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【関西 野菜】エダマメ

公開日:2023.6.13

「ビールに合う、おつまみと言えば?」

と尋ねられたら、読者の方は何を思い浮かべるだろうか。

まずはビールの話をしよう。

ビールの歴史は古く、紀元前4000年以上前のメソポタミア文明の遺跡から作られていた痕跡が発見されている。以降、世界の多くの遺跡でビールを醸造していた痕跡が残されている。1516年に「ビール純粋令」が出されたドイツではビールの品質の向上・維持に成功したことで、ビールと言えばドイツとも言われるほどのビール大国となった。そんなドイツだとビールにはやっぱりソーセージだね、となるのかもしれない。

ビールは大航海時代に「腐らないから」という理由で飲料水の代わりに船のなかで飲まれたことで、それまでビールがなかった日本をはじめ世界中に広まったらしいが、それを広めたイギリスのパブでは何といってもフィッシュアンドチップスが定番とのこと。

世界の国別のビール消費量を見ると、中国が1位で、次いでアメリカ、ブラジル、ロシア、メキシコ、ドイツ、イギリスとなっている。日本はこの次の8位だ。

しかしこれは人口が多い国だからということもあり、国民1人当たりのデータにしてみると、1位はチェコになる。以下上位に挙げられる国は、オーストリア、リトアニア、ルーマニア、ポーランド、エストニアといった具合で、日本人からするとピンとこないのだがビールが安価で手に入る国が多いらしく、チェコではソフトドリンクよりも安価なのだとか。そんなチェコのビールのおつまみと言えば、チーズフライなのだそうだ。チーズにパン粉をまぶして揚げたものに、タルタルソースのようなものをつけて食べるのが定番らしく、なかなかにカロリーの高そうなものだ。

国別消費量の上位の国ではと言うと、中国では当然ながら中華料理で、炒めたり揚げたりした料理が多く、アメリカはメガネをかけた白髪白髭のおじさんが思い浮かぶフライドチキンとフライドポテトだろう。他の国でもビールのおつまみとして人気が高いのは、肉やジャガイモなどを油で揚げたもので、基本的には油っこいものとの相性が良いと考えられているようだ。

さて、日本でもビールのおつまみとして人気が高いものは、から揚げやギョウザなどの油っこくて味の濃いものが定番ではあるが、2位は焼き鳥だ。ニワトリそのものに脂はあるが、揚げ物でも炒め物でもなく焼いたものが上位というのは世界的にも珍しいようだ。

そして、そんな油っこくてしつこい料理たちを抑え込んで、日本で堂々の1位に輝くのは、なんと「エダマメ」なのだ。しかも圧勝である。焼き鳥以上に世界では類を見ないメニューだ。

これを聞いた他の国の人は、「え?茹でたマメが1位?」と驚くに違いない。塩で茹でただけの野菜がビールのおつまみの圧倒的ナンバーワンというのは信じられないだろう。しかし、日本人にとってはビールに合うおつまみと言えばエダマメなのだ。

お酒を飲まない人もエダマメは好きだという人が多い。夏になるとスーパーでもコーナーが作られて高々と積み上げられる。居酒屋などでもエダマメがメニューにない店はないと言っても過言ではないだろう。

最近では冷凍技術が進化したおかげで、冬でも冷凍のエダマメがおいしく食べられるので、年中おつまみの定番としてメニューに登場している。

エダマメの生産量が多い都道府県はどこかと調べてみると、全国的に見てここがエダマメの大産地だという地域はなく、生産量の順位も年ごとに変化している。

しかし、エダマメは鮮度が落ちるのが早い作物であるため、消費地の近くで生産していることが多く、そういう意味合いから関東周辺の千葉県や群馬県、埼玉県などが上位に挙がってくるようだ。

