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日本の伝統文化と科学からみた絶滅危惧種ムラサキ

公開日:2023.9.15

何百年もの間、人々は伝統的に植物に含まれる化合物(ファイトケミカル)を染料、香辛料、医薬品などとして利用してきました。このような天然資源は、社会の脱炭素化に向けた取り組みの中で、合成化合物に代わる天然化合物として注目を集めています。一方、ファイトケミカルの多様性と量を維持するためには、その由来となる植物を保護する必要があります。

ムラサキ科のムラサキは、日本を含む東アジア諸国の豊かな歴史と伝統に深く関わっており、とくに染料や薬用として利用されてきました。たとえば、ムラサキは、飛鳥時代より冠位十二階の最上位の色に代表され、最高位の法衣など高貴な人のみが着用を許された紫色を得る植物であり、同時に、国宝の「国分寺経」の紫紙金字の染色にも使われた特別な天然色素の原料でもありました。

ところが、現在ムラサキは絶滅の危機に瀕しています。また、外来種セイヨウムラサキとの交雑も心配されており、実際に交雑種と疑われる苗が販売されているようです。この問題を放置すれば、日本のムラサキが絶滅する可能性が高まります。

イラスト/坂木浩子

このほど、京都大学やお茶の水大学の研究グループによる、伝統文化と最先端の植物研究の材料としてのムラサキを結びつけた文理融合の記事が、国際学術誌『Plant and Cell Physiology』に掲載されました。

記事では、日本におけるムラサキの歴史的・社会的な意味や、ムラサキに関する最新の科学研究が紹介され、歴史的・文化的に重要な絶滅危惧植物を保全するために、科学と社会がどのように協力できるかが議論されています。今後、ムラサキの科学、保全、文化などに関心をもつ様々な立場の人の間で共通認識が形成されると期待されます。

 

文/保谷彰彦

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