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環境調和型の除草技術につながるか!?  重力に応じて根が伸びるのを阻害する薬剤を開発

公開日:2023.7.21

農村地域では雑草の管理に多大な労力が割かれています。除草剤を撒いて枯らしてしまえば、雑草の問題は解決するでしょうが、景観の悪化に加えて、地盤の軟弱化、保水力の低下といった環境問題を招いてしまいます。そのため適度な緑を保ちつつ、見た目に悪くなるほど繁茂させない雑草管理が求められており、九州大学、基礎生物学研究所、東京農工大学の研究グループは重力に応じた根の伸長を阻害する化学物質BMAを開発しました。

イラスト/坂木浩子

BMA開発の発端は過去に行われたアレロパシーの研究にまで遡ります。アレロパシーとは植物が放出する化学物質によって他の植物、微生物などに影響を与える現象を指し、過去の研究で研究グループはユキヤナギ由来のシス桂皮酸という天然化学物質と、その化学構造を少し変化させた誘導体に植物の成長を抑制する作用があることを確認していました。
シス桂皮酸と誘導体が持つ成長抑制作用のメカニズムを調べた結果、誘導体が重力に応じて植物の根や茎が伸びる方向を決める「重力屈性」に関わる細胞に集まっていることが判明。シス桂皮酸と誘導体が植物の重力屈性を攪乱することで成長を抑制していると考えられました。

この作用を利用すれば、雑草を枯らすことなく、繁茂もさせない理想の雑草管理が実現するかもしれません。ただし、シス桂皮酸が持つ重力屈性阻害作用は弱いため、研究グループはシス桂皮酸の構造を改変して作用を高める研究に取り組み、まずku-76を開発し、2020年に発表していました。そして、この程、ku-76の1000倍ほど強い作用を持つBMAを開発しました。実際、このBMAをシロイヌナズナやレタスに与えると極微量で作用をあらわしました。

今後、雑草とされる植物にも同様の阻害効果があることが明らかになれば、BMAを製剤化して実用化することで、雑草を枯らすことなく、繁茂もさせない理想の雑草管理が実現することでしょう。

文/斉藤勝司

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