産地としての知名度が高いのは、だだちゃ豆で有名な山形県だろう。山形県も5位以内に入ってくることが多い。

注目するべきは秋田県と新潟県で、ここ10年くらいで生産量が大きく上昇している。もともとは稲作が中心の米の大産地なのだが、米の消費量が減り、価格も年々下落しており、耕作放棄地も増えているという現状を何とかしようと、地域を挙げてエダマメの産地化を進めているからだ。

エダマメは栽培自体は難しくなく、もともとは米を作っている田んぼの畔に植えられていたことから「畔豆(あぜまめ)」とも呼ばれていた。発芽さえすれば、根粒菌が空気中の窒素を固定してくれるから肥料もいらないし、カメムシの被害はあるものの、基本的には病害虫にも強い作物だ。

しかし、商業用に栽培するとなると、莢を枝から外して選別し、袋詰めするという工程がものすごく大変な作業なのだ。枝付きで出荷するにしても、葉を取り除き、束ねて袋詰めするという工程が必要となる。

エダマメの栽培において、圃場準備から出荷後の片づけまでの工程を労働時間で算出したデータによると、収穫後の出荷調整作業が全体の95%程にもなるらしい。

売れるからといって簡単に作付面積を増やしても、個人出荷では出荷調整が追いつかないのだ。しかも鮮度が落ちやすいので予冷のための冷蔵設備も必須だ。

だから、地域を挙げて脱莢機や選果機、大型の冷蔵庫などの設備投資を行い産地化を進めてきた秋田県や新潟県が生産量を伸ばしているというわけだ。

前述の通り、消費地の近くで栽培を行うことが理想な作物なので、大阪の市場に入荷してくる産地構成は関東とはガラッと異なる。

主力産地は徳島県だが、なんと2位は地元の大阪府だ。

特に八尾市は近畿の市町村のなかでも最も生産量が多く、「八尾えだまめ」として地元では認知度も高い。

エダマメは白毛で豆が緑色の緑系、茶毛で豆はやや茶色がかった茶豆、その中間の茶系、豆が黒い黒大豆の4つに大別される。

最近は全国的に山形のだだ茶豆に代表される茶豆の人気が高く、その味に近い品種として育種された「湯あがり娘」をはじめとした茶系の品種の生産量が増えている。しかし、大阪では八尾のエダマメに代表される、緑色で実がぷっくりとしたものの人気が他の地域に比べて依然として高いようだ。

八尾のエダマメ。ぷっくりとした美しい緑色の実が特徴。

徳島県は緑系と茶系の品種を作型を変えて長期間にわたって出荷を続けている。他の産地は品種特性が強く、緑系、茶系、茶豆、黒大豆という順でリレーしていく。

入荷は3〜4月に輸入の台湾産がスタートし、国内産は5〜11月まで続く。

台湾は現地で冷凍した加工品を輸出用に生産しているものが多いが、気温が上昇しはじめる頃に売れはじめるからということで、需要の高い日本には3月から生果が輸入してくる。台湾人は日常的にエダマメを食べる習慣はなく、生産量の8割以上が日本向けの輸出のために栽培されているようだ。

大阪市東部市場の入荷のピークは7月で、やはり暑い夏のビールのお供にというイメージが強い。

地元の大阪府ではバラ詰めの箱入やカゴでの出荷が主流で、和歌山県、福井県などで枝付きでの出荷も見られるが、他の地域はほとんどは200g前後の袋入である。

スーパーでも飲食店でも需要は高く、値段が高すぎない限りはまだまだ潜在需要があるように感じる。ここ数年は大阪では10月でも11月でも夏日になる日も増えてきており残暑が晩秋まで続く年もある。暑いときにはビールにエダマメという黄金の組み合わせは温暖化とともに期間が長く続いていくことになりそうだ。

著者プロフィール

新開茂樹(しんかい・しげき)
大阪の中央卸売市場の青果卸会社で、野菜や果物を中心に食に関する情報を取り扱っている。
マーケティングやイベントの企画・運営、食育事業や生産者の栽培技術支援等も手掛け、講演や業界誌紙の執筆も多数。

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