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抵抗性品種の育成につながるか? ジャガイモシストセンチュウの孵化を促す物質を発見

公開日:2023.6.16

ジャガイモシストセンチュウはナス属作物に加害する重要害虫であり、確実な防除が求められるものの、独特な生活環が防除を難しくしています。交尾を終えた雌は自分の体内に数百個の卵を産み、外皮を硬化させて硬い殻で覆われた「シスト」と呼ばれる状態になって卵を保護します。シストに守られている限り、卵は乾燥や低温に強く、近くに宿主となる植物が現れるまで10年以上休眠し続け、その間、殺線虫剤に対して耐性を持ち、防除を難しくしています。

ただし宿主植物の根から分泌される物質(孵化促進物質)に反応して孵化が始まるため、この生活環を逆手に取れば、ジャガイモシストセンチュウの防除が期待でき、古くから孵化促進物質の研究が取り組まれてきました。1990年代にソラノエクレピンAという物質が発見されていますが、その後、新たな物質は報告されておらず、神戸大学などの研究グループは、ジャガイモの根を浸した水の中に未知の孵化促進物質を求める研究に取り組みました。

イラスト/坂木浩子

ジャガイモの水耕栽培で出る廃液約7万リットルに含まれる物質を取り出し、分離、精製して、ジャガイモシストセンチュウの卵の孵化を促せるかどうかを調べました。その結果、孵化を促せる2種類の物質を発見。一つはソラノエクレピンAであったため、もう一つの物質を詳しく分析したところ、ソラノエクレピンAに構造が似ていたことから孵化促進物質と名付けられました。

次にトマトの根から分泌される孵化促進物質を分析した結果、ソラノエクレピンBのみを検出できたことから、ソラノエクレピンBの合成に関わる遺伝子を探索。見つかった遺伝子をゲノム編集技術により破壊した上で、このトマトの根の培養液でジャガイモシストセンチュウの卵を孵化させられるかどうかを調べたところ、孵化促進活性は著しく低下することが分かりました。そのため今後、ソラノエクレピンBを注目して育種を進めることで、ジャガイモシストセンチュウの孵化を促すことのない品種が実現するかもしれません。

文/斉藤勝司

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