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植物に作用する化合物を探索する新しい手法を開発

公開日:2024.1.3 更新日: 2023.12.19

温帯域よりも北に分布する植物は、枯死しない程度の寒さに曝されると、次に遭遇する寒さに対する耐性を獲得することが知られており、この現象は「低温馴化」と呼ばれています。もし低温馴化が起こる詳しいメカニズムが明らかになれば、低温馴化をもたらす化合物を利用して、最初の寒さに曝される前に低温馴化を誘導して、寒さで農作物が枯れたり、樹勢が弱まったりするのを防げるようになるかもしれません。

しかし、植物の葉の表面は物質が透過しにくいクチクラ層で覆われ、成長すると植物体が大きくなるため、低温馴化のような生命現象に関わる化合物を見つけることは難しくなります。従来、植物細胞で働く化合物の探索には発芽直後の未熟な植物が用いられてきましたが、植物の一生を考えると、発芽直後のわずかな間より、成熟してからのほうがはるかに長くなります。

宮崎大学農学部の研究グループは成熟した植物を用いる新しい実験手法を考案して、低温馴化に関わる化合物の探索に取り組みました。

イラスト/坂木浩子

まず低温に反応して働く遺伝子COR154を調整する遺伝子領域(プロモーター領域)とホタルの発光に関わる酵素ルシフェラーゼの遺伝子を融合して、低温に曝されると発光するシロイヌナズナを作りました。

次に、このシロイヌナズナの本葉に約500種類の化合物を与えて、個々の化合物で反応がどう変化するかを調べました。低温に曝した時、シロイヌナズナの本葉が発光するか、逆に発光が抑えられるかにより、低温馴化を促す化合物か、阻害する化合物かが明らかになるというわけです。

こうした実験を行った結果、低温への反応を強力に阻害する物質が、「1,4⁻ナフトキノン誘導体」に分類される化合物であることを明らかになりました。そして実際にこれらの物質が低温馴化能力を低下させることも確かめました。

今回の研究では低温馴化に関わる化合物の探索が行われましたが、成熟したシロイヌナズナを用いて植物の生命現象に関わる化合物を見つけられたのですから、今後、様々な生命現象の解明に役立てることができるでしょう。そして明らかになった生命現象を応用して、農作物の生育に良い影響を与える薬剤の開発にも役立てられると考えられています。

文/斉藤勝司

 

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