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使用後の生分解性マルチフィルムを、速やかに分解する酵素を発見

公開日:2023.11.16

丈夫で、とても軽く、安価に製造できるプラスチックは様々な分野で多用されており、農業も例外ではありません。しかし、近年、環境中に流出したプラスチックが海にまで流れ着き、海洋プラスチックとなって多くの海洋生物を脅かしていることが問題になっています。

そのため環境中に流出しても分解される生分解性プラスチックへの関心が高まり、農業分野では使い捨てにされるマルチフィルムに生分解性プラスチックが利用されるようになっています。使用後、土に鋤き込むことで土壌微生物が分解してくれるため、分解されないマルチフィルムよりも処理の手間がかからないという利点があるものの、市販されている生分解性マルチフィルムは栽培期間中には壊れにくいように調節されいるため、なかなか分解されないと指摘されていました。

イラスト/坂木浩子

そこで農研機構の研究グループは生分解性プラスチックを分解する微生物が持つ酵素を用いて、使用後の生分解性マルチフィルムを速やかに分解できるようにする研究を行いました。その結果、イネの葉や籾に存在するシュードザイマ・アンタークティカと呼ばれる酵母菌が持つ酵素が生分解性プラスチックを分解できることを発見し、その酵素をPaEと名付けました。

一口に生分解性プラスチックといっても素材によって分解される速度に違いがあるものの、実験に用いた3種類の生分解プラスチックをPaE溶液に浸すと、数時間以内に薄くなり、重量が減少することが確かめられました。畑の畝に張った生分解性マルチフィルムにPaE溶液を散布する実験では、翌日にはフィルムの強度が低下し、畑に鋤き込んだ後、圃場から回収したフィルムは、酵素処理を施さなかった場合に比べて大きな断片は減っていました。

すでにPaEを大量生産する技術も開発されており、今後、生分解性マルチフィルムと分解酵素を組み合わせた栽培方法が開発され、広く普及していけば、圃場から流出したマルチフィルムが自然界に滞留するのを抑えることができるでしょう。

文/斉藤勝司

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