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解読が困難とされる栽培カキの、全ゲノムを高精度に解読することに成功

公開日:2024.2.9

“生命の設計図”とされるゲノムの解読は、生命現象を解き明かす上で重要な情報になるだけでなく、園芸作物の場合、有用な品種を育成する上でも欠かせない情報になります。近年は遺伝子を解読する技術が向上して、様々な園芸作物のゲノム解読が進められていますが、カキに関してはゲノム解読を難しくする問題がありました。

人間を含む多くの生物は、2セットのゲノムを持つ2倍体であるのに対して、人の手で栽培される作物の中には、ゲノムのセットを複数持つ倍数体が多く存在します。栽培柿もそうした倍数体の一つで、ゲノムを6セット持つ6倍体であるため、ゲノム解読が極めて難しいと考えられてきました。それでも岡山大学、かずさDNA研究所、農研機構の研究グループは解読に取り組み、この程、栽培柿の主要品種の「太秋」の全ゲノム情報を高精度に解読することに成功したと発表しました。

ゲノム解読によって得られたDNAの配列情報を詳しく解析した結果、栽培柿が二倍体の近縁野生種であるマメガキやアブラガキと約400~250万年前に分岐したことや、六倍体になったのが約150~200万年前であることが明らかになりました。二倍体のカキでは雄株、雌株が存在するのに対して、栽培柿では性別を決める染色体(性染色体)が壊れているため同一の樹の中に雄花、雌花、両性花が混ざって咲くことが知られていましたが、性染色体が壊れたのも六倍体化したのとほぼ同時期であることも分かりました。

栽培柿品種群に見られる多様な果実形状。画像提供:岡山大学大学院環境生命科学研究科(農) 赤木剛士教授

また、栽培柿の果実は形が非常に多様で、長細いもの、平たいもの、側面に溝があるもの、フタのような構造があるものなの、品種によって様々です。同じ種類で、これほど多様な形の果実がなる農作物は珍しく、遺伝的な背景が明らかになれば、今後、育種に取り組む上で重要な情報になるはずです。そこで研究グループは過去に解読された栽培柿のゲノムデータを用いて、果実の形状を含む栽培柿の特徴に関連する遺伝子領域を調べました。その結果、果実の形だけでなく、甘柿か、渋柿かを決める遺伝子群が存在する領域が特定されました。

こうして栽培柿が持つ性別や形状に関する遺伝的な背景が明らかになったことで、解読したゲノム情報を活用することにより、栽培柿の他の特徴についても遺伝的な解析が可能になると期待されています。

文/斉藤勝司

プレスリリース:栽培柿の高精度全ゲノム解読 ~果実や性別の進化を解明 https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id1111.html

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