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ネオニコチノイド系殺虫剤の作用研究を通じて、薬物活性の常識が覆される

公開日:2023.6.9 更新日: 2023.5.23

世界中で広く使用されているネオニコチノイド系殺虫剤は、昆虫の神経細胞にあるニコチン性アセチルコリン受容体の働きを阻害することで、その行動に悪影響を及ぼして殺虫効果をもたらすと考えられています。人間には作用しないとされる一方で、ハチなどの防除対象ではない昆虫への影響が指摘されるだけでなく、一部の水生生物や鳥類への影響も懸念されており、生物に対するネオニコチノイドの詳細な作用の解明が求められています。

そこで近畿大学、筑波大学、東北大学、国立遺伝学研究所、シンセティックゲシュタルト株式会社、英ロンドン大学の研究グループはショウジョウバエを用いてネオニコチノイドの作用メカニズムを明らかにする研究に取り組みました。

ネオニコチノイドが作用するニコチン性アセチルコリン受容体は複数種類のサブユニットでできており、そのバリエーションは膨大になります。研究グループはショウジョウバエの神経細胞で発現しているサブユニットを特定して、受容体を再構成。これを用いて個々のサブユニットがネオニコチノイドの作用にどのように影響するかを調べました。

イラスト/坂木浩子

その結果、受容体にα2サブユニットが存在するとネオニコチノイドの活性が低下することが明らかになりました。そこで神経細胞に限ってα2サブユニットの発現を抑制したところ、ネオニコチノイドの活性が高まることが観察されました。

薬物の活性は標的となる分子が減少すると効果が低下するのが一般的ですが、この研究成果は逆のケースもあることを示しており、標的分子の発現抑制で薬物の活性が低減するという常識を覆すことになりました。この研究によってネオニコチノイドの作用メカニズムの一端が明らかになっただけでなく、今後、この殺虫剤の影響を解析する際の留意すべき知見が得られたと考えられています。

文/斉藤勝司

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