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持続可能な農業を実現に貢献する、堆肥・土壌・植物の複雑な相互作用を評価するモデルを構築!!

公開日:2023.7.28

世界的には人口は増え続けており、今後、食糧の増産に取り組まねばなりません。しかし、化学肥料を多用する従来の農法では環境への負荷の増大が心配されます。化学肥料に頼らない有機農業への転換が求められるものの、有機農業で使われる堆肥は原料や発酵条件によって品質が安定しないと指摘されてきました。

一方、過去の研究で好熱菌と呼ばれる細菌を使うことで、肥料になる発酵物を安定生産できることが明らかになっていたため、理化学研究所、千葉大学、金沢大学、福島大学、北里大学の研究グループは、好熱菌で作られた堆肥を用いて化学肥料に頼らない持続可能な農業の可能性を探る研究に取り組みました。

好熱菌による発酵物を含む堆肥を評価するため、地上部と地下部の評価をしやすい根菜類からニンジンを採用して試験栽培を実施。試験圃場1m2当たり10gの堆肥を投入する施肥区と、堆肥を投入していない非施肥区で、ニンジンの収量、色調、食味、土壌中の微細物叢がどのように異なるかを詳しく比較しました。

イラスト/坂木浩子

11月と2月の2回、ニンジンを収穫する条件で栽培したところ、いずれの条件でも施肥区のほうが非施肥区よりも評価成績は上回りました。さらに栽培試験で得られたデータをもとにニンジンの栽培に大きく栄養を及ぼす重要因子を見出し、その相関関係を方程式に示して、計算を行いました。その結果、アミノ酸をはじめとする窒素化合物、天然色素のカロテノイド、抗菌活性を持つポリフェノールの一種フラボノイドなどの因子が重要である可能性、施肥によって窒素循環が効率化する可能性、堆肥由来のパニエバシラス属の細菌が土壌環境を改善している可能性が示されました。

そのためパニエバシラス属の細菌のゲノム解析を行ったところ、窒素循環に関わる複数の遺伝子確認できたほか、植物ホルモンのオーキシンの産生、鉄の吸収に関わるキレート剤の産生、リンの吸収などに関連する遺伝子も検出されました。こうした結果は前述の方程式の正しさを示しており、堆肥・土壌・植物の間に生じる複雑な相互作用を評価する理想的なモデルとして、今後、持続可能な農業技術を構築する上で必要な視点を私たちに提供するものと考えられています。

文/斉藤勝司

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