類のなかでニーズを伸ばしつつある重要品目だ。

目玉品種は、筋を取る必要がないスナップエンドウ「スジナインスナップ」。今まで面倒だった筋取りが必要ない画期的な品種だ。矮性白花で初期から分枝が多く、莢数も多いため、収量アップを狙える。甘みを多く含んだマメで旨味を強く感じると言う。

基本作型は、九州四国などの暖地では9月播き。年末から収穫を開始し、翌年3月頃まで収穫する。生育中は霜害を防ぐハウスなどの施設栽培が基本。中間地での露地栽培での播種は10〜11月下旬となる。中間地でも8月お盆過ぎ頃に低温で発芽させ育苗、定植すると11月頃に収穫することもできる。また、既存の品種では、秋播きでも花を咲かせるためには低温が必要だったが、「スジナインスナップ」はその必要がなく、北海道、東北エリアでも暖かくなってから播種して収穫できる。

空いている育苗用のハウスを使っての栽培も可能なのは嬉しいところ。霜に直接当たると枯れるため、トンネル栽培は避けたほうが良い。

筋取りの必要がないので下準備もなく、料理が簡単。小さなプランターでも栽培できるので、家庭菜園にもおすすめだ。

 

キュウリ

続いての注目品種はキュウリの「節成りスマート」。一般的な品種のように子づる孫づるを出させて技術を要する仕立てをする必要がない。その名のとおり親づるだけを伸ばして、親づるの各節に着果させる。受粉も不要。親づるが支柱の上端に達したら、つるを下ろすだけの簡単な栽培管理で省力的に栽培できる。一般的な品種のキュウリは芯を止めて子づる孫づるを伸ばし、そこから実をつけるので収穫開始まで時間がかかるが、「節成りスマート」は親づるの5節目から収穫できるので収穫開始も早い。

株元から5節目までに着いた雌花は切除して、5節目から着果させる。収穫節より下の葉は摘み取り、株元につるを緩く巻く。写真の着果位置は25節目だったので、今までに20果前後収穫できていた。

「節成りスマート」のさらなる特徴は収穫開始の早さ。一般的な品種が定植後、芯を止めて、子づるを出させるタイミングで収穫がはじまる。

また「節成りスマート」は、うどんこ病に強い耐性を持つ。一般的な品種は土壌病害などで株自体が不調になり株を取り除くと、4本程度の子づるも含めて取り除かれるので、収量が激減する。「節成りスマート」はその株だけを除くので影響が小さい。

加えて支柱とクリップだけで栽培できることから資材費用がそれほどかからず特別な仕立てが必要ないこと、株間30cmで栽培できることも「節成りスマート」の利点で、空いているハウスがあるから「ちょっとキュウリの栽培をはじめてみよう」と検討している生産者にうってつけな品種である。つるを伸ばして下ろして…の繰り返し作業で栽培できるため、まだ経験の浅い新規就農者にもチャレンジしやすい。

紹介した品目の他にも、超立性・高品質の上、べと病抵抗性レース1〜19のホウレンソウ「エクストリーム」、皮がやわらかく油料理との相性抜群の「ペンなす」、業務向けブロッコリー・カリフラワーなど充実した栽培品目を誇る同社の圃場では、来場者が興味深そうに足を止めていた。

 

 

 

取材協力/トキタ種苗株式会社
取材・文/丸山 純

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