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【関西 果実】デラウェア

公開日:2023.6.20 更新日: 2023.6.23

ブドウと聞いて何をイメージするだろうか?
これは年齢や地域、育った環境などで異なるように思う。

果物が好きで普段から自分でも買って食べるという人にとって、最近はブドウと言えば「シャインマスカット」をイメージするのではないだろうか。種子がなくて皮ごと食べられ、甘くて食べ応えがあるため年々人気が高まっている。しかし、高品質なものは値段が高くて手が出ないという人も多いだろう。

40代以上の方にとっては「ブドウの王様」とも言われた「巨峰」だという人が多いかもしれない。

地域によっても異なるに違いない。

福岡県の方は、やはり地元で普及するきっかけとなったことから「巨峰」をイメージする方が多いだろうし、広島県の福山の辺りの方なら「マスカットベリーA」だとか、岡山県なら種子がない「ニューピオーネ」だとか、青森県の方なら「スチューベン」だとか、長野県は何といっても「ナガノパープル」でしょ、など、地域の特産品を思い浮かべる方も多いのではないだろうか。

筆者は酒好きなもので、果物を専門に扱っていながらもブドウと聞いてイメージするのはワインだったりする。個人的に好きなのは白なら「リースリング」、赤なら「グルナッシュ」という品種だ。

ヨーロッパではブドウはワインの醸造に使われる消費量が最も多く、ヨーロッパ人にとってもブドウと言えばワインとイメージする人が多いようだ。これはヨーロッパに限ったことではなく、世界で生産されているブドウの70%以上はワイン醸造用ということによるのだろう。

しかし日本では生食用が90%近く、ワイン用と言えば10%程度、それもワイン専用というよりも生食用をワインの醸造にも使っているというものが多い。

日本人にとってはブドウは生で食べるものだ。

ワインをイメージすると申し上げたが、筆者が子どもの頃は大阪ではブドウと言えば「デラウェア」のことだった。「巨峰」や「ピオーネ」などもあったかもしれないが、あまり記憶にない。

夏になると冷蔵庫には必ずと言っていいほど「デラウェア」が入っていた。小さな果実を指でちぎって、皮のところをつまんで口に入れると、中身だけが飛び出してくる。小さいので食べ応えはないのだが、その作業も含めてクセになるので次から次へと口の中に実を投入すると、あっという間に1房がなくなってしまう。

別の食べ方も考案したりした。5~6粒を皮のまま口に放り込んで口のなかで歯と舌を使って実だけを取り出すのだ。慣れてくるといい具合に実と皮が分離してたくさんの実を一度に食べることができるようになる。こちらは食べ応えがあるので気に入っていた。

真夏になると暑いので、冷凍庫でカチコチに凍らせたものを食べることもあった。手作りシャーベットといった感じだ。凍らせると皮もそれほど気にならなくなり、皮ごと食べたりもした。スイーツなどは少なかったので、夏のごちそうのひとつだった。

大人になって知ったのだが、大阪は「デラウェア」の大産地で、かつては日本一の産地であったらしい。今でもブドウ全体でも全国8位前後、「デラウェア」だけだと全国3位の産地である。上位はというと、1位が山形県、2位が山梨県と果物王国に次ぐ3位なので大したものである。

大阪市東部市場に入荷してくる産地は山形県が圧倒的に多く、次いで地元の大阪府で、この2府県で99%を占める。

まず5月下旬頃に大阪府産の入荷がはじまり、大阪府産は6~7月がピークになる。山形県産はリレーする形で7月に入荷が始まり、8月にピークを迎え、9月中旬頃まで入荷が続く。

全国的なブドウ産地の傾向として、「シャインマスカット」の作付面積が増えている分、他の品種の作付面積は減少している。「デラウェア」も類にもれず、年々作付面積は減少している。

黒ブドウや赤ブドウの入荷量はどの品種でも年を追うごとに減少傾向で市場ニーズは高まっており、それにともなって価格は上昇傾向にあるのだが、生産側としての「シャインマスカット」の魅力には勝てないというのが実状だ。

しかし、例えば大阪府では作付面積が減る中でも府が補助金を出すなどしてスマート農業にも積極的に取り組んでおり、出荷量の減少を少しでも食い止めようと動いている。ハウスの開閉の自動化や、リモートセンシングなどのIoTを活用することでハウス内の温度をセンサーが感知して温度が高すぎると生産者のスマートフォンにアラートを送り、遠隔からでもハウスの開閉を行うことができるという仕組みだ。新規就農者へも資金面だけでなく、技術的なことも援助するなどの取り組みも行っているようだ。

また大阪府は日本ワインの発祥の地でもあり、特産である「デラウェア」のワインを醸造するワイナリーも複数存在している。地元産だからということで取り扱うレストランも府内に増えており、最近はブランド化されて海外でも人気が高まってきた。

「シャインマスカット」のように新たな価値が生まれていくことも良いことだが、子どもの頃から食べ慣れて親しんできた「デラウェア」も、その灯を絶やすことなく継続してほしいものだ。スマート農業の活用も期待が大きい。どんな形でも、日本の農業が活性化されていくことは望ましい。

著者プロフィール

新開茂樹(しんかい・しげき)
大阪の中央卸売市場の青果卸会社で、野菜や果物を中心に食に関する情報を取り扱っている。
マーケティングやイベントの企画・運営、食育事業や生産者の栽培技術支援等も手掛け、講演や業界誌紙の執筆も多数。

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