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【関西 果実】紀の川柿

公開日:2023.11.30

「秋の味覚」と聞いて、読者の皆さんは何を思い浮かべるだろうか。筆者はキノコ類、クリ、サンマあたりが頭に浮かぶ。

キノコ類だとシイタケやエノキなどは年中手に入るが、マツタケやヒラタケなどは秋ならではという感じがする。クリやサンマも最低でも年に一度くらいは食べておきたいなと思う食材だ。

「秋の味覚」と聞いて真っ先に頭に浮かぶわけではないのだが、「これを見ると秋を感じる」という食材もあって、筆者にとっては果物のカキがそんな食材だ。

カキの生産量の上位2県は和歌山県と奈良県で、この2県で全国の3分の1以上を占めている。大阪に住んでいると近隣にカキの大産地があるだけでなく、地元でも庭や山や空地にあったからだと思うが、筆者が子供の頃はカキと言えば買うものではなく、自然になっているものか、人からいただくものだった。

学校帰りに寄り道をして、ちょっとした小山に登ったりするのが好きだったが、秋になるとカキがたわわに実っていて、あるときそれをもぎ取り、一口かじると口の中に広がったのは、あのおいしいカキの甘味ではなく何とも表現のしがたい不快感だった。これを「渋み」と呼ぶのだと知ったのは、その話を家に帰って親にしたときだ。

それ以来、カキを見ると思い出してしまうので、子供の頃はカキを食べることを躊躇していた。

ご存じのとおり、カキには甘柿と渋柿があって、カキの渋の正体は「カキタンニン」と呼ばれるポリフェノールの一種で甘柿にも含まれている。しかし甘柿は実の熟成とともにタンニンの生成が止まるので、収穫時には薄まっておりそのままでも食べられるのだが、渋柿ではタンニンが生成され続けるので渋抜きをしないと食べられないのだ。

渋が抜けるメカニズムは簡単で、カキタンニンはそのままだと水溶性なので口のなかに入れると唾液に溶け出して渋みを感じるのだが、これが他の物質と結合して水に溶けない不溶性タンニンに変化すると口のなかに入れても渋みを感じなくなる。

タンニンを不溶性に変える物質というのはアセトアルデヒド。これを作り出すために何種類かの脱渋方法があるのだ。

アルコールと一緒に密閉容器に渋柿を入れておくとアルコールは酸化してアセトアルデヒドになるので、タンニンと結合して渋が抜ける。昔は渋柿を入れた樽のなかに焼酎をかけまわして渋抜きをしたものだ。

他には呼吸を止める方法がある。密閉容器のなかにドライアイスを入れると昇華したドライアイス、つまり二酸化炭素が充満して渋柿は酸素呼吸ができなくなる。酸素が不足すると、糖を分解してエネルギーを作りだす過程で不具合が起こり、ピルビン酸という物質が分解されずにアセトアルデヒドになるため、渋が抜けるというわけだ。

干し柿も同じメカニズムを利用している。干し柿を作るときは必ず皮をむくのだが、皮をむいた渋柿は表面に被膜ができるため呼吸ができなくなり、同じく渋が抜ける。

このメカニズムがわかっていれば渋を抜く方法も思いつくだろう。カキは縄文時代頃から食べられていたようだが、昔の人は理由はわからないが、こうすれば渋が抜けて甘いカキが食べられるということを何かの拍子に発見して実践していたわけだから脱帽である。

そんななかに、こだわりの脱渋方法で生産されるカキが存在する。一般的には収穫した後の渋柿をアルコールや炭酸ガスで脱渋して出荷するのだが、樹上にカキの実がなった状態で1個ずつ袋がけをして固形のアルコールを入れて脱渋し、樹上完熟して糖度を高くする『紀の川柿』だ。

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