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【関西 野菜】ロメインレタス

公開日:2023.9.12

カフェ・ラテは今や日本でも普通にコンビニなどでも親しまれるドリンクとなった。

この「ラテ」というのはイタリア語で牛乳を意味する「latte」で、どちらかというと「ラッテ」という発音が近い。正しい表記は「caffé con latte」でコーヒーを牛乳で割った飲み物という意味だ。同じような飲み物にカフェ・オ・レがあるが、こちらはフランス語で「café au lait」と表記され、同じく、コーヒーを牛乳で割った飲み物という意味だ。

ラテン語でミルクあるいはミルク状の分泌液を「lac」と表現するが、どうやらどちらもこれが語源のようだ。

日本でも牛乳や乳製品を作ることを「酪農」と呼び、「ラク」という同じ発音が含まれているが、これもラテン語が起源かと調べてみると、牛乳の加工技術が生まれたのはインドから西アジアの辺りで、ここからヨーロッパにも東アジアにも伝わっていったようで、語源はアジアのようだ。

『農耕と園藝』の読者の方なら「ラクトバチルス」という微生物に耳馴染みがあるかもしれない。これは「乳酸菌」のことで乳酸を作り出す微生物を指すのだが、乳酸という物質は牛乳が酸敗したものから発見されたのでこの名がついた。

実は、これらと同じ語源を持つ野菜がある。それが、今回紹介するロメインレタスをはじめとするレタス類だ。

レタスの葉の切り口から白いミルク状の分泌液が出るのを見たことがないだろうか。葉の根元に近い、白くて硬い部分を切ると切り口からじわーっと白い液がにじみ出てくるのだが、この白い液の正体はラクチュコピクリンというポリフェノールで、レタスが害虫や菌の侵入を防ぐために分泌していると考えられている。

この白いミルク状の分泌液がレタス(lettuce)の語源なのだが、日本語でも古くからレタスのことは「チシャ」と呼ばれており、これは「乳」が出る植物という意味の「乳草」から派生したものだ。偶然なのかはわからないが、言葉も発音も違うのに意味が同じというのは興味深い。

レタスと聞くと、結球した玉レタスを思い浮かべる人が多いと思うが、もともとは結球しないまっすぐに葉が伸びたものが主流で、紀元前6世紀頃には中近東の辺りで栽培されていたようで、紀元前2500年頃のエジプトの文献にも記録されている。

日本にも奈良時代から平安時代頃には伝えられたようで、非結球タイプを1枚ずつ搔き取りながら収穫するので「搔きチシャ」と呼ばれていたようだ。

今回の主役ロメインレタスは「ローマのレタス」という意味で、北アメリカでの呼び名が日本へ入ってきたのだが、このレタスがローマを拠点に西洋へ、そしてアメリカ大陸へと伝わっていったので、このように呼ばれるようになったようだ。他の地域ではコスレタスと呼ばれることが多く、これはギリシアのコス島が発祥の地と考えられているからで、元来のレタスの形状に最も近い。

現在の日本では、玉レタス、サニーレタス、リーフレタスがレタス類のなかでは主流となっているが、葉は比較的やわらかく、切り口から出る白い液もそれほど多くはないが、ロメインレタスは繊維がしっかりとしており、切り口から出る白い液もはっきりとわかるほどだ。

食感も歯切れが良く、サラダだけでなく、炒め物や鍋などに利用してもおいしい。しかし、ロメインレタスと言えばシーザーサラダが定番で、アメリカ合衆国とメキシコの国境付近にあった「シーザーズ・プレイス」というレストランのオーナーであるシーザーによって考案された。

当時のアメリカ合衆国は禁酒法によって飲酒が禁じられていたが、アメリカ西海岸南部のハリウッドで働く人々は国境を越えて、メキシコ北部の歓楽街へと足繁く通っていたらしい。ある年のアメリカ独立記念日の日にありあわせの食材を使って提供されたのがこのサラダで、おいしいと評判となりシーザーサラダと呼ばれるようになった。

やがてハリウッドの芸能関係者の間で噂が広まり、次々とこの店を訪れてはシーザーサラダを食べそのおいしさを本国へと伝えるようになっていき、アメリカ全土で認知されるようになった。このシーザーはイタリア系の移民で、使われていたレタスがローマを通じて西洋からアメリカに伝わったロメインレタスであったため、シーザーサラダと言えばロメインレタスというのが定番となったのだ。

ロメインレタスは前述の通り、レタス類のなかでは日本ではマイナーな部類に入る。スーパーマーケットで見かけることはほとんどなく、外食関係の需要がメインである。

大阪市東部市場に入荷してくるロメインレタスの月別の入荷量を見ると、6〜8月が多く、やはりサラダ商材としての位置づけで、年末のクリスマス需要期も入荷量が増える。

産地構成としては、夏場は長野県産、冬場は兵庫県産と福岡県産がメインとなっている。ロメインレタスを専門に作っているというよりは、レタス類の産地のなかでロメインレタスも作っているという状況である。

流通先は、ほとんどが外食や中食なので入荷量も需要に大きく左右される。過去5年の入荷量を見てみると、コロナ禍の影響を最も受けた2019年から2020年にかけて入荷量が大きく減少している。

一方で、コンビニや外食チェーンなどでメニューに利用されて契約が増えると入荷量が増加することもある。2021年に急増しているのはそのためである。いったん契約されると、メニューから外れても急にいらないというわけにもいかないため、ある程度は入荷量が持続しながら微減していく傾向にある。

単につけ合わせで利用するのであれば、フワッとしたサニーレタスやリーフレタスのほうが少量でもボリューム感が出るのでコストを抑えることができるため、ロメインレタスはシーザーサラダの原料やシャキシャキとした食感を活かしたメニューでの利用が多い。

筆者は個人的にロメインレタスの食感とほろ苦さが好きなので、もっとロメインレタスが流通してくれれば良いのにと思っているのだが、食品全体の値上げラッシュに押されて利用が増えることはなかなか難しいようだ。

著者プロフィール

新開茂樹(しんかい・しげき)
大阪の中央卸売市場の青果卸会社で、野菜や果物を中心に食に関する情報を取り扱っている。
マーケティングやイベントの企画・運営、食育事業や生産者の栽培技術支援等も手掛け、講演や業界誌紙の執筆も多数。

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