農耕と園藝 online カルチべ

生産から流通まで、
農家によりそうWEBサイト

お役立ちリンク集~カルチペディア~
アグリニュース

第38回 花卉懇談会セミナー 〜園芸植物の生産・管理に活用できるLED照射技術の開発と実装〜

公開日:2023.9.2 更新日: 2023.8.31

去る2023年7月22日、表題のセミナーが東京農業大学世田谷キャンパスにて開催された。昨今、花き生産者にも導入が増えつつあるLED。その実用化を目指して研究を続けてきた東京農業大学・雨木若慶教授と、早くからLED実装で効果を上げてきた座間洋らんセンターの加藤春幸氏の2人を講師として迎え、ZOOMによるリモートも併用したハイブリッド開催となった。

園芸植物へのLED光照射の効果とは?

東京農業大学 農学部 農学科 農業環境学研究室
雨木若慶教授

私はLED補光処理の実用化を目指し、日々研究を重ねてきた。

赤色、青色、緑色などがあるLEDですが、それぞれ光質(光の色)、また、利用する植物によっても効果が異なる。

植物栽培における人工光利用の前提として、その目的で光質重視なのか、あるいは光量重視なのかも変わってくる。例えば、光形態形成反応の制御を期待するならば光質を優先、光合成量不足の補填を期待するならば光量を優先すべき、となる。

LEDが万能と考えている方が多いですが、そうではない。光質によって得られる結果は植物によって様々である。下記、いくつかの実証実験の例を提示してみよう。

例えば、レタスにおいては、青色LEDでは茎の伸長が正常であったのに対し、赤色LEDを用いたところ、茎の伸長が認められた。

植物によっても光質の効果が異なるのもやっかいで、例えばコマツナでは赤色LEDで葉が長く伸びるが、ハクサイでは青色LEDが伸びるといった結果となった。

花きにおいては、ランPLB(PLBはプロトコーム様体(Protocorm Like Body)の略)からの苗生産での培養実験を行ったところ、いずれの属でも青色光域で抑制効果が見られた。ただ、青緑色光照射においてカトレア、シンビジウム、ファレノプシスでは再生の抑制が見られ、青色光照射においてはオンシジウムが再生を抑制された結果であった。

他にはトルコギキョウにおいて、光質電照と温度処理の併用で開花促進実験を行ったところ、無処理のものより8週間開花が早まったという結果となった。冬期寡日照地域での開花促進に有効と言えるだろう。

バラにおいてもLED区とHPS(高圧ナトリウムランプ)区での比較実験において、品質の差は見られなかったものの、LED区の方に増収効果が見られた。

また、赤色LEDがバラのうどんこ病、緑色LEDがイチゴの炭そ病やピーマンの灰色かび病など、病害防除という点からもLED照射が有効という証明がなされており、一部は実用化されていることも今後のLED活用においては注目される。

LED活用における注意点として、以下の項目が挙げられる。

・除熱がうまくできないとすぐ劣化する
・周囲の環境(高温、高湿度)で劣化速度が変化する
・素子は長寿命、しかしランプのプラスチックやその他の資材が劣化すれば不点灯
・ランプ構造により影響は異なるが、素子を封入したプラスチックは高湿度で変形、不点灯となる
・燻蒸などの農薬類、塩類(海水飛散など)は素子を傷めるので注意が必要

LED光源利用に当たっては、LEDの種類の選択や栽培光源か補光光源かなどといった照射方法の検討、配置、価格などの光源設計も重要で、LEDは効果はあるが魔法ではないということを理解していただければと思う。

太陽を買った男 世界を変える農大メソッドの実践

有限会社 座間洋らんセンター 代表取締役
加藤春幸氏

私は神奈川県座間市で洋ラン栽培を手がけている。世界らん展で2回、大賞を受賞するなど現在は評価を得ているが、今までの道のりにはいくつかの逆境があり、険しいものだった。

東京農業大学卒業後、父の跡を継ぎ、この道へ進んだが、最初のピンチは2011年夏。落雷により温室が炎上し、被害額は5000万円にまで上ったこと。修理にこぎつけた矢先の2012年、今度は温室の東面に高層物流センターが建設され、8時〜8時30分の30分の間、太陽光が温室へ当たらなくなり、洋ランの花つきが極端に悪化するピンチに見舞われた。

県へ相談したところ、運よくLEDの実用化を研究されている雨木先生を紹介され、研究に協力しつつ、LEDに期待して温室に取りつけることを決意した。まずはスタンレー電気(株)のLED4個を設置したところ、良い成果が得られ、思い切って240個を設置。LED代と設置工事費などを合わせて800万円の投資となったが国の補助金100万も頼りにして踏み切った。

その後、展示会でCCS(株)に勤める農大時代の先輩に偶然出会ったことをきっかけに、フィリップス社のLEDを大幅導入。光のデッドエリアが解決し、品質向上へとつながり、ピンチをチャンスへと切り替えることができた。

LEDの種類により植物への適性が異なるため注意が必要で、洋ランではスタンレー電気の混合(オレンジ〜白)、植物全般ではフィリップス社の赤+青(紫)が良いことがわかっている。

光の問題を解決できたことで、全国花き品評会など12回の農林水産大臣賞を受賞するなど好調だが、LEDを導入すれば品質向上するわけではなく、よく言われる「ドベネックの桶」のとおりで、光だけではなく、空気や水など、取り巻く他の環境やカルシウム、マグネシウムなどの必要成分のバランスが取れていなければ高品質は実現できない。

現在、役員を勤める日本洋蘭生産協会や全国鉢物類振興プロジェクト協議会などでLEDの普及活動をしており、主にLEDを使って栽培管理をする植物販売イベントや、オフィスの室内緑化を進化させたりといった取り組みに精力的に携わっている。

幾多の試練があったが、その場その場での素晴らしい方々との出会いが解決へと導いてくれた気がする。とくにLEDの指南役としてお世話になった雨木先生や農大の先輩方のおかげで今の自分が存在していると言っても過言ではない。私も後輩の役に立てるよう、業界に貢献していきたいと考えている。

次回の第39回花卉懇談会フォーラムは、「新しい園芸植物の使い方・伝え方」をテーマに2月23日(祝・金)に東京農業大学世田谷キャンパス(ZOOMによる配信も予定)で開催予定です。

 

取材協力・資料提供/花卉懇談会事務局
取材・文/丸山 純

 

この記事をシェア