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第38回 花卉懇談会フォーラム   「不透明な時代に考える 地域からの発信」

公開日:2023.3.18


去る2月18日、東京農業大学世田谷キャンパスにて表題のフォーラムが開催された。ロシアによるウクライナ侵略など世界情勢により不透明な状況が続くなか、身近な視点を重視して活動している2人の講師を迎え、ZOOMによるリモートも併用した初のハイブリッド開催となった。

 

持続可能な植栽のひろがりを目指して

はるはなファーム株式会社代表取締役 鈴木 学氏

宮城県丸森町ではるはなファームを経営して20年になります。東日本大震災で被災した大森プランツから生産を引き継ぎ、主に宿根草をメインとして従業員17名、パイプハウス30棟(5000㎡)、露地置場(5000㎡)で栽培しています。営業モットーは、「日本での新しい宿根草ガーデンの可能性を苗の提供を通じてご提案」、「植物の品種について深掘り」、「植物知識についてお客様と共有」を掲げています。

現在、情熱を持って取り組んでいるのがオランダ出身の巨匠ピィト・アゥドルフ氏のドキュメンタリー上映に関わった縁がきっかけで依頼を受けたのが公共の場への植栽です。最初に手掛けたのは地元宮城の玄関・仙台駅のペデストリアンデッキを宿根草で彩りました。これを機に植栽へのデザインに目覚め、次に、アジア初のピィト・アゥドルフ氏の常設ガーデンとなったPIET OUDOLF GARDEN TOKYOよみうりランド HANA・BIYORIの苗生産を担当、そして第1回東京パークガーデンアワードの植栽応募、入選しました。

生産者の視点を盛り込んだ提案を心がけていますが、そのデザインポイントについてご説明します。まずはメンテナンスが容易でパッチワークのような大きな色の塊を作るブロックブランディングと、グラスメインでいろいろな植物を点在させるマトリックスブランディングを併用して相乗効果を狙うこと。カラースキームについては季節ごとに配色が変わるよう注意を払い、3色以下に色をまとめること。そして例えば「ノコンギク」など、日本由来の植物を使用することも重視しています。耐久性のある品種の採用も心がけており、例としてユーパトリウムの「レッドドワーフ」、パニカムの「ノースウインド」、アガスターシェの「ブルーフォーチュン」などをチョイスしています。病害虫予防の工夫としては、グラス類を密植して農薬使用を抑えるため、密植に強いシュウメイギク、ユーパトリウムなどを採用しています。

また、一年草を使用する場合のポイントは、草姿がスマートで葉が細く、光を通すといった宿根草の生育を邪魔しないもの、メンテナンスを考慮する必要はありますが、こぼれ種子で繁殖し、翌年の苗導入の必要がないものなどがお勧めです。

球根の利用方法については、手入れが簡単なムスカリ、クロッカス、アリウムなどを選んでいます。フリチラリアは深さを大きく取り、高温の影響を避け、長持ちさせるよう心がけています。

コミュニティーガーデン、これまでとこれから

NPO法人Green Works代表理事 牧野ふみよ氏

私は似て非なる2つのNPO法人を運営しています。一つは、植栽による景観・環境整備、人材育成、助言などを通して豊かで潤いのある街作りに寄与する目的で設立し、活動へのサポート、コーディネートを通して担い手を生み出すことを目標に2005年に設立した「Green Works」と、事務局長を務める「大田・花とみどりのまちづくり」です。今回はその両方の活動についてお話します。

植栽による景観・環境整備、人材育成、助言などを通して豊かで潤いのある街作りに貢献するという目的を掲げています。主な活動内容は、公共ガーデンの景観整備・維持管理、公園や公共空間においてコミュニティガーデンの活動支援です。コミュニティガーデンとは、皆で作る地域の庭を指し、顔ぶれも様々で形式はなく、道沿いの花壇やマンションの中庭など場所も様々、仲間と手入れをして作る人も見る人にも笑顔を、というものでとくに決まった堅苦しい定義はありません。

今までに公園やマンション、そしてオリンピック・パラリンピック会場の周辺地域などの植栽をして多くの貢献をしてきました。コミュニティガーデンがうまくいくためのキーワードは、「美しい」、「楽でわかりやすい」、「仲間を作る」、「無理をしない活動ペースで」などが挙げられます。また、活動のお土産にコミュニティガーデンで咲いた花をミニブーケにしたり、育てたハーブでお茶会をしたり、ハーブとチーズと合わせて料理に使ったりすれば楽しみが倍増します。そうした仲間との交流は、チームワーク向上のためにも大切なこと。また、お揃いのエプロンやユニフォームを身につけたり、重宝する使いやすい道具の共有により仲間意識を育むこともできます。

そしてコミュニティガーデンと相性の良いキーワードもあり、それは生ごみなどを堆肥として利用する「環境」、虫の集まるガーデンで学べる「生物多様性」、ガーデン作りは体力作りにもつながるため「健康」、役割を与えて成長にも一役買う「子どもと一緒に」、花壇に季節にちなんだ俳句を添えたりする「アートや文化」です。そしてそれらのキーワードは現在の潮流となっているSDGsと共通しています。

コミュニティガーデン作りは最初は一人ではじめても、いつしか皆とはじめることが素晴らしいのです。私の座右の銘にしているアフリカの諺「速く行きたいなら、一人で行きなさい。遠くへ行きたいなら、みんなで行きなさい」を胸に、仲間とこれからも活動を続けていきたいです。

次回の花卉懇談会セミナーは、「LED照明の農業分野における実装」をテーマとして7月22日(土)に東京農業大学世田谷キャンパスとリモートによるハイブリッド開催を予定しています。

 

取材協力・資料提供/花卉懇談会事務局
取材・文/丸山 純

 

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