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【関西 野菜】泉州タマネギ

公開日:2023.5.15

世界の伝統的な食事のレシピやレストランを紹介するウェブサイト「TasteAtlas」で2022年の「世界の伝統的な料理ランキングトップ100」の1位に選ばれたのは日本の「カレー」だった。実は43位にも「カレーライス」が入っているのだが、1位になった「カレー」にはカレーライス以外にもカレーうどんなどのカレー料理が含まれているようだ。

カレーと言えばインドやネパールなどのアジアの料理というイメージだが、日本のカレーのルーツはイギリスであることは、ご存じの方も多いだろう。

イギリスでは大航海時代を経て海運貿易が盛んになったのだが、当時のイギリスでよく食べられていたクリーム系のシチューは乳製品を使うため、長い航海には食材が持たないということで、インドのスパイスを用いたカレー味のシチューが編み出されたのがはじまりだそうだ。大海を行く船は海流などの影響で揺れが大きく、シャバシャバのシチューではこぼれてしまうため、小麦粉でとろみをつけて提供した。それでイギリスのカレーにはとろみがついていた。そのカレー味のとろみのついたシチューが日本に入ってきたのが明治時代。1868年にイギリスの商船がカレー粉をレシピとともに伝え、1872年に西洋料理のレシピ本が出版されてから広く普及していったようだ。

さて、最近はカレーブームもあって、インドやネパールなどのいわゆる「スパイスカレー」のお店も増え、様々なスパイスもECサイトなどで手軽に入手できるようになったため身近にアジア系のカレーも食べられるようになった。

しかし日本のカレーというと、タマネギ、ニンジン、ジャガイモとウシやブタなどの肉を炒めて煮込み、カレールーで味つけしたものが主流だろう。いろいろな食材が使われるが、絶対に欠かせないのがタマネギではないだろうか。

ところが、タマネギが日本で利用されるようになったのはカレーの普及よりも後なのだ。1871年の北海道での試験栽培を経て1878年に本格的な栽培がはじまった後、一般的に栽培、普及しはじめたのは1885年頃だ。

日本で最初に作られていたカレーのレシピには、タマネギではなく白ネギが用いられていたようだ。肉もウシやブタではなく、カエルやエビ、カキなどが主流だったようで、今の日本のカレーとはイメージがまったく異なる。

タマネギの栽培が本格化したのはアメリカから持ち込まれた2系統の品種が、それぞれ北海道と大阪府に導入されたのがきっかけで、どちらも「黄タマネギ」と呼ばれる。このうち、大阪に持ち込まれたものから派生して生まれたのが「泉州黄タマネギ」で、大阪府が認証する「なにわの伝統野菜」にも含まれている。

北海道を除き、春から初夏に収穫する日本のタマネギは、すべてこの「泉州黄タマネギ」から派生していったものだ。かつては大阪もタマネギの一大産地であったが、都市化が進み生産面積は減少していった。

日本でカレーにタマネギが一般的に用いられるようになったのは、明治時代の中期に北海道の開拓がはじまり、移民が増えたとともに農地が増えてタマネギの大産地となってからのようだ。それで、同時に栽培が拡大したニンジンとジャガイモもカレーに入れるようになったらしい。

大阪では、今ではなにわの伝統野菜の「泉州黄タマネギ」は数名の生産者が細々と栽培しているのみだが、品種改良されたものは栽培が続いており、「泉州タマネギ」と呼ばれて市場流通している。

 

旬は5月の連休明け~6月頃である。

瑞々しくて甘みが強いのが特徴で、過熱するとより甘みが増すので、鉄板焼きやBBQなどで人気がある。飲食店でもお好み焼き店などを中心に「泉州タマネギステーキ」として提供されているのをよく見かける。

生でサラダで食べても辛みが少なく、スライスしたものをかつお節としょう油をかけて食べるメニューで提供している飲食店も多い。

しかし、同じ系統の品種が、九州の産地から兵庫県の淡路、静岡県など様々な地域から入荷してくるので、家庭消費では差別化して販売することは難しくなっている。

全国的に見ると栽培面積も出荷量も少ないが、日本のタマネギの発祥という歴史もあるので少ないながらも伝統を守り、飲食店などでは地元産の食材ということをアピールし続けてほしいと思う。

著者プロフィール

新開茂樹(しんかい・しげき)
大阪の中央卸売市場の青果卸会社で、野菜や果物を中心に食に関する情報を取り扱っている。
マーケティングやイベントの企画・運営、食育事業や生産者の栽培技術支援等も手掛け、講演や業界誌紙の執筆も多数。

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