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令和5年 コフナ農法普及協議会が開催~適切な土壌づくりと野菜の流通動向を知る~

公開日:2023.3.29 更新日: 2023.4.14


東京都品川区のアワーズイン阪急において、2月17日に開かれた「コフナ農法普及協議会」。新型コロナウイルスの感染拡大により、対面での開催は実に3年ぶりとなった。「コフナ」とは、世界40ヵ所以上の国と地域で実用化されている農業用微生物資材。その普及を目指して行われたこの協議会では、土壌肥料・有機資源リサイクルを専門とする農学博士、技術士(農業部門)である藤原俊六郎氏の記念講演と、東一神田青果株式会社の柴本勲氏による東京卸売市場の青果物動向についての情報提供が行われた。

 

記念講演
「微生物を活かす土づくり〜堆肥の役割と土壌診断〜」

技術士事務所 Office FUJIWARA 代表
農学博士(東京大学) 技術士(農業部門)
藤原俊六郎氏

藤原俊六郎氏

堆肥の役割

そもそも土と土壌の違いは、土は無機物、土壌は作物生産に寄与するものというイメージです。岩石が風化して、そこに水が入り地衣類などが育ち、さらにその下では微生物が活動しています。こうした生命活動のはじまりがあって、土壌ができます。土壌とは「気相(空気)」、「液相(水)」、「固相(有機物と無機物)」で構成されており、これらのバランスが大切です。固相の部分の土壌有機物が多いと肥沃な土壌と言えます。

農業は自然環境に影響されますが、とくに土壌の特性に大きく影響を受けます。そこで良い土壌にするために私たちができることは、堆肥や肥料を入れた土の改良です。これを「土作り」と言いますが、そこで重要なのが、微生物の活動です。微生物が堆肥や作物遺体等を分解することで、作物の養分供給と共に土壌の団粒構造の発達や腐植を増やすことができ、結果として地力が向上します。

堆肥施用効果としては、窒素、リン酸、カリ等の肥料成分の供給や、pHの調整等の「化学性改良」、土壌団粒の形成等の「物理性改良」、土壌有機物の分解促進等の「生物性の改良」が挙げられます。

肥料効果は、堆肥の原料(家畜ふん等)によって成分が異なること、窒素効果は堆肥化により減少すること等の課題があります。さらに、堆肥の役割は「微生物の餌となる炭素の供給源として非常に重要」ということです。自然界では落葉等や動物由来のものまで、すべての有機物は土にかえります。しかし農耕地では農作物を収穫するので、その結果、土壌から炭素が奪われます。およそ10a当たり5,000kgの農作物を収穫すると、炭素を約250kg持ち出す計算です。さらに耕うんすると、好気性の微生物が活性化して有機分解力が上昇し、その結果、土壌中の炭素量が減少します。こうしたことからも、農耕地には炭素を共有するために堆肥等の有機物の施用が必要となります。

また、こうした土壌をめぐる物質循環の中心を担っているのが土壌生物です。土壌生物は、ミミズやトビムシ、ダニ、センチュウなどの土壌動物、原生動物、藻類、糸状菌、放線菌、細菌などの土壌微生物に分かれます。土壌生物は、それぞれの役割を連携して有機物の分解をはじめ、団粒構造の促進や植物のリン酸の吸収を向上させる等を行います。これら土壌生物の働きにより作物生産に適した土壌ができるのです。またこれらの土壌生物は、病虫害に強い作物作りができると期待されていますが、抑制効果を過信しすぎてはいけません。過剰な期待は禁物です。

 

土壌診断

土壌の状態を知る「土壌診断」は、まずは現地の状況をよく観察し、その土壌を採取することからはじまります。これらを実験室に持ち込み分析しますが、分析項目の決定は農家の方からの話を聞くことも大切です。また畑作物の改良目標には物理性改良目標と化学性改良目標があります(表1)。このなかの物理性診断にある「作土深」は割り箸を畑にさしてすべて埋まれば問題ありませんし、「有効土層」についても長い棒をさして40㎝以上埋まればいいでしょう。粘土や砂の量で決まる「土性」は水を含ませた土を手でこねてみて、コヨリのようになるか、棒状か、まとまらないかで判断できます(表2)。土壌診断は化学成分の分析だけでなく、このような物理性の診断も大切です。

土壌診断は、pHとECを測るだけでもある程度は判断できます(図)。土壌診断で注意することは、水田や畑、果樹園なのか「栽培形態の把握」、生理障害や病害虫の違い、根の状態を知る「作物の育成状況」、そして「土壌サンプリングの場所」です。土壌サンプリングは、「分析試料は数カ所の土壌を混合する」、「畝やベッドから採取する」、「大きな圃場では複数箇所の分析が好ましい」などが挙げられます。このときに土壌微生物の評価はとても大切になると心得ましょう。

 

 

情報提供
青果物の動向

東一神田青果株式会社
常務取締役 兼 野菜第一事業部長
柴本 勲氏

柴本 勲氏

温暖化の影響や、資材、運送費の高騰、そして新型コロナウイルス感染の拡大により、生産者の方も大変な思いをされていると思います。そのようななかで、東京中央卸市場の「野菜・果実の年次別入荷量と価格の推移」(図)を見てみますと、野菜はコロナ禍といわれる3年間はほぼ横ばいで推移しています。果物は令和4年に生産量が減少。また果物の価格に関しては、コロナ禍前から上昇しています。生産量の減少などの要因は、生産者の高齢化によることが一因です。また平成元年〜令和4年を見ると、全体的に入荷量が減っていますが、個食化などにより、例えばダイコンは1本ではなく半分や4分の1サイズで売る、レンコンなどは量り売りなど、売り方にも変化が見られることも考えなくてはなりません。

そのようななかで、取り扱い量が増えている野菜もあります。「東京都中央卸売史上品目別取り扱い実績」(図2)で、野菜の数量は平成元年を100%とすると、2019年(平成31年、令和元年)では77%と減ってはいますが、品目別で見てみるとズッキーニは564%、ミニトマトは216%、ブロッコリーは209%と増えています。しかし、数量が減っている品目が多く、なかでもシュンギクは32%、サトイモ29%、ソラマメ22%、サヤエンドウ18%と3分の1以下になっています。

増えた率が大きかったズッキーニですが、私が会社に入社した昭和63年頃は輸入ものがほとんどでした。今は関東一円で作られており、さらに温暖化の影響で岩手県などの寒い地域でも作られるようになりました。ミニトマトは、大玉のトマトに比べて包丁で切る手間がないため飲食店でも重宝され、さらにお弁当の彩りなどにも使われるのも増えた要因でしょう。こうした食の変化によっても、野菜の取り扱い量が変わってきます。

現在、資材、人材、燃料代は、高騰が続いています。トンネル資材の価格が高いため、作付面積を減らしている農家の方もいらっしゃいました。こうした現状を考えると令和5年には、生産量は確実に減るでしょう。

現在、野菜のなかには買い手市場から売り手市場になっているものもあります。これだけ様々な価格上昇が起きていることを考えれば、卸売会社は野菜の価格を上げていく努力を怠ってはなりません。そうしなければ農業全体がダメになります。農家の方も藤原先生のお話にもあったように、土作りをしっかりしている方、コンスタントに野菜の出荷スケジュールを立てている方、ハウスの管理をこまめにして病害対策・輪作をしている方などは、収益を出しています。

取材協力・資料提供/コフナ農法普及協議会(ニチモウ株式会社)
取材・文/小日向 陽子

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