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【関西 野菜】キャベツ

公開日:2023.2.28
(画像/photolibrary(https://www.photolibrary.jp/))

 

関東と関西ではキャベツに対するイメージが異なるようだ。

関東ではトンカツのつけ合わせなど、生で細切りにして食べるのがキャベツの主な使い方で、サラダ用の食材としてのイメージが強い。おいしいキャベツの条件は甘くて瑞々しくてやわらかいということのようで、新キャベツとも呼ばれる春の時期がキャベツの旬ということになっているようだ。加熱して食べるときは茹でてソースに絡めたパスタや炒め物などが主流で、レストランでも春のメニューとして登場することが多い。

一方、関西も同じようにサラダやつけ合わせでも使われるのだが、大阪や広島を中心としてお好み焼きや焼きそばなどの粉もん用の食材として用いられることも多く、こちらはがっしりと中身の詰まった寒玉キャベツとも呼ばれる冬のキャベツが主流で、旬も冬ということになっている。春キャベツだと加熱した時に水分が多すぎてベチャっとしたお好み焼きになってしまいおいしくないので、寒玉キャベツのほうが好んで使われる。

全国的には関東流に準ずる地域が多いようだが、福岡のもつ鍋や長崎のちゃんぽんなど、特徴的にキャベツを使うシーンが存在する地域もある。

冬と春以外の季節は「夏秋キャベツ」と呼ばれる、主に高冷地や準高冷地で生産されるキャベツが流通しており、品種的には寒玉キャベツに似た硬いキャベツが多い。

冬キャベツと夏秋キャベツを「寒玉系」、春キャベツを「春系」として月別の入荷量を見てみると、キャベツの本来の旬である冬や春よりも夏と秋の入荷量のほうが多い。夏秋産地の群馬県嬬恋が一大産地で圧倒的な生産量を誇っているからだ。

 

春系は年明けから入荷量が増え、4月をピークに量販店でも売場が作られるが、寒玉系に比べると入荷量はそれほど多くない。冬の寒玉系の収穫は3月で終盤となり、4月から5月にかけては貯蔵出荷されるが、4月は端境となり入荷量が少なくなる。

関東では春が旬のイメージが強いキャベツだが、関西では寒玉系が主流のため、春がいちばん入荷量が少なくなるというイメージなのだ。

お好み焼きにもシーズンがあって、寒玉系のキャベツが最も甘くなる1月から2月頃がおいしいとされる。『お好みソース』で知られるオタフクソース株式会社の方に聞いた話だと、一年で最もお好み焼きの粉やソースが売れるのは1月なのだそうだ。お好み焼き文化から見てもキャベツと言えば冬が定番だということが窺えるのは興味深い。

ところで、実は大阪もキャベツの産地である。特産のタマネギの裏作として生産されるようになったのだが、粉もん文化が盛んなためキャベツをよく利用する大阪で食味を重視した品種を作ろうということで栽培されるようになったのが有限会社石井育種場の「松波」という品種だ。

 

粉もん文化のために大阪で栽培・利用されてきた品種「松波」。

 

甘みが強く苦みや辛みが少ないのが味の特徴で、加熱するとやわらかくなるのにベチャっとはならず食感が良いためお好み焼きに最適ということで、府内のお好み焼き店からも高い評価を得ている。

寒さに当たるとアントシアンがでて赤変しやすい、揃いが悪いなどの短所もあって、他の産地では徐々に生産量が減っていったのだが、大阪では今でも主力の品種として作られ続けている。

10年程前から、この「松波」という品種の魅力を知らないお店や消費者にも知ってもらおうと、筆者自身がお好み焼き店や生産者と一緒に会を立ち上げ、ポスターを作ったりキャンペーンやイベントを開催したりと、ブランドを維持する活動を続けてきた。今ではお好み焼き店だけでなく、中華や高級フレンチのお店などでも取り扱ってもらえるようになった。

これにともなって、他の品種も含めた大阪産のキャベツは一定の評価を維持することができている。天候や他の産地との兼ね合いもあるので年によって多少のバラつきはあるものの、1~3月の大阪産のキャベツの価格は他の産地に比べても高値をつける傾向にある。

 

 

生産量自体は他の大産地に比べると少なく、自給率の低い大阪は全国の様々な産地に支えられて食材をまかなうことができているのだが、地元の食文化の継続のために地元産の食材をブランド化しようという取り組みは価値があると思う。

冬に大阪に旅行などで来られた際には、一度は味わってもらいたい。

 

著者プロフィール

新開茂樹(しんかい・しげき)
大阪の中央卸売市場の青果卸会社で、野菜や果物を中心に食に関する情報を取り扱っている。
マーケティングやイベントの企画・運営、食育事業や生産者の栽培技術支援等も手掛け、講演や業界誌紙の執筆も多数。

